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村野藤吾の後期小規模美術館における光と設計手法について-展示物配置と採光装置に着目して –

B4鈴木です。2020年度春学期に取り組んだ研究内容について発表いたします。

1.序章
1-1.研究の背景と目的

村野藤吾(1891-1984)は生涯多種多様な建築を生み出し、その建築は周囲のモダニストたちとは異なる村野らしさをもつ。村野のいくつかの建築作品に曲線による自由な造形と光が作り出す幻想的な空間がみられるように、村野が重要視していたヒューマニズムは、そのような部分に表現されていたと考えられ、村野が表現手法の一つとして光を熟考していたことがうかがえる。
谷村美術館は村野が晩年に設計し竣工を見届けた最後の作品であり、村野にとって集大成の建築物といえる。そして、村野の造形と光による表現が最大限に発揮された作品である。
また、村野が生前手掛けた4つの美術館のうち谷村美術館を含む3つは個人美術館であり、どれもその土地出身の一人の作家の作品が常設されている。つまり、作品に対して空間が与えられている点で共通しているため、作品と光の関係が分析できると考えられるとともに、光が重要な要素となる美術館を調査することで村野の光と造形の操作におけるある種の答えが導けるのではないか。
そこで今回の研究では以下の目的を設定する。
1)3つの美術館の図面・写真などを参照しながら、光の取り入れ方を分析し、設計手法を明らかにする。
2)自然光を取り入れる採光装置がどのような形状で作られているか分類化し明らかにする。
3)設計者の思想を踏まえ、村野にとっての「光」、光の表現の意図を明らかにする。

1-2.調査対象・方法
村野藤吾の数多く存在する作品から谷村美術館の前に手掛けられた個人美術館 2 つを含めた 3 つの作品を対象とし、村野の思想と光に対する設計手法の調査を行う。具体的な調査内容は、美術館の用途や作家の作風に対する建築による応答、採光装置の形状や受光面の工夫、機能面と空間への効果である。
1-3.研究の位置づけ
村野藤吾の建築作品における光の操作に言及した論文は少なく、また、谷村美術館に関しても光を定量的に分析し評価した研究はあるが村野の設計手法や思想と関連付けたものはない。そこで、本研究では村野の手掛けた谷村美術館を含む、小規模の個人美術館 3 つを対象に、包括的な分析を行い村野の思想を含めた設計手法における光の表現について研究する。

2.谷村美術館の概要
2-1.概要
冒頭に述べた通り、谷村美術館は村野にとって竣工を見届けた最後の作品である。この美術館は村野の友人である澤田政廣の木彫の仏像 10 体が展示されている。展示室は、各々の仏像に対して各々の空間が与えられ、仏像はガラスケースに囲われておらず、まさに展示室自体が作品を包みこんでいる。内部空間は迷路や洞窟のようにうねっており、作品や空間の見え隠れによるシークエンスの面白さを生んでいる
2-2.採光装置について
この美術館は各々の仏像に対し各々の展示室が与えられているため採光装置も仏像に応じて種類や組み合わせが異なる。また、自然光を積極的に取り入れるための工夫が採光装置でなされ、特に曲面を利用した採光が特徴的である。

3.各美術館の採光装置の分析
3-1.小山美術館

小山美術館(1975)は 3 つの中で一番小規模であり、洋画家小山敬三の作品が展示されている。崖の上の地形や、作家の作風を反映させた曲面状の外壁の隙間から採光しているのが特徴的である。
3-2.八ヶ岳美術館
八ヶ岳美術館(1979)は山の中に建てられ、彫刻家清水多嘉示の作品が展示されている。この美術館は予算が少なかったことから、工費削減のため半球状の屋根はプレキャストコンクリートで作られ、同じボリュームが反復したような形状をしている。自然採光は壁面に縦長のはめ殺し窓が規則的に設けられており、展示物の配置が壁の曲面に包まれるような配置をしている。
3-3.谷村美術館
谷村美術館(1983)は展示室によって採光装置の種類や組み合わせが異なることに加え、その採光装置の光源の方向や形状が様々であることから前の 2 つの美術館に比べ複雑である。展示物の配置については、八ヶ岳美術館と同様に曲面状の壁が展示物を包むように配置されている。

3-4.村野の採光装置の変遷
これらを踏まえ、谷村美術館では、小山敬三美術館で用いられた曲面のずれによる採光と八ヶ岳美術館で用いられた曲面の壁が包むような展示物の配置の両方が共通して用いられていることがわかる

4.採光装置の分析・分類
4-1.分類

一つ一つの採光装置の分類を行い、即物的な面からの分析を行う。下の表は、3 つの美術館にある自然光の採光装置を抜き出し、表にしたものである。全部で 11 種類の採光装置が得られ、圧倒的に谷村美術館の採光装置の種類が多いことがわかる。また、谷村美術館では上下左右のあらゆる方向から自然光を取り入れている。
4-2.考察
これまでの調査によって、光の設計において村野がどのような考えを元に光を操作したかが考察できる。まず、第一に展示物をいかに良く見せるかということである。これは、谷村美術館が 1 作品につき1つの展示空間が用意されているということ、各展示室が異なる採光装置の組み合わせによって構成されていることからわかるように、作品に対する光の当たり方や、作品のショーケースでもある展示空間が作品をどう包み込むかという考えのもと、工夫がなされている。第二に、光が訪問者へどう届けられるかという考えである。谷村美術館の展示空間の中では、直接光が一切用いられておらず、遮光面や壁面のずれ、光だまりをつくるといった手法を使うことによって、採光装置の光源が訪問者から直接見えないようになっている。谷村美術館における光はあくまでも、作品を引き立たせ、空間に奥行きや時間による変化などの効果を与えるものとして存在している。
5.結章
5-1.結論

今回の研究では、村野の美術館における光の設計手法を自然光の採光装置と展示物の配置との関係、形状から導いた。そこには、村野が一貫して重要視していたヒューマニズムだけでなく、美術館においていかに展示物と訪問者を繋げるかという考えをもとに、様々な造作と光の陰影における工夫を確認できた。
5-2.展望
今回 3 つの個人美術館を対象としたが、調査対象を広げることで今回のような採光装置に共通するものや、異なる採光装置や表現方法が得られると考えられる。また、異なるビルディングタイプを調査すればまた異なった村野の意図や設計手法が得られるのではないか。
【参考文献】
1.村野藤吾:別冊新建築 村野藤吾 新建築社 1984 年
2.村野藤吾:TOGO MURANO 1975-1988 新建築社 1983 年

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