■都市への「スキマ」を考える -滞留空間の創出-
現在、都心に近い都市の多くが、インフラ沿いに建物が高密度で建てられ街が形成されている。周辺に公園などの場は少なく、閉ざされているために滞留することのできる空間が少ない。滞留空間の消失は人々の交流の機会を減らすことに繋がると考えている。この提案では街の中心部に、商店街と駅、公共的な場の統合により滞留空間を生み出す。
様々な場所が集積する都市において、場所と場所の間に存在しうる都市の「スキマ」は、滞留空間がなくなりつつある都市空間において人々の拠り所となる場所になる力を持った場ではないだろうか。このような場は公共性を持った場とも言うことができるのではないかと考えている。
■下高井戸という街への「スキマ」
-公共的な場としての商店街の再構築-
今回の敷地となる下高井戸という街も、建物が密集した都市といえる場所である。下高井戸商店街は東京都世田谷区に位置する下高井戸駅を中心に伸びる商店街である。現在この商店街は地平を走る京王線によって中心部を境に南北に隔てられているが、路線自体は8年後に高架化が予定されている。
かつてこの街の商店街は人々の交流の場である生鮮市場を中心として発展してきた。しかしこの街のルーツである生鮮市場は衰退し、南北に分離された商店街において北部に僅かに残るのみである。
元来、個店の集まりである商店街の目的は、個店集積のメリットを活かしてさまざまな財・サービスを住民に提供することであるが、副次的に地域コミュニティの形成にも寄与してきた。そのような側面からみると、商店街という場所は公共的な場であるといえる。
特に交流の場としての市場という系譜を持つ生鮮食品店は、チェーン店が増えていく現状の中で商店街にとって基盤となる貴重な存在である。
この元来の商店街としての場を、街の中心である駅の高架化という節目において再生しつつ、下高井戸の街へ「スキマ」をつくりだす。
■「スキマ」の操作
場と場の間に生まれる「スキマ」。このような場所は様々な場、機能が集積する場所に発生しやすいと考える。この場所には大きいものから小さいものまで、様々なスケールの「スキマ」が、それぞれ役割を持って散りばめられている。
一例として一番街の中心となる「スキマ」について説明する。商店街の中でも日常的に人々が訪れる生鮮食品店をこの「スキマ」のまわりに配置し、商店街にかつて存在していた交流の場としての市場空間を再構築する。
そこにマクロな動きを持つ鉄道駅や上層の公共施設の人の動きやひとつの空間の中で交わり、街の中心にあたたかみをもつ「スキマ」が生まれる。
生鮮食品の店舗に限らず、下層部分には既存の商店街店舗が配置される。従来の駅ビルがもたらす地元商店街との対立構造を誘発するのではなく、ここでは商店街が駅などの公共空間に入り込んでくるような場を意識して設計した。下層の商店街に、上層から公共的な機能が枝状に伸びてくる操作をしている。
枝状に下層の商店街へ伸びてきた公共空間は、接続点である「スキマ」に設けられた上下動線からつながっている。どこからでも駅に入れるような、例えるならば出入口の多い地下駅を反転させたような人の動きが生まれる。
下高井戸という街へ、商店街とも駅の一部とも取れるような場所に人々の拠り所を作ることによって、昔の市場が持っていた人々の滞留の場をつくりだす。
それらの場の存在は、人々の喧騒がありながらも街の活気というものに触れながら滞在できるような、都市化されてしまったこの街にはなくなった場を再び人々に与えることになる。