研究の目的と背景
2011年、築地市場の豊洲移転が都市計画法に基づき決定した。これは全国的に中央卸売市場が再整備を求められていることが背景にある。(卸売市場法 第四条―第六条 )その問題点として、施設の老朽化・狭隘化が進んでいて危険であるということと、ライフスタイルの変化に伴う消費需要の低下、スーパーマーケットの大規模進出によって安定供給が主流になり、かつて物流ネットワークの中心であった中央卸売市場の価格決定権が次第になくなりつつあることがあげられる。築地場外市場では、卸売市場に寄生する形で人・物・空間・地理・機能等のネットワークが形成されているが、卸売市場が移転したときに更新は免れず、今までの関係は保てないだろう。しかし、日本文化にとっては残すべきものであり、保存のためには街のアイデンティティと新たな経済戦略が必要となってくる。本研究では、現地調査、住民へのアンケートを行い、築地が抱える問題点を正確に把握した上で、今後、築地の将来計画に関わる方面の専門家が共有し、活用できる有用な知見としてまとめることと、築地場外市場に、周囲に影響を受ける共通の更新システムにより、環境ネットワークを形成することで街に新たな価値を与えるような一つのモデルを提示することを目的とする。
研究の方法
研究対象は築地4丁目及び6丁目の「築地場外市場」と呼ばれる一帯とする。本論では以下1~4の順に分析・論考を進める。はじめに、1.フィールドワークによって、街の表層に表れている物理的構造を把握する。2.過去の地理情報と比較することで、街がどのように変容し、現在の街に何を痕跡として残しているかを分析する。3.中央卸売市場の機能と場外市場との関係性を調べることで、中央卸売市場という都市機能が街にどのように影響を及ぼしたのかを分析する。4.場外市場の建物利用者に対してアンケート調査を行い、場外市場を利用する店舗や生活を営む住民の意見から問題点を把握し、設計の指針を確立する。設計提案ではこれら調査項目から更新の方法を決定し、立地や歴史を踏まえた上で新たな新場外市場を提案する。
特徴と問題点からくる設計の指針
(1)物流動線の再構築
晴海通り沿いにトラックやターレットトラックのプールほ配置する。また、車両の入り口と出口を設定することで交通計画をする。
(2)屋根
屋根によって商店街が一体となっているが、アーケードは建物の更新を妨げる要因にもなりえる。アーケードではなく、個々人の仮設屋根で十分商店街らしさは出ると感じた。
(3)海、水辺空間
中央区の計画の水路を引き延ばす。また水辺空間を住居に引き込む。
(4)上層階の利用
二階を開放し、空間利用率を高める。
(5)路地の保存
3エリアで違う性格の路地を保存する。
(6)若者の誘致
積極的に周辺の町と連続させ、機能を増やす。
(7)住むまちとしての築地
上層階に住居を配置して職住近接のまちをつくり、そのための居住性の高さを実現する。
(8)対老朽化・防火
空き、緑地、書庫の壁によって建物密集地の耐火性能を高める。
(9)土地との無縁性
積極的に職住近接の生活ができるシステムとして、住居に接する図書館が私設図書館となる。
(10)十分な駐車場
物流動線の変化によって使えない駐車場は用途転向し、さらに立体的な駐車場を造る。
(11)新しい機能
分散型図書館として利用することで商店街の空間特性を活用し、今後の情報発信施設という展開を許容する。居住性能を高める機能を付加させるように配置する。
設計手法
場外市場全体としてネットワークができるよう、端点が開かれた論理で個々の建築を考える
以下、プレゼンテーションボード
結論
場外市場で生活する人々は卸売市場の移転をとても深刻な問題だと思いつつも自分たちの手ではどうしようもないという意識がある。それは卸売市場の移転後の方針は日を追って具体化していくのに対し、場外市場のための方策は後れを取っているとしか言えない状態であるためである。アンケートやフィールドワーク、歴史的経緯などを踏まえ、それらを連動させることで築地場外市場で生活する上での問題点や求める将来像をより確実に引き出すことができたと思う。ただ、これからどのようなテナント、事業を誘致するのかといった問題まで踏み込むことができなかった。仮に今後、築地場外市場を再整備するならば、本研究で明らかにした知見を主な問題点や動機として利用することができるであろう。また、ほかの地域でこのような整備事業が行われるときも、歴史的、立地的、制度的な観点から多面的にアプローチすることが必要である。この研究では、全国で同じような問題を抱えている場外市場において、昔ながらの商業空間をどのように残していけるかを、サスティナブルネットワークの構築というかたちで一例を示すことができた。