建築空間論研究室 4年 池上 智
キーワード:イタリア 広場 駅前広場 分類
■はじめに
かつて都市における広場とは、劇場や神殿などと等価に扱われていた主要な都市機能のひとつであった。しかし現代においては、広場とは都市の残余空間であるイメージが少なからずある。多くの広場は周りの空間を結びつけ、引き立てる存在から、都市の空白へと置き換えられている。イタリアの都市における広場は古くからの広場の形式がよく残されている。ここでは広場は残余空間ではなく、街の一部として場が機能している。
一方で駅前に存在する広場は、列車から降り立った人々が最初に足を踏み入れる都市の場である。
都市の外からやってくる列車の客が降り立つ場所であると考えれば、この駅前広場が外部と都市をつなぐ場であると考えることができる。そのとき、駅前広場という場がどのように都市と関わるのかを考えたいと思った。
■研究目的
広場というものは様々な形を以って都市に存在している。駅前広場という形態が都市の変容に対してどのように付随しているのかを調べる。そこで古くから広場の扱いに優れたイタリアという国に絞り、駅前広場構造がどのように都市と関わっている状態なのかを把握するために広場形態を分類する。
広場の形態と周辺の都市構造に関連性を見出したい。
■研究の位置づけ
最近の駅前広場は周りとの関係性が失われた、箱庭的な計画の印象を受ける。この研究が、駅前広場というものがより周辺の都市形態と結びついた駅前空間を提案するための分析となることを望む。しかしこの問題を解決する手続きとして、まず現状の駅前広場の分析を行う必要があると感じた。本論は以上の問題提起に対する解決のための基礎研究という位置づけとし、平面形態に絞った上で現状の駅前広場の収集、分類を行うこととする。
■調査対象
対象はイタリア国内、頭端式ホームを有するターミナル駅とした。途中駅では線路による都市の分断などの問題があり、都市形態を正確に把握できない可能性があるので本論では分断が起こりえない終着駅の駅前広場を参照する。
選定した駅の表と位置関係図を下に添付する。
図1 駅の位置関係
表1 駅名リスト
■駅前広場の分類
選定した駅前広場を、作成した反転地図を用いて以下の分類にかける。
Ⅰ.広場自体の形態
・有軸型
・貫入型
・囲まれ型
図2 形態ダイアグラム(左から順に、有軸型、貫入型、囲まれ型)
Ⅱ.広場周辺の都市の形態
・中央放射型
・碁盤目型
・無定形型
図3 形態ダイアグラム(左から順に、中央放射型、碁盤目型、無定形型)
Ⅲ.特筆すべき地理的要因
・連続広場型
・ランドマークとの接続
・水辺との関わり
以上の分類をした駅前広場の分類結果を表2.3.4に記す
表2 分類Ⅰの結果と年代の関係
表3 分類Ⅱの結果と年代の関係
表4 分類Ⅲの分類結果
■駅前広場についての分析
表2、表3のように駅の開業年数順に並び替えると、各形態には傾向が見て取れた。1861年はイタリア王国が建国されたために、これに影響を受けたと考えられる分布を分析することで読み取ることができた。
また、駅から都市へと降り立つ時、都市のエレメントが目にはいることはとても重要な事である。そのような意味で、広場に影響を与える要因は他の広場との連動やランドマークの配置、地理的特性といった都市の中の要素も含まれる。これらをまとめたのが表4であり、ここで何かしらの要素が関わる広場は都市の要素を取り込んでいる、駅前広場としてふさわしい場が形成されるといえるだろう。
大きく分けると、広場自体の形態でアイデンティティを示しているものと、無定形な場であっても都市のエレメントを関わらせることでアイデンティティを生み出している広場があるといえる。
■結論
本論は基礎研究として平面形態における分類を到達点としているため、問題の解決策の提示には至っていない。次の課題としては、各都市の歴史を踏まえた上で分析を行うことが必要である。駅前広場が既存の広場に接続する形で作られたのか、あるいは新規に区画を開発して作られたのかということは非常に重要な問題である。この情報は特に分類Ⅰと分類Ⅱの結果をより強固に結びつける重要な材料になるだろう。歴史的な観点を通して都市の生成過程と広場の対応する点がはっきりすれば、現代の都市の空白と言える広場に対して何らかの策を講じることができるのではないかと考えている。