B4の木村です。春学期に取り組んだ研究内容について報告します。
序章 研究概要
1-1研究の背景
路上ライブはパフォーマーにとって、気軽にまちの人々へ演奏を届けられる場所である。そして、ライブハウスなどの決まったステージでパフォーマンスを行うのではなく、パフォーマー自身が都市の中で場所を見つけてパフォーマンスを行なっていることが、路上ライブの大きな特徴である。ライブ場所では、一過性(テンポラリー)の劇場空間が生まれている。本来ライブ場所として作られたわけではない都市空間を、ライブパフォーマーは劇場空間として見立てて、パフォーマンスを行なっているのではないか。ライブパフォーマーはどのような空間の見立てを行なっているのだろうか。
1-2 研究の目的
路上ライブの行われている場所について調査し、客観的な分析とパフォーマーへのヒアリング調査から、都市の中で、どのような要素が空間の見立ての要因となっているのかを研究する。
1-3 研究の位置付け
ある事象を別の事象に見立てるということで、本来事象が持たない性質が与えられる。建築計画においても目の前にはない事象に関連づけて建築空間として具現化することで、事象の性質を建築空間に与えている。先行研究として、建築物の言語描写における〈見立て〉の多様性では、設計者の建築設計における見立てによって生み出される効果や特性の多様性について述べられている。
また、路上ライブについては、先行研究として、ストリートミュージシャンの活動する空間構造では、ストリートパフォーマンスの公共空間への影響を把握するため、ストリートパフォーマンスがどのような場所で以下に行われているのかということについて述べられている。
本研究は、路上ライブの場所を選ぶパフォーマーの視点に立って、新たに空間の見立てという観点から調査し分析するものとして位置付ける。
第二章 研究の対象と方法
2-1 研究の対象
新宿駅・大宮駅周辺で行われている路上ライブ
ライブパフォーマーへのヒアリング調査
2-2 研究の方法
(1)新宿駅・大宮駅の路上ライブを対象として、フィールドワークを行う。
(2)路上ライブにおいて、劇場空間として見立てられていると客観的に考えられる要素を分析する。要素を分類し、考察する。
(3)路上ライブをしているアーティストに、なぜその場所を選んでパフォーマンスを行なっているのか、ヒアリング調査をする。
(4)(2)の分析・考察と、(3)のヒアリング調査結果を比較する。客観的な分析と、パフォーマーの思惑は一致しているのかどうか、どのような対応関係があるのかを分析する。また、ヒアリング調査による新たな空間の見立てに対する発見があれば述べる。
第三章 路上ライブの調査結果・分析・考察
3-1 路上ライブ開催場所
新宿駅と大宮駅にて路上ライブが行われていた場所を地図上にマッピングしたものが以下の図である。
3-2-1 新宿駅東口
・新宿駅東口1(7/19 21:30)
演者の背景に植え込みがある。高めで壁のようになっている。植え込みが円形。
・新宿駅東口2(8/2919:45)
植え込みあり。
3-2-2 新宿駅西口
・新宿駅西口1(7/9 19:30)
演者の背景がフェンスとなっている。
・新宿駅西口2(7/19 19:30)
演者がフェンスと壁の2面で囲われている。
・新宿駅西口3(7/19 19:40)
演者がフェンスと壁の2面に囲われ、さらに天井がある。音が響いていてよく聞こえる
3-2-3 新宿駅南口
・新宿駅南口1,2(8/23 18:30)
演者の背景がフェンス
・新宿駅南口3(7/20 20:30)
演者の背景がフェンス。さらに観客側に、植栽が等間隔に置いてある。これによってライブ場所が軽く囲われ、居場所が生まれているのではないか。
3-2-4 西武新宿駅
・西武新宿駅1,2(8/29 19:00)
街灯が演者の背景として、拠り所になっているのではないか。
街灯の光によって若干照らされている。
3-2-5 大宮駅東口
・大宮駅東口1(8/5 19:40)
演者の背景が看板。目の前にコリスのトトちゃんという待ち合わせスポットがあり、そこに人がもたれかかっている。
3-2-6 大宮駅西口
・大宮駅西口1(8/6 19:30)
デッキの窪みの部分のベンチを観客席と見立てる。
・大宮駅西口2(8/6 19:50)
演者の背景がフェンス。観客も対面側のフェンスにもたれかかって聴いている。
・大宮駅西口3(8/6 19:50)
演者の背景がフェンス。
3-3 ライブ場所の要素の分類・分析
路上ライブ場所は、面にしろ、点にしろ、何かしらの物的要素を背景としている。この演者の背景は、パフォーマンスのステージとしての臨場感を生み出す効果や、都市で人が雑多に動き回っている中で、路上ライブという一つの空間を成り立たせるための要素として使われているのではないかと考えた。1面の場合パフォーマーを囲って半円形に観客が集まり、連続した2面ができると角の部分でパフォーマーがライブを行い、観客は四分円状に集まる。パフォーマーと対面の観客側に面があると、観客はそこにもたれかかって聴くことができる。
第四章 パフォーマーへのヒアリング調査
4-1 調査結果
新宿駅西口1,2、西武新宿駅2のライブパフォーマーに実際にインタビューを行った。
4-2 分析
パフォーマーたちは、人通りが多くて目立ちやすい、人が集まりやすいといった観点から路上ライブ場所を選んでいることが分かった。
背景に何かしらの物的要素があるという考察については、やはり実際には人通りを邪魔しないようにという消極的な理由があるということが分かったが、話していくと、無意識にでも、物的要素を利用して路上ライブという空間を作り上げているということが考えられた。
結章
5-1 結論
パフォーマーは、雑多に人々が動き回っている都市の中で、路上ライブとしての一つの劇場空間を作るために、都市の中の様々な物的要素を利用していた。
パフォーマーは必ず、フェンスや壁、植え込みや街灯などを自分の背景として利用して路上ライブという空間を作っている。インタビューによると、無意識の場合が多そうではあるが、ライブとして目立つ空間になったり、拠り所になったりしているのではないだろうか。そして2面3面と囲われる面として利用できる物的要素が増えていくにつれて、より臨場感のあるライブ空間が出来上がっていくと感じた。
パフォーマーにインタビューを行うと、通行人の邪魔にならないようにしているという回答などもあり、実際には、パフォーマーたちの理想とするライブ空間を都市の中で見立てて選択しているという積極的な理由の反面で、このような配慮による消極的理由の両方のバランスによって路上ライブのステージが選ばれているという実情があることが分かった。
本研究では、路上ライブを対象として、パフォーマーは都市の中の空間を、劇場空間としてどのように見立てていて、路上ライブ空間がどのように成り立っているのかをパターンとしてモデル化することができた。