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ジェフリー・バワの建築設計手法 ~自然通風と空間構成に着目して~

B4福井です。2019年度春学期に取り組んだ研究内容について発表いたします。

0-1 研究背景

本論文は21世紀の建築の時代における転換に大きな役割を果たしたスリランカ出身である、建築家ジェフリー・バワの設計作品から、彼が語る建築の時代と高温多湿な熱帯での自然通風を考慮した設計手法を解明することで思想が有する意義 と展開の可能性を示す。

0-2 研究目的

本論文では、湿度や気温が非常に高い地域の自然通風と空 間のつながりをジェフリーバワの設計した作品を風環境を評 価することで建築空間と自然との境界を規定している空間構 造を解明する。また彼の作品が何らかの変遷を遂げて設計論 が集積されていく過程を代表作品を歴史的に辿ることから分 析、考察を行う。 環境評価については近年発達を遂げたコンピューターによ るCFD解析を用いて風の挙動を可視化し、熱帯の建築と環境 の合理的な関係性を提案した思想から今後の建築空間への展 開や空間配列の合理性を研究する。

  • ジェフリーバワの建築の思想や表現と環境とのインタラクションを解明する。
  • 可視化された風の挙動や分布が生活環境にどのような振る舞いをするかを予測し、それらに影響する空間構成や現象から建築設計の本質を考察する。

1-3調査方法・対象

 ジェフリー・バワの数作品を対象として事前に図面から風 環境に対する設計手法の調査を行う。また、それぞれ使用さ れているデザインボキャブラリーや空間構成を整理、分析す る。調査する具体的な内容は通風、内壁、外壁、空間の配置、 開口、またそれらの位置や高さに着目することにする 彼の建築家になるための出発点であり夢と憧れが詰まった 理想郷のルガンガが最も彼の人生の原点から終わりまでの手 法が詰まっていると考えられる。このことから今回のCFD解 析対象は「ルヌガンガ」を選定する。
1-3 研究の位置付け
ジェフリー・バワに関する他の研究では様式や、彼自身の歴史文化についての記述はあるが解析による風環境の評価などの文献は見られないまた風環境の文献については特定の建 築家や固有の建築を対象にしたCFD解析と空間配置を関連づけて人間の生活を考え、研究している作品はなく、本研究ではそのような視点から、ジェフリーバワの作品を対象に通風 環境や敷地と建築を解析を通しての感覚のズレや、デザイン を研究する。

第1章
1-1 建築時代の変遷

20世紀までの建築は産業革命の成果としてモダニズムとい う形で開花した。秩序によって合理的に生産され美が成立し た。しかし、歴史や21世紀の建築家によりそれらの原理が見 直され「庭の時代」の転換が訪れたと言われている。その土 地固有の特別な場所にたつという事実が建築の価値を高める 上で重要であり、それが大地そのものであり植物や気候であ ることから「庭の時代」が始まる。

1-2 スリランカ建築の歴史

紀元前3世紀、インドの仏教とともにシンハラ様式の建築 が伝わり、スリランカの現在においても重要な要素として継 承されている。 またその後も16世紀~19世紀にかけてポルトガルをはじめ とするヨーロッパの建築技術や要素がスリランカへと影響を 及ぼし、現在では様々な様式の建築が存在する。
1-3 ジェフリーバワの建築思想
ジェフリーバワ(Jeofrrey Bawa 1919-2003)は1995年に自 信が「優れた住宅」の条件を以下のように挙げている。
• いかに屋外に暮らすかということ
• ベランダ、バルコニーによる内外の連続
• ガラスの使用を控える この項目から彼が「庭の時代」を切り開こうとしていた意思 を確認することができ、単なる環境としての中庭などではく それを超越した豊かな外部空間との生活の連続を試みたこた が感じられる。
第2章

2-1 スリランカにおける環境の特徴

本研究は作品が多いとされるスリランカの南・西部を調査 対象とする。南・西部は4~6月、10~11月が雨季で、12~ 3月が乾季であり、一年を通して半分以上が湿度が高いと予 想できる。偏西風は半年で北風と西風が入れ替わる。また雨 季には南西からのモンスーンに対しても意識が向けられてい ると考えられる。これらの環境を考慮しつつ、予測考察を行 う必要がある。

2-2 風環境と空間構成 内部の快適な空間を自然通風に委ねる建築が多く、配置の 特徴や連続性が考えられる。風が抜けるための設計の工夫が 空間の特性として現れている様子や、開口部の工夫と内部の 関係に着目することでジェフリーバワの設計手法を解明する 風環境と空間のつながりを相互に考察することで設計にお ける風の挙動と人間の生活する場のデザインを環境面から評 価することができる。
第3章

3-1 環境設計手法の図化

 ジェフリーバワの作品の中ではいくつかの環境設計手法が反復して使われていることが表1を通して確認できる。これらは建築のデザインの特徴にもつながり、現代のスリランカの建築に用いられている手法もこれらの後継者であると考えられる。またバワが得意とする庭の配置や構成についても中庭や裏庭へと姿を変えて存在しており、それらが空気を取り取り込む事や冷却することにつながっていると考えられる。いると考えられる。配置は東西方向に長く四方が庭に囲まれ ており、中庭は存在しない。他の作品に比べ平面構成が複雑 であり、建物の厚みは3~4室分と多くなっている。しかし、 風の抜け道が東西、南北に設けられていることで連続して風 が流れることが想定される。空間の大きさが大小異なること によって圧力差が生じ、風を引き込み強める効果があると考 えられる。

4-2 CFD解析条件

ルヌガンガが位置するコロンボでは11月から3月までが北風 の占める割合が高く、4月から10月の間は西風の割合が高く なる。本研究では北風と西風に焦点を絞り解析を行う。 解析ソフトはAutodesk CFDを用いて北風と西風を共に風速 5mm/sの風を想定して行う。扉や窓は開けている状態で実 験を行なった。
4-3 CFD解析結果

第5章 まとめ

 本研究では熱帯における風環境と建築空間の関係性についてを建築家ジェフリー・バワの作品事例より抽出した。自然を建築に取り込むと同時に設備に頼らない快適な環境を風を通すことで作り出していることが確認できた。またこれらが現代のスリランカの建築家に与えている影響や、これからの日本においてエネルギーと環境との向き合い方に建築空間から新しい提案を考えることができるのではないだろうか。

【参考文献】
1)熱帯建築家 Geoffrey Bawaの冒険/隈研吾、山口由美
2)Geoffrey Bawaの建築スリランカの「アニミズムモダン」:岩本弘光 3)a+u 2011年6月号
4)ジェフリーバワの全仕事
5)スリランカの現代住宅
6)01 ル・コルビュジエの住宅と風の形

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