修士2年の柳井です。修士研究の途中経過を報告致します。
1研究の背景
1-1災害対策で非人間的な土木に埋め尽くされる懸念
近年災害は日常的に起こっている。
1995年 阪神・淡路大震災
2004年 新潟県中越地震
2011年 東日本大震災
2016年 熊本地震
など、地震・津波などの大災害は記憶に新しい。今後もこのような災害に見舞われるであろう。その背景から今後作られる建築は災害対策を施すために土木的な役割が増すことが予想できる。都市的な視点から考えれば防潮堤、ミクロな視点では図1のような擁壁である。このような土木ばかりを重視して都市が埋もれていくと、そこに人の居場所や安らぎの場はなくなってしまう。
1-2土木と建築の分断
都市や地域・地区を社会システムというトータルで広域的な観点から捉え、基盤的な空間・土地利用や施設整備を計画・実施・保全するのが土木の分野であり、人や世帯の生活というインディビィデュアルで地区のコミュニティレベルから広域的に拡げて捉え、住居をはじめ利用する施設(建築物)の建設を計画・実施・保全するのが建築の分野であると考えられている。この考えのもと、現在では「基礎・基盤的・広域的な仕事は土木で、上物的・個別的な仕事は建築の仕事」という単純に割り切り、分業化として住み分けられている。2) 引用:2)土木と建築の融合 春名 攻
2研究の目的
(1)土木と建築の分断でどんな分断があるかを分類分けし、それぞれをまとめる。土木と建築の結びつきを歴史的に把握し、土木と建築が分断していった背景の把握、そして現在に至るそれらの分断に対する試みの事例を図化しつつ整理する。(第2、3章)
(2)今後土木と建築の分野的融合を行う上での課題と方向性を修士設計物として提示することを目的とする。(設計編)
3研究の対象
第2章では、日本の土木と建築に纏わる歴史的出来事及び土木と建築の法制度、土木と建築の思想的分断を明らかにするため、網羅的に文献調査を行う。
第3章では、土木と建築の分断を乗り越える試みを整理するため、日本の既存建築物(現在22事例)や言説を対象とする。
第4章(設計編)では、敷地:東京都台東区柳橋1丁目付近を対象とし、行政、住民にヒアリング調査を行う。
4研究の分析
現在土木と建築の分断に対する議論は曖昧な状態で語られており、私はこれら職能的分断,法制度的分断、思想的分断の3つの分断に整理することとした。
■職能的分断
職能的分断では、土木と建築の分断がなかった時代について論じ、土木と建築が歴史的にどのように分断がはじまり、分断により得たものについてまとめる。
■法制度的分断
法制度的分断では、河川を例に出し河川区域と民地の所有の上での分断と法律での分断についてまとめる。
■概念的分断
概念的分断では、土木が単機能主義と呼ばれる治水的な要請のみを考え、速やかに洪水を海へ排出することであり、それについて土木の性質をまとめていく。
また、それらの分断3っつを乗り越える試みが現在されていて、それらを整理した。
■職能的分断を乗り越える試み
❶トコトコダンダン(岩瀬諒子)➪建築家が土木のデザインをしている。
❷釜石市立鵜住居小学校・釜石市立釜石東中学校・釜石市鵜住居児童館・釜石市立鵜住居幼稚園(シーラカンス)
❸釜石市立唐丹小学校・釜石市立唐丹中学校・釜石市唐丹児童館(乾久美子)
❹桜城橋(公益リバーフロント研究所)➪土木側が人の居場所を創った。
■法制度的分断を乗り越える試み
❶かわテラス➪防潮堤の上にテラスを設置した社会実験
❷八幡浜市立日土小学校➪建築家が河川法を無視した違法建築であるが、その代わりに川との親和性を手にし、教室とは異なる意味を生む特別な居場所を創った。
■概念的分断を乗り越える試み
❶birdhouse(宮本佳明)➪建築家側から土木のデザインをしている。
5設計編
隅田川と神田川の合流地点が対象敷地で、本来河川の上に建築を建てられないのだが、右図の配置図を見て分かるように既得権として9軒ほど船宿が河川の上部に建っている。また、土木構造物である堤防の上に乗っかるかたちでこの船宿は建っている。また、建設局、台東区により出されているハザードマップ2つには船宿の記載がなく、行政は船宿の被害を想定していない。
6予想される結論
論文編
(1)土木と建築の分断の歴史や現状を把握することで、土木と建築を融合するに向けての改善点が明確化する。
(2)領域横断を試みている例を図で整理することで、土木と建築の融合への指針を獲得する。
(3)自分なりの土木と建築の融合の定義を定める。
設計編
(4)土木と建築が融合した建物ができることで、本来自然との距離が建築より近い土木に入り込めるため、新たな風景を獲得できる。
(5)非人間的な土木に埋め尽くされる懸念が薄れ、土木のヒューマンスケールからの乖離が解消される。