1.問題意識
1−1湾岸の現状
湾岸に人々は非日常な空間を求めてやってくる。その際 ではそこに居住する人々の日常が存在している。点的な 開発が進み、点的な暮らしが民間中心の宅地開発により 強いられている。針をさしたようにマンションが乱立す ることで、地域としての関係性の希薄さが大きな問題と してある。
1−2非日常と日常の関わりかた
湾岸では非日常を提供する場として、大型商業施設がつ くられている。内部空間に非日常的なものを集約させて いるのだ。同じく、日常であるタワーマンションにも現 在、ある程度の生活に必要な空間は内包されつつある。 せっかく、周辺環境や周辺施設は整備され、巨大な面と して利用できるポテンシャルを持っていながら利用でき ていない。そんなバーチャル的に集約された非日常空間 と日常空間の2つで成立している街は、点としての暮ら しをさらに助長させ全体として無菌な街をつくりあげ ているのだ。
1−3解決方法
問題意識に対する解決方法として、「都心に住む」と いう日常を再建する。湾岸において日常空間とは非日常 的に存在するものなのではないか。住む人にとって日常 だが、来る人にとっては非日常。住む人にとっては非日 常だが、来る人にとっては日常。そんな空間が織り込ま れていくことで、新たな出会いや新たな暮らしが成立し ていき、点的だった暮らしが面的に融解していくに違い ない。
2.対象敷地
2−1敷地全体像
東京都江東区塩浜。東京都港湾局港湾線(貨物線)跡地 である。1989年に貨物線が廃止されて以降そのままのかたちを残す停滞した土地である。この地域にはマンションが多い。ニューファミリーが住み着くここ一体では街にコミュニティがみえてこない。点的な開発に対してこの残余空間の大きさと長さは可能性をもつ。
2−2敷地の特徴
貨物線が通っていたゆえの特徴として大きく2つあげられる。1つめは、時代を通して、周辺スケールに影響されることなく高さが押さえられてきた場所であること。2つめは、人々の生活の裏をひっそりと通っていた線路は廃線となったあとも建物が背中を向ける都市の裏ヴォイドとして存在していることだ。問題解決にあたり、この2点がポイントになり、前者としては、高層化が進むなかでの低層残余空間としての可能性を秘めており、周辺のスーパースケールに対する人的スケールのデザインを享受でき、スケールの矯正に携われると考えられる。後者としては、表は完全に内包されてしまっているなかで、裏を利用した新たなコミュニティ形成が可能であり、人が無意識的に出向くような空間、周りの施設を補完していくような空間を計画することが必要だと分かる。
2−3今回計画する敷地
北をマンション・老人ホーム。東を住宅地。西を首都高速・空き地。南を保育園・運河に面する敷地である。
3.建築計画
3−1コンセプトダイアグラム
敷地に面する集合住宅、保育園、老人ホームなどからの機能及び地域に存在する店舗が敷地に小さな塊として入ってくることで短手方向の平面がデザインされる。それが断面的に噛み合わさっていくことで長手方向に関係がうまれていく。短手・長手方向に設けられた日常空間を補完している場。その間に生じる新たな関係性はこの地域の縮図であり、適度なヒエラルキーをもちつつ非日常的な日常を生んでいく。
3−2ダイアグラム
操作1として、人的スケールとしての家型としてのかたちの集積を考える。その家型ひとつひとつに日常を補完するプログラムを埋め込んでいく。 操作2として、それぞれを隙間を持たせ羅列していく。 操作3として、その隙間に屋根をかけることで猥雑性をデザインするとともに、その間で様々なディスプログラミングが行われていく。
4.結
この建築を敷地全体に広げていくことで、周辺建築の意思の弱い建ち方のなかで、ある場所性をもっていく。様々な日常を補完するプログラムが入っていくことでより強く、都市のスキンとなりえる。結果、歩いて暮らす猥雑性をもった裏庭的空間を非日常的なものとして確立する。希薄な関係性は融解し、面のなかで混ざっていく。