修士2年の大谷です。
先日の修士設計中間発表の内容を掲載します。タイトルは、発表時と若干変わっており、未だ仮のもです。
0 序
0.1 研究の背景と目的
近年のコンピューター技術の発展により、プロダクトや建築の造形として、これまででは実現が不可能であったり困難とされてきた複雑な形態が生成可能となってきている。さらに、同時にレーザーカッターや、3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションの技術も進展し、3次元データを容易に出力し、制作することが可能となった。これにより、コンピューター上での3Dモデリングからその実現に至るまでが一連のプロセスとしてトータルに扱うことができる時代となっている。
このような技術は、どのような造形をも可能にするという造形的な意味での新規性の開拓に対する価値をもたらすだけではなく、木材などの建築材料としては比較的多くの制約をもつ旧素材の新たな使われ方に可能性を示し、素材や構造に対して再発見的な価値をもたらしている。事実、現在デジタルファブリケーションを用いた建築物やパビリオンなどの制作実験において、木材や段ボールなどの安価で加工も容易な素材が用いられている事例が多く見られる。以上のような背景をもとに、本研究では木造仮設劇場をケーススタディとして設計提案を行う。パラメトリックな設計手法による設計プロセスの明確化や迅速化、デジタルファブリケーションによる建築施工の容易性等を実際の設計提案の中で明らかにし、最新技術と安価な旧素材の組合せによる現代における新たな建築のあり方やその設計手法を示すことを目的とする。
0.2 研究の対象
研究対象を、国内外においてデジタルファブリケーションを用いた設計手法が読み取れる作品とする。また、仮設劇場の設計提案を行うにあたり、国内外における仮設劇場も適宜参照する。
0.3 研究の方法
本論は大きく分けて第1章・第2章における研究編と、第3章~第5章における設計編の2編から構成される。研究編においてはアルゴリズミックデザインや仮設劇場に関する文献調査を元にした論考が中心となり、設計編においては実際の設計プロセスの記述を通した論考が中心となる。
1 パラメトリックデザインとデジタルファブリケーション
1.1 パラメトリックデザインと設計プロセス
パラメトリックデザインとは、アルゴリズミックデザインの一部であると捉えることができる。アルゴリズミックデザインとは「要求される課題を解くためのアルゴリズムに基づいて、プログラムを組み、解答としての形態や構成を生成する設計手法」であり、設計プロセスにおいては、アルゴリズム(論理)を構築することで「問題を解く」ことをその役割としている。一方、パラメトリックデザインは、パラメーター(変数)を操作することによって「バリエーションを出す」ことがその役割である。パラメータを設定し、設計の要素を数値化することによって、設計者の意図を越えた膨大なパターンの生成が容易になることで、これまで考えることのできなかった範囲で多様な問題を最適化へと向かわせる活動が可能となることにその意義があるといえる。さらに、設計の思考過程が可視化できるようになり、他者にもその思考過程を共有することが可能になることで、設計プロセスの検証と変更のフィードバックが何度でも行えることになる。これは、単なる設計過程の効率化という意味だけに留まらず、総体的理解が可能となることによって、その最適化や新たなパラメータの探索へと向かうことができることを意味する。これにより、建築を検討する範囲が拡大され、何が新たなパラメータたり得るかを考案することによって建築に新たな姿へと発展し得る可能性を与えることにパラメトリックデザインの価値がある。
1.2 デジタルファブリケーションと建築生産
コンピュータ上での3Dモデリング やアルゴリズムの構築技術がどれほど進歩しようとも、それを実現する技術の発展が無ければその恩恵は建築には与えられない。仮想空間と実空間を結びつける技術がレーザーカッターやCNCマシン、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーションと呼ばれる工作機器である。これらの機器の発展により、容易に精巧な部材をうみだすことが可能となり、3Dオブジェクトを直接出力することさえも可能となった。これは、規格化や合理化の追求による大量生産の圧倒的優位をも揺るがす意味を持つといえる。しかし、デジタルファブリケーションがもつ意義は、「形態を実現すること」にあるだけではなく、デザインと施工の間の垣根を取り払い、それら一連のプロセスを可逆的に統合的に扱えるこによる相互作用的な設計を可能にしたことや、FabLabなどの出現によって一般市民に向けたデザイン+エンジニアリングの民主化が進んだという点にも及び、単に便利なツールが増えているという意味以上の影響を及ぼしている。