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知覚に作用する空間の分類から導く設計手法論に関する研究

― 光の芸術家ジェームズ・タレルの作品を対象として ―

B4の赤城です。春学期に行った研究について掲載させていただきます。

1-1 研究の背景

昨今では、世界中で建築の光環境は均質化している。日本の伝統的の空間には谷崎潤一郎を用いた「陰翳礼讃」の伝統美があるが、一方で現代の日本建築において陰翳礼讃は姿を消し始めている。

 照明器具構造形式特徴光環境
西洋シャンデリア煉瓦・ 石造高いところに小さな窓部屋全体に光が行き渡らない為、室内の明暗差が大きい
日本行燈・提灯木造大きな間戸光が拡散し、室内の明暗差は小さい

 表1 西洋と日本の比較

西洋と日本においては古来から光に対する意識の差が挙げられる。

明と暗の差がくっきりとしている光環境に慣れている西洋人は、暗闇を取り払い、部屋全体を均一に明るくすることに違和感を感じなかった。

反対に、全体的にぼやけた光環境が一般的だった日本人にとって、暗闇をすべて明るく照らしてしまうことは、本来ならば生まれていたであろう緩やかな光の変化を無くしてしまい、物の見え方や部屋の雰囲気が変わってしまうため避けたことがわかる。

1-2 研究の位置づけおよび目的

上記の研究背景を踏まえて、光を主題にした建築作品は多く、それらを基に行われてい先行研究は数多く存在している。(既往研究例:ルイス・カーンの建築空間構築術の究明 : カーンの考える構造と光の関係性を基にして(意匠論・設計(2),建築歴史・意匠))一方で、影の空間体験や設計手法論は未だ論考として目にすることが少ない。

 そこで、光と影の意匠表現や空間体験に目を向け、人間の知覚に対してどのような働きかけをするのかを追求する。それらの設計手法を記述することによって、新たな手法論の確立を目指す。

1-3 研究の方法

知覚学を通じた光に対する関心を持ち、芸術家としては規格外なスケールの作品を残した、アメリカ現代美術界を代表する作家ジェームズ・タレルにヒントの事例を対象とする。彼の作品や、言説から見受けられる意思から知覚に作用する空間体験の研究を行う。

第2章 ジェームズタレルについて         

2-1 タレルの経歴

カリフォルニア州ロサンゼルス生まれのジェームズタレルは、1965年にポモナカレッジでは知覚心理学で学士号を取得。その後、天文学と地質学、数学を学びカリフォルニア大学アーバイン校大学院で芸術研究を行い、1973年にはクレアモント大学院大学で芸術修士号を取得している。

第3章 ジェームズタレルの事例分析         

ここでは、タレルの事例を、知覚を引き起こす現象ごとに分類し、それらの空間についての分析及び記述を行う。

3-1 暗順応 「面色」

 暗順応では、視細胞中錐体細胞から桿体細胞へ活動の中心が移動する。ほとんど光のない場所で暗順応が進むことによって、網膜が広域からどれだけ小さな情報でも拾おうとする。ごく僅かな光を我々の中から生じさせ鑑賞させている。


1)ウェッジワーク                                     

図3-1①             図3-1②             

ウェッジワークでは、室内を二分するウェッジ型に処理された仕切り壁から空間へと溢れ出る光によって、鑑賞者はもう一つの空間が存在していることを認識する。この空間は、飛行中に視界が急激に変化する現象であるウェッジング体験をもとに作られており、空中の微粒子と光のみで空間を体験できる仕組みだとタレルは述べている。

 鑑賞者が作品内に滞在した瞬間から、体験の時間が経つほどに空間がより鮮明に見えてくるわけだが、タレル箱の作品では異なる要素を感知させるための仕掛けとして暗順応を利用していることがわかる。

    2)ブラインド・サイト        

図3-1③             図3-1④

 ブラインドサイトでは、暗く長い通路を進み作品内へと鑑賞の場を移すと、そこから15分から20分程度の時間をかけて鑑賞者に白い光を見てもらう作品だ。非常に暗い鑑賞空間の中で長時間滞在していることも相まって最大化されている知覚によって、空間内の僅かな変化や現象を感じ取ることを目的としている。暗順応と語って仕舞えば簡単かもしれないが、極端な暗さの中で長時間滞在させられる恐怖感や不安といった感情も、作品の感度を高める一つの手段として存在しているように感じられる作品である。

3-2 外在化 「平面色」

 外在化は、鑑賞スペースに入った先の矩形平面を鑑賞し、違和感からくり抜かれている窓に気づくことで発生する。外部環境も展示の一部として作品を展開している為、鑑賞対象は室内から外に向かう。                   

 図3-2

  1)スカイ・スペース  

             図3-2①         図3-2②          

スカイスペースは屋根をくり抜いて天窓を作ったストラクチュラル・カットに由来した作品である。天井な大きな開口が特徴で、天井部分の厚みを一切感じさせないような鋭いエッジのフレームによって、開口部と空が同一平面上に感じられる仕組みである。ピクチャーウィンドウを天井部に施したような作品だ。室内の僅かな光源は鑑賞者の視界には入らないが、刻一刻と変化する天空の様子を感じる小さな鑑賞空間内では、僅かな光のせめぎ合いがより鑑賞者に圧巻の作品を提供している。

 2)ローデン・クレーター                         

        図3-2③

ローデンクレーターでは、直線に囲まれた空間よりも曲線の方が近くを集中させやすいと学んだことにより新たに着手した作品だ。スタジアムのような曲線の造形を良しとする中で、天空にドーム状で地表が窪んだように見える視覚現象を考えた結果、自然現象として発生した火山の噴火口を作品のロケーションとしている、

 この作品では、得意とする外在化の対象を宇宙にまで飛ばしている。丸天井や楕円球を巧みに用いることによって、さらに視覚経験を充実させることで、日常的には最も遠いとされている宇宙も身近に触れることのできる対象になるとしている。

3-3 全体野 「空間色」

 感覚を遮断し、光に包まれることによって全体野の状態に置かれる。体験者は全身を光に包まれることによって、距離感の失われた浮遊状態の光の空間を旅する。

  図3-3        

  1)ヘヴィー・ウォーター                               

図3-3①             図3-3②            

ヘヴィーウォーターでは、空間中央の天井から水面下までおりてきているキューブの水面下から、僅かに光が漏れ出したいることによって、中央部へと意識が集中していく作品だ。

実際に中央のキューブに入ると、その後はスカイ・スペースと同じ仕組みで空へと意識が一瞬で向く体験をすることとなる。光によって意識を集中させられてから、一気に意識の対象が移行する瞬間の快感を味わえるのは、抱擁と外在化を組み合わせた高度な操作による集大成の作品である。

  2)ガスワークス                                       

図3-3③             図3-3④              

ガスワークスでは、これまでの作品とは異なり、鑑賞者を一人に絞りパーソナルな体験の場を鑑賞空間としている。しかも体全体が鑑賞空間に入るわけではなく、球体の中に仰向けのまま頭部だけ侵入することで、一人で没頭することのできる空間体験の作品だ。

 球体は直径約60センチで、球体の内部へ場所を移した鑑賞者は、継ぎ目のない球体内部の中央に位置すると、空間内部を把握しようとするも手がかりの一切ない状態になる。

第4章 タレルの光の操作から                                 

3要素の操作の差異

1)暗順応

 暗順応を目指した空間では、設計手法としての操作よりは光の操作が大きいため、これといった大きな特徴が作品ごとに共通しているわけではない。一方で、長い通路を通って鑑賞空間に入り込んでいく、だったり、壁から柔らかく溢れ出す光、というものは、日本の伝統美と深く共通する要素がある。タレルは日本の陰影に美を感じ、障子から差し込む光や襖から溢れ出す光に強く魅力を感じたと言葉に残しているように、暗順応を起こす空間を体感的に心地の良い空間としていたのだと考えられる。

2)外在化

 外在化では大きな特徴として、鋭いウェッジのフレームや、大きな開口率が挙げられる。そこで、外在化の例として挙げられた、スカイ・スペースとヘヴィー・ウォーターのキューブと開口の寸法についての分析を進めた。

 寸法割合
ヘヴィーウォーター3.57m/5.57m64.0%
スカイ・スペース3.65m/7.3150.0%

以上からもよくわかるように、外在化を目標としている作品では、寸法で捉えると天井の50%以上の非常に大きな開口を設けていることがわかる。

どちらの作品にも共通していることとしてもう一つ重要視されていることは、鑑賞空間内での光源の主張は極めて小さいと言う点である。光源を僅かにしておくことで、外への意識の転送を一瞬で行うことを可能とし、視界の中では一切影響を与えないよう工夫が凝らされている。光源、つまり照明は開口に対して対照的な場所である足元にしつらえることが、開口に続き隠れた特徴の一つだと考えられる。

3)全体野

全体野の状態になる作品では、小さな入り口と小さな球体の干渉空間が特徴として取り上げられる。実際に、先に述べたガス・ワークス以外にももう一つ、テレフォンブースと言う作品があるが、こちらも直径50センチの球体に頭を入れることで没入空間を作り上げている。

作品内に体全体を入れない理由としては、鑑賞対象に自身の体すらも含めない方が良しとしたのではないかと考えられる。実際に50~60センチの球体に頭を入れてみると非常に圧迫される印象を受けるが、そこに関してはタレルが得意とした光の操作によって無限の空間を作り上げているのだ。

小さな空間を時間から解放され、広がりを無限に感じさせるような空間へと昇華するのがタレルの強い目的として感じられる。

第5章 終章                                                                    

5-1 総括

以上から、知覚に作用する空間を設計する際に、大きな開口、暗く長い通路、小さな空間など目的とする知覚ごとに何かしらの設計手法がなされていたことがわかる。 タレルのスカイ・スペースシリーズでは大きな開口から空を眺めるという行為が人によって違う感想を抱こうとも、心地の良い空間になっているに違いない。ガス・ワークスやテレフォンブースのような非日常的な体験を行う際には一人ずつのパーソナルな体験が最も有効な手段なのだ。

5-2 今後の展望

抗うためにも本研究によって、一般的な住宅設計をする際にも居心地の良い空間を作るにあたり設計手法論が僅かながら見えたように思う。

自身が行為を想像して空間設計をする際に、本研究は非常に有効な手立てになると考えている。

新型コロナウイルスが蔓延する現代の社会情勢下で、ワークプレイスの移転、おうち時間の充実、田舎への移住など、日常的に過ごす空間について論じられる機会が非常に多くなっている。そこで、目的としている行為が明確化してることもある為、自分が体験したい行為に合わせて手作りでこもれる空間を手作りする手立てになりうる。

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