修士2年の柚木です。修士研究の途中経過を報告します。
1.研究の背景
1-1-1.建築模型の意義
建築模型は設計のスタディからプレゼンまで広く利用されており、その使用目的としても多岐にわたっている。 近年の VR 技術の発展やコロナウイルスによるオンライン化への以降など技術的にも多くの変化が起きている現在において模型の意義を明らかにする必要がある。また建築模型は本来実際の建物を模しているものであり、かつては建築雑誌のようなメディアに取り上げられることも少なかった。しかし1980年代から建築雑誌に模型写真が掲載されることが増えており、日本においては2016年に建築倉庫が模型の保存と鑑賞の場を誕生させたように模型は単にスタディやプレゼンテーションのツールとしてだけではない模型の意義があると捉えることできる。
1-1-2.設計意図と多様な模型表現
かつて単一の素材を用いた白模型が主流であった模型表現は、現在では多様な模型表現が見てとれる。これは建築家自身の設計意図を模型で表現しており、模型は建築家の設計意図を反映させている表現媒体の1つであると捉えることができる。
1-1-3.日本と海外の模型への意識の違い
日本人建築家は海外の建築家と比較して模型を用いることが多く、近年の「GA HOUSES」において日本人は (85%)が模型写真を掲載されているが、海外では(49%)に留まっており、模型は日本人の建築家の思考を表現する重要な媒体であると考えられる。
以上の背景から
・模型表現は設計者の意図が反映させれているが、表現の多様化は設計者の意図だけでなく各時代の建築理念とも関係があるのではないか
・各時代の模型表現と建築理念の関係性から模型に求められてきたことを明らかにすることで模型の意義とその変遷を明らかにすることができるのではないか
という仮説をたてて研究を進めています。
2.研究の目的
本研究の目的は、建築模型は建築家の思考のノーテーションだけでなく時代性を含む媒体であると捉え、建築雑誌に掲載された作品において模型と各時代における建築理念(時代性)関係の分析を行い、両者の関係性を探ることで、
1)建築雑誌に掲載されている建築模型の構成と意味性の変遷を明らかにする。
2)模型の制作範囲や素材など模型の構成と模型から得られる情報や用途など模型の意味性との間にある関係を明らかにする。
3)多様なツールが揃う現在において、古くから継続的に設計のプレゼンテーションにおいて模型が用いられるその意義や意図を建築理念との関係から明らかにする。
4)模型という視点から現代建築を見直すことで既存の建築論との相違を明らかにする。
3.研究の方法
本研究では模型の見方として、模型はある制作段階において何らかの情報を伝えるために一定の構成を用いて作成された表現媒体であると捉えて研究を行います。
それらを記述する際に模型の種類を考慮せず①物理的な構成に着目する章、模型の用途など②模型の意味性という2章に分けて分析を行い、その後③物理的構成と意味性の関係の時代変遷を分析することで、各時代においてどの段階の模型で何を伝えるためにどのような構成で作成されてきたのかを明らかにし、模型から見る時代性(建築理念)を明らかにする。
具体的には模型の物理的構成というのは制作範囲や材料、スケール、本体部分の制作手法などハード面に関する分析をしています。
また模型の意味性は、模型の種類、模型からわかる建築の情報などソフト面に関する分析です。これらは最終的に類型化やグラフ化してまとめていきます。
構成と意味性の関係と時代変遷においては、この2つが時代ごとにどのように変化しているかの研究で、上の図のような図化をしてまとめながら模型から見る各時代性を明らかにしていくことで模型に求められてきた意義や建築理念との関係を明らかにます。
4.研究の進捗
まず模型の制作範囲として以下の7種類に類型化でき、現状分析している各類型の個数を()内に記載しており、本体のみのタイプが最も多いことがわかります。
また模型の制作範囲の時代変遷としては1990年代には4割を超えていた本体のみが現在では2割弱に大きく下がっていることがわかります。またそれと同時に他の類型が相対的に増加し、2020年代では制作範囲に差が見られなくなっていることがわかりました。
また模型の意味性についてでは模型の持つ情報について分析を進めており、現状以下のことが模型から読み取れると考えています。
5.予想される結論
・建築模型の物的構成においては構成の類型化とそれらの時代変遷を明らかにすることができ、意味性についてでは建築模型の用途や模型から得られる建築の情報を類型化し、それらの時代変遷を明らかにすることができる。
・模型の物的構成と意味性の関係性より、模型というフレームから各時代性を明らかにし、各時代において模型に求められてきた意義を明らかにすることができる。
・模型から見る時代性の変遷とと既存の建築理念の変遷との間の相違を明らかにすることができる
6.さいごに
現在は対象の模型の見直しをしており、分析結果は今後も変わると思いますが、成果は今後もこちらで発信していきます。