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中庭型の集合住宅の空間配列に関する研究―コモンスペース・境界の分析を通して―

B4藤ノ木です。2023年度春学期に取り組んだ研究内容について発表いたします。

第1 章 研究の概要
1-1. 研究の背景、目的

熊本県営保田窪第一団地(図1)は山本理顕によって設計された公営団地である。この集合住宅の特徴の一つに図2 のようなパブリックスペース―住戸―コモンスペースの順番で構成された空間配列がある。これは中庭型の集合住宅が敷地の外に対してコモンスペースよりも先に住戸が配置されていることによって成立している。また、この空間配列にすることによりコモンスペースがよりプライバシー性の高い空間となることと、コモンスペースに出なくとも外に出ることができるため、コモンスペースに関わるのか選択性が生まれる。
 以上のように中庭型の集合住宅にはその特徴的な空間配列の構成によって、コモンスペースに対して今まで以上にオープンな関係性を築ける可能性があると同時に、選択性のある共同体生成の可能性が挙げられる。そこで本研究では近年の中庭型の集合住宅の空間配列をコモンスペース、境界の分析を通して、中庭型にある特徴的な空間配列は見られるのか、また設計者が中庭型の集合住宅に対してどのように各領域の関係を作ろうとしているのかを研究し、集合住宅の設計に対する新たな知見を得ることを目的とする。

図1.熊本県営保田窪第一団地
図2.熊本県営保田窪第一団地
住宅図式

1-2.研究の位置付け

中庭型の集合住宅に関しては囲み配置に現れる外部空間の配置的性格と動線的性格に関する研究やその住民へのアンケート調査、幕張ベイタウンのパティオに限定されたものはあるが、これらの研究の中に空間配列やコモンスペース、境界に関しての横断的な分析をしているものは見られない。

そこで本研究では中庭型の集合住宅の空間配列をコモンスペースの作られ方、境界を通して分析することで中庭型の特徴的な空間配列は見られるのか、また設計者が中庭型の集合住宅に対してどのように各領域の関係を作ろうとしているのかを明らかにする。

1-3.研究の対象

研究の対象は、雑誌「新建築」に2019-2022 年の4 年間に掲載された中庭型の集合住宅、寄宿舎・寮、長屋・テラスハウスとする。

第2 章 空間構成の分析、考察
2-1.空間構成の分析方法

空間構成の分析は次のように行う。
1)図2 に従い平面図にパブリックスペース、コモンスペース、ハウススペース、プライベートス
ペースの色付けを行う。
2)図3 に従い住居配置を分類する。
3)接地階の住居の有無を確認する。
4)空間配列をまとめる。

2-2 空間構成の分析

以下に接地階住居の有無と住居配置の分析を図5と表1にまとめた.

図5 空間構成の分析画面

表1 接地階住居の有無と住居配置のまとめ

2-3.空間構成の考察

中庭型集合住宅の空間構成について、熊本県営保田窪第一団地のようなコモンスペースと住戸の反転は認められなかった。また多くの事例にてコモンスペースへの関与の選択性は見られなかったが、一部選択性のあるコモンスペースも存在した。接地階住居の有無と住居配置について、各々の空間配列への影響を確認することはできなかった。

第3 章 コモンスペースの分析、考察
3-1.コモンスペースの分析方法

コモンスペースの分析は次のように行う。
1)コモンスペースが外部から自由にアクセス可能かまとめる。
2)図6に従い、コモンスペースが通過型か滞在型か住居延長型か、またそれらが複合した形であるのかまとめる。

図6 接地階住居の有無と住居配置のまとめ

3-2.コモンスペースの分析

分析に結果を表2 にまとめた。

表2 コモンスペース分析まとめ

3-3.コモンスペースの考察

コモンスペースが外部に対して開いているか閉じているかに偏りはなく、コモンスペースの開閉はコモンスペースの型に影響はないと考えられる。コモンスペースの型自体に関しては多くのものが通過型以外の要素を含んではいたが、滞在型単体や住居延長型単体など選択性のあるコモンスペースを持つものとなると数は減った。また、中庭型の特徴である住戸に囲まれたコモンスペースには通過型の役割を持つものが一番多く、囲まれているが故のプライバシー性が高いコモンスペースの使い方とはなっていなかった。

第4 章 境界の分析、考察

本章では異なるスペース間にある境界の中でも、境界として弱いものや、どちらのスペースにも属す新たな空間である境界間空間があるものを分析、考察をする。

4-1.境界の分析方法

境界の分析は次のように行う。
1)どのスペース間のどの用途を持った空間の間にあるのかまとめる。
2)その境界が境界間空間であるかどうか分析し、そうであればどのような用途を持つ境界間空間であるのかまとめる。
3)境界を構成する要素をまとめる。

4-2.境界の分析

分析事例を図7と表3にまとめた。

図7 境界の分析画面

表3 境界の分析まとめ

4-3.境界の考察

境界に関してはプライバシー性が高いプライベートスペースと逆にプライバシー性が低いパブリックスペースのいずれかが関わるものは非常に少なく、プライバシー性がそれらの中間にあるハウススペースとコモンスペースの間に多くの境界の工夫が見られた。

第5 章 まとめ
5-1.結論

本研究で分析した25 事例からは熊本県営保田窪第一団地のようなコモンスペースと住戸の反転した空間配列は見られなかった。設計者がどのように各領域の関係を作ろうとしているのかは、まず住戸の多くがコモンスペースのみと接続しているため、多くの設計者が住戸とコモンスペースの間により強いつながりを作ろうとしていたと考えられる。また隣り合う領域同士のプライバシー性の差が大きくなればその分境界面に弱いものを持ってこられないが、境界間空間は職住一体のグループでも使われていることからも、境界間空間はプライバシー性の差が多い領域間の境界に有効であると考えることができる。

5-2.課題と展望

実際の生活と図面のリンクはどの位できているのかが判明していないため、実際の生活の研究も必要であると考えられる。また本研究ではパブリックスペース―住戸―コモンスペースの形の空間配列が見られなかったため、多くの事例を研究することでその空間配列のコモンスペースや境界の作り方の知見を得ることも必要である。

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