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藤森照信の建築作品における外装素材の扱い ―自然素材の変遷からみる歴史家と建築家の関係―

B4の盛岡です。2020年度春学期に取り組んだ研究内容について掲載させていただきます。

第1章 序論 研究概要

1.1 研究の背景と目的

 藤森照信は歴史家と建築家という 2 つの顔を持っている。歴史家は、過去又は現在の建築物を批評し歴史として考えを論ずる。一方で、建築家は新たな建築物を設計し生み出す。藤森にはこの対称的な2つの顔が1つの人格の中に共存している。このアンビバレントな関係の境界を藤森の建築作品から考察してゆく。歴史をバックグラウンドに藤森はどこの時代にも属さない普遍的バナキュラリズムを確立した。中でも、「科学技術を自然で包む」という手法は仕上げ素材に工業製品を使用しておらず、訪れる人々に自然の懐かしさを与えてくれる。つまり、藤森は自然素材の扱い方に深い考えを持っており、その変遷を追ってゆくことで、藤森照信の建築家としての顔が垣間見えると考える。

 研究の目的としては以下の 2 つが挙げられる。
1) 藤森照信の自然素材の扱いからその変遷を明らかにする。
2) その変遷から藤森の歴史家的側面と建築家的側面の境界を考察する。


1. 2 研究の位置づけ

 藤森照信の作家論研究としては、言説のみから分析された研究や茶室作品に限られた空間構成の研究は見られるが、建築作品の素材の変遷に着目した研究は行われていない。本研究では、藤森の全建築作品の外観仕上げ素材に着目し、その変遷を明らかにする。


1.3 研究の対象と方法

 対象は「藤森照信作品集」に掲載されている建築作品のうち、内装改修を除く 49 作品の外観とする。
方法は、以下のように行っていく。
1) 作品について言説や図面、写真から分析し、作品ごとに部位と素材の関係を明らかにする。
2) 素材ごとの特色を考察し、素材の扱い方から分類する。

第2章 建築作品分析

2.1 建築作品一覧
「藤森照信作品集」に掲載されている建築作品のうち、内装改修を除く全 49 作品の概要を表1としてまとめる。

2. 2 作品分析
作品ごとに使われている仕上げ素材とその部位について、表2としてまとめる。


第3章 仕上げ素材の特徴

3.1 歴史的視座による自然素材への探求

 45 歳の時に建築設計をはじめている藤森はそれまでの 20 年以上の間、歴史家として建築批評に多く携わってきた。これらの中で、縄文なるスタンディングウッズや芝棟といった様式建築にとらわれることのない新たな建築の形を引用し、1991 年に処女作となる神長官守矢史料館を完成させた。仕上げ材では、工業製品のような整った面ではなく、荒々しい凹凸のある表面を求めて、自身で素材を探しモックアップを制作する形で検討を進めていった。

3. 2 自ら施工を行うクラフトマンシップ

 3 作目となるニラハウスでの屋根仕上げ施工において職人に引き受けてもらえないことを機会に、知人友人を集め施工を行った。これが縄文建築団という素人施工集団の始まりである。これを契機に藤森は普通の人も工事をするのが好きだと考え以後の素人の手を用いたセルフビルドにつながってゆく。藤森自身も必ず施工に参加しており新たな加工方法を生み出すクラフトマンシップを発揮している。

3.3 素人の手を用いたセルフビルド

 縄文建築団に加え、すべての作品において敷地周辺の学生などを中心とした素人が仕上げ材の施工に関わっている。工事を自身で行うことによって地元に愛着をもつ存在へと変わる環境になじむという藤森の意図が読み取れる。素人が関わる工程としては、杉を焼いて焼杉に加工する段階や、外壁材として使われる銅板を手揉みし凹凸をつける工程が挙げられる。

第4章 屋根

4.1 植物(1995-)

 1995 年の自邸タンポポハウスに始まり、2016 年のラコリーナ近江八幡に至るまで、幅広く 14 作品において屋根に植物を生育させている。初期のタンポポハウスやニラハウスにおいては、線状や点状に植えているが、それ以降は、頂部に象徴的に植えている場合と屋根面全体に芝を生育させている場合に限られている。

4.2 鉄平石(1991-2000)

 神長官守矢史料館とタンポポハウス、秋野不矩美術館の 3 作品においてのみ屋根材として使われている。使用されなくなった要因としては、雨仕舞が他の材に比べ不成形で難しかったためと考えられる。

4.3 銅板(1998-)

 銅の錆による自然の変化や手での加工が容易なことから、2001 年の不東庵工房をはじめとして様々な作品において使われている。近年では、素人の手を用いたセルフビルドにおいて多用されている。

第5章 外壁

5.1 土色モルタル(1991-)

 1991 年の神長官守矢史料館より多くの作品において使われており、土壁に見える凍結融解しない外壁を目指して作られた。モルタルの中にわらを練りこみ凹凸をつけた着色モルタルの表面に土薄く塗りつける形の表現となった。

5.2 木板(1991-2000)

 1991 年の神長官守矢史料館より手割板という伝統的な技法を用い加工を行ってきたが、焼杉に比べ防腐性などの強度が弱く、室内などの仮設建築以外では用いられなくなっていった。

5.3 焼杉と白漆喰(2005-)

 2005 年ラムネ温泉館をはじめとし、焼杉と白漆喰が外壁に多く現れるようになる。藤森は焼杉の黒と漆喰の白の色のバランスを様々検討を行っており、白黒のタテシマを多く採用している。

第6章 結論 総括と展望

6.1 総括

 これまでの分析をもとに、屋根の鉄平石から銅板への変化がみられる 1998-2000 年と外壁の木板から焼杉への変化がみられる 2005 年において、以下の 3 つの時期に作品を分けることができる。
1. 初期 1991-1998
2. 変換期 1998-2005
3. 成熟期 2005-
上記の変換期 1998-2005 において藤森照信の歴史家としての考えを建築家として作品が大成された時期にあると考える。

6.2 展望

 今回の研究では、対象は建築作品の外観のみとした。内観にも同様の分析を行うことでならなる実践の過程を見ることができるのはないだろうか。

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