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安藤忠雄の美術館建築における「独立壁」の配置・形態・機能

B4安達です。2020年春学期に取り組んだ研究内容について発表いたします。

序章 研究概要      

0-1 研究の背景

安藤忠雄氏の建築にはコンクリート打ちっぱなしの作品が多く、このような建築は単調で無表情なものとなってしまうことが多いにもかかわらず、彼の作品を見て多くの人がその空間に心が動かされている。その要因の一つとしては彼の建築の「壁」があると言える。二川幸夫氏によるインタビュー本「安藤忠雄 建築手法」1)における安藤氏による言葉に「西洋の組積造の壁とは異なる文脈で、日本建築にかつてない、強い壁の建築をつくりたい―――そこから、私の建築キャリアはスタートし、(中略)」とあることから壁というものが安藤氏の建築において切っても切り離せない重要な要素の一つであるといえる。彼の建築には他の建築家と比べ、建築の骨組を支える壁以外に、スケール、配置、造形という点で、建築構造から独立、誇張している壁やそのような部分を含む壁が多くみられる。この壁を独立壁と呼ぶこととする。このような壁は、私たちの感覚でそれらが生み出す世界観や雰囲気を感じ取ることはできるが、従来の構造体としての壁や内外を分けるための壁などと比べるとその機能や効果は分かりにくいものである。

0-2 研究の目的

安藤忠雄の建築における独立壁の造形的な特徴から抽出、ダイヤグラム化し、形態と機能について分類し、それぞれについて使用頻度や年代別、作品別に傾向的な特徴を明らかにする。

0-3 研究の位置づけ

本研究では、安藤忠雄の美術館の独立壁に焦点をあて、その形状を分類し体系的に分析することによって、彼の設計における建築空間と独立壁との関係性について分析する。また、既往研究ではシークエンス2)や幾何学的構成3)、階段やスロープによる空間表現4)についての論文はいくつかあるが、壁に絞って研究しているものは見られない。

第一章 研究対象と研究方法   

1-1 研究対象 

彼の美術館建築が多く出され始めた1980年から2007年までの27年間に作られたものの中で、彼の作品集5)6)7)で比較的多く取り上げられている姫路文学館(南館含める)、ベネッセミュージアム、サントリーミュージアム、大阪府立近つ飛鳥美術館、成羽美術館、大山崎山荘美術館、大阪府立狭山池博物館、ピューリッツアー美術館、兵庫県立美術館、フォートワース現代美術館、ホンプロイッヒ・ランゲン美術館、地中美術館の12種類の作品の壁に絞って分析する。 

1-2 研究方法

作品集やインターネットなどの写真や図面から確認できる独立壁をその形状ごとの特徴から抽出、ダイヤグラム化し、壁の形態と機能ごとで分類、分析を行う。

第二章 独立壁の定義と抽出

2-1 独立壁の定義

独立壁を抽出する上で、その定義として、「建築本体から機能的または構造的に独立している壁」とした。   

2-2 独立壁の抽出

対象となる12種類の建築の内、資料から確認できる独立壁を抽出した結果、全部で41枚の壁が抽出された。壁の壁番号と写真、形態的特徴を表したダヤアグラムを表2に示す。

表2 独立壁の写真とダイヤグラム

第三章 独立壁の分類

3-1 形態による分類

抽出された41枚の壁を形態的、構成的な特徴から大まかに沿わせ型、囲い型、孤立型、レイヤー型4種類に分類した。それぞれのイメージを表3に示す。

図3 独立壁の4つの形態のイメージ

3-2 機能による分類

4つの形態によって分類された結果をさらに誘導、分断、制限の3つの機能で分類した。

誘導する壁    分断する壁    制限する壁
図4 独立壁の3つの機能のイメージ

3-3 分類結果 

41枚の独立壁を各形態毎に機能別に独立壁を分類した。

第四章 独立壁の分析

4-1各形態の占める割合

全41枚の独立壁について4つの形態の独立壁の使用されている割合を分析した。沿わせ型が10/41、囲い型が10/41、孤立型が14/41、レイヤー型が7/41と比較的どの形態も同じ割合で存在している。このことから、彼の美術館建築において様々な形態が同程度の頻度で使われていることが分かった。

4-2 機能の重なり 

全41枚の壁は誘導、分断、制限の3つの機能の内複数持つものも見られる。誘導する壁と分断する壁においては、複数の機能をもつものが多いのに対して、制限する壁については、他の2種類の機能に比べて単一で使われているものが多い事が分かった。

4-3  機能ごとの構成面数の傾向              

各機能の壁において、それらを構成している面数(1面、2面、3面以上)の傾向を見た。誘導する壁では1面で使われている場合が多く、かつ壁の種類も9種類と豊富である。分断する壁ではいろいろなパターンがバランス良く使われている。制限する壁では、2面構成かつ様々な形状のバリエーションが見られた。

4-4 年代推移

形態については、年代ごとでの傾向は見えなかった。一方で、機能についてでは、1990年から1995年では分断と制限の機能を持つ壁が多く使われているのに対して、2000年以降では誘導と制限の機能を持つ壁が多く使われているということが分かった。

4-5 一つの建物に用いられている独立壁の枚数

調査した全12の建物について、使用されている独立壁の枚数を形態別、機能別に調べた。13個の美術館(姫路文学館の南館を1つに考える)では2つ以上の形態や機能が使われていることが分かり、安藤氏の美術館では1つの建築に多様な壁が使われていることが分かった。また、兵庫県立美術館では他と比べ多くの独立壁が抽出された。

第五章 結章

5-1 総括

安藤忠雄の12個の美術館建築から41枚の独立壁を抽出した。これらの独立壁を、形態においては沿わせ型、囲い型、孤立型、レイヤー型の4種類の型があり、機能においては、誘導、分断、制限の3つに分類できることが分かった。また、分析では安藤氏の美術館建築では4種類の形態の壁は建築によって使われている形状の偏りはあるものの、全体で見るとどの種類も同程度使われていることが分かった。機能の面での分析では、多くの壁は2つ以上の機能を持ち合わせており、機能ごとでその構成面数に傾向が見られた。年代ごとでの使われる壁の形態に変化はや偏りはあまり見られなかったが、機能については1990年から1995年の5年間と2000年から2005年の5年間で違いが見られた。作品ごとに独立壁の枚数では、兵庫県立美術館が多く抽出されているが、これは展示棟だけでなく周辺敷地まで一体的に、壁を多用した設計がされていたためである。

5-2 展望

兵庫県立美術館などで周辺敷地に派生していくような一体的に壁が配置されているものが多かったことから、今後は壁単体に焦点を当てるのでは無く、壁の機能が作用している対象となるものにも焦点を当て、配置、機能、形態、周辺環境などを一体に考えていきたいと考えている。また、彼のドローイングなどから読み取れるシークエンスなども参考にして安藤氏の壁に対する意識も分析していきたいと考えている。

参考文献

  1. 二川幸夫、安藤忠雄 建築手法、エーディーエー・エディタ・トーキョー
  2. 中山哲・田中智之(2007)「空間とシークエンス:ミュージアム建築における空間体験の記述に関する研究」、『日本建築学会大会学術講演梗概集』、5497
  3. 中西翔子・田中智之(2011)「美術館の空間と幾何学構成」、『日本建築学会大会学術講演梗概集』、5023
  4. 今井雛子・鳥巣茂樹・田中明(2019)「安藤忠雄による階段・スロープの『ギャラリー空間』について 建築空間における階段・スロープの類型的研究 その2」、『日本建築学会大会学術講演梗概集』、9221
  5. 安藤忠雄、Tadao Ando 0 Process and Idea、TOTO出版
  6. 安藤忠雄、GAアーキテクト安藤忠雄1994-2000、エーディーエー・エディタ・トーキョー
  7. 安藤忠雄、Tadao Ando 3:Inside Japan、TOTO出版

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