01.敷地背景
敷地は埼玉県川越市。年間600万人を超える観光客が訪れる観光都市である。江戸時代には親藩・譜代の川越藩の城下町として栄えた都市で、「小江戸」(こえど)の別名を持つ。城跡・神社・寺院・旧跡・歴史的建造物が多く、文化財の数では関東地方で神奈川県鎌倉市、栃木県日光市に次ぐ。歴史まちづくり法により、国から「歴史都市」に認定されている。これは埼玉県内唯一の認定である。戦災や震災を免れたため歴史的な街並が残っており、海外の旅行ガイドブックに紹介されることも多く、最近では外国人旅行者が多い。
2008年に東京メトロ副都心線、2013年に東急東横線がそれぞれ開通され交通インフラが発達したことによって池袋・新宿・渋谷といった都内からのアクセスが非常に便利になり、観光地としてはもちろん住居地としての魅力があり、今後観光客・住民が共に増えていくだろう。
02.川越のシンボルと祭りの存在
現在の川越のシンボルは『時の鐘』である。伝建地区のメインストリートのほぼ中央のあたりに位置している。約400年前に川越の藩主であった酒井忠勝によって創建され、以来度重なる火災で鐘楼や銅鐘が焼失したが江戸時代を通じて度々建て替えられながら守り続けられ、現在建っているのは4代目である。木造の3層のやぐらで高さが16.3m。今も昔と変わらず川越の人々に時を告げている。その美しい音色は平成8年に環境省の「残したい音風景100選」に認定された。
川越祭りは現在10月の第3土曜日と日曜日に行われている、川越最大のイベントである。常陸國總社宮大祭・佐原の大祭とともに関東三大祭りの一つでもある。
特徴としては江戸と川越の職人によって完成した華麗な江戸系川越型山車が数多く登場することと山車と山車が対峙した時に行う『曳っかわせ』である。『曳っかわせ』とは山車が四つ角等で他の町の山車と出会うとお互いに囃子台の正面をむけ、お囃子を競い合うことである。現在、川越祭りに使われている山車は29基あり、毎年各町が山車を出すと意思表示をし参加する。
03.問題定義
川越市が提唱している「小江戸」エリアは駅から少々遠く、訪れる観光客の大半は川越駅もしくは本川越駅からバスを利用して蔵造りの町並み・一番街周辺エリアに向かう。そのために、その間の観光地や、蔵造りの町並み・一番街周辺エリアより北や東の観光地に訪れることなくバスの通っているエリアしか訪れないケースが多い。現在、川越市が提唱している観光地エリアは大きく4つに分類されている。観光地エリア内には大きな観光スポットが2、3箇所ピンポイントに点在しているだけである。さらに、これらの観光スポット同士のつながりはとても薄い。なぜなら川越には駅周辺に観光客用のパンフレットを置くスペースがあるだけで大きな観光案内所がなく、一番有名な伝統的建造物群保存地区にだけしか足を運ばない観光客が多いからであると考える。
04.設計手法
現在、存在する一般的な観光案内所の特徴として
・わかりにくいファサードや立地により、観光客のために作られたのに観光客が利用しないケースがある。
・観光案内所で得られる情報が少なく、特に海外からの観光客はインターネットから得られる情報に頼らざるを得ない。
・地元住民の利用できる機能が入っておらず、その土地に建っているにもかかわらず利用頻度に乏しい。
の3点が挙げられる。そこで提案する新しい観光案内所は
・他の建物にまぎれても存在がわかりやすいファサード。
・その方向の先にどんな観光地が広がっているかを明確に提示し、そこまでの経路などといった情報を提供する。
・近隣の観光地情報なども提供し、1度だけでなく何度も訪れるリピーターを増やす。
・地元住民も利用可能な施設(貸し出し可能な会議室や多目的ホール・自由に利用できるオープンラウンジや書籍閲覧コーナー)を付属させる。
という4点を重点的に考えた。
05.ダイアグラム
<空間ダイアグラム>
家型の屋根の下に生まれる独特な空間・軒下は昔ながらの空間を表しておりそこに落ち着いた空間を提供している。そんな空間をいろんな種の屋根を用いて建物の中へと取り入れていく。
<プログラムダイアグラム>
<ファサードダイアグラム>
3種類の屋根の形式を用いることで、空間に変化をもたらす。さらに所々のポイントで屋根を飛び出させることによって、内部と外部の両方に存在感を出す。
<断面ダイアグラム>
観光案内所を形成する2つの機能(展示スペース・貸し出しスペース)を混在させ、その上に宿泊機能を入れる。上層部に存在することによって高い位置から川越の観光地や町並みを一望できる。
<高さ比較>
右から順に山車・時の鐘・観光案内所である。山車の常設展示場があるため下層の高さは山車スパンで考えた。現在のシンボルである時の鐘を考慮して上層部(7~10層目)の高さを同じ16.3mにしてある。
06.終わりに
観光客のためだけではなく地元民のためにもなるのが本来の観光案内所のカタチなのではないだろうか。この卒業設計を通じて、従来の観光客だけを相手にしている観光案内所がよりよいものになることを願う。