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自然素材の扱いからみるミース・ファン・デル・ローエ

B4の木村です。春季研究発表の内容を投稿致します。

1.序章
1-1 研究の背景と目的
ミース・ファン・デル・ローエは近代建築の巨匠である。「Less is more (より少ないことは、より豊かなこと)」で有名であり、洗練された材料による空間構成を得意とした。材料には主に鉄やガラスなどの工業製品を選定しているが、一方で自然素材の扱いにも光るものがある。しかし、自然素材に着目した研究は不十分であるため本研究は自然素材の扱いからミースの設計意図を導出するものと位置付ける。
1-2 研究方法
本研究では「バルセロナ・パビリオン」、「トゥーゲントハット邸」、「ファンズワース邸」の3作品を研究対象とする。この3作品は八束はじめの「ミースという神話」にて「神の家」と呼称されている。人間が住むための「人の家」ではなく、魅せるための美学としての建築だとしてこの名がつけられた。従って、この3作品はミースの考えが色濃く反映された建築作品であり、作家の意図を読み取るには最適であると考える。

2.研究対象3作品の概要
2-1 バルセロナ・パビリオン
1929年に建てられたバルセロナ万国博覧会のドイツ館。白色トラヴァーチンで仕上げられた台座の上に柱と壁が配されている。壁が構造から解放され自由に内部空間を規定するフリースタンディングウォールの概念を形にした。
2-2 トゥーゲントハット邸
チェコスロバキアのブルノに建つ住宅。1930年に建てられ、バルセロナ・パビリオンと同様に壁構造からの解放が設計主旨となっている。壁と柱の独立によって、フル・ハイトのガラス壁と自由な仕切り壁が実現した。
2-3 ファンズワース邸
1951年に建てられたアメリカのイリノイ州に佇む週末住宅。2枚の白色長方形スラブが8本の柱によって挟まれ浮遊している。この建築でミースは、ユニバーサルスペースを体現している。均質な空間の中央部にコアをまとめて配することで緩く仕切られたワンルームの居住空間を生み出し、多様な用途に対応できる空間として提供している。

3.自然素材の扱い
3-1 石材
1)床
3作品は共通してトラヴァーチンの床材が使用されている。バルセロナ・パビリオンとファンズワース邸では内外関係なく、同一の仕上げで床面が舗装されており、石目は全て長手方向に平行にとられている。トゥーゲントハット邸内部では、居室は石目、タイル割りともに目立たなく一面の床材といった印象を受ける。一方でテラスや玄関付近では石目、タイル割りともにはっきりと視認することができ、石目は長手方向に対して平行と垂直の2パターンが交互に配置されている。長手方向に平行に石目をとっている2作品では、内外の同一性や、敷地を飛び越えていく連続性を感じさせる。つまり、デカルト座標のような無限に広がる場を表しており、建築はその場の中で規定された1部分に過ぎない。対して平行と垂直を交互に配するトゥーゲントハット邸では、拡散していく場ではなく細かな流れ、すなわちヒューマンスケールを感じさせる。また、床の仕上げを内と外で異なったものにすることで境界を明確にしている。従って、バルセロナ・パビリオン、ファンズワース邸では建築思想の表現として「美」を、トゥーゲントハット邸では人に寄り添った「機能」を先行させたディテールデザインであると推察される。
2)壁
バルセロナ・パビリオンには4種類の石材が使用されているが、外壁にあたる3種類の石材と、内壁にあたるオニキス壁では模様の見せ方が異なる。オニキス壁だけは石をスライスし、それを線対象に展開して使用することで中心性を持たせている。外壁は斑模様や、床石同様に線的な模様で連続性を表現しており、無限に伸びていく外壁と、中心を規定し空間のヒエラルキーを生む内壁で石材の模様を使い分けていたと考えられる。
3-2 木材
トゥーゲントハット邸の居室に置かれた半円形の壁と、ファンズワース邸のコア壁面は共に木材である。双方に共通してその建築において最も人間が関与する空間に木材が使用されている。従って木材は、工業製品が表す「美」と対比した、人間のための「機能」を表しているのではないだろうか。
4.結章
4-1 総括
ミースの自然素材の扱いを研究すると、大きなスケールに発散していく「美」と小さなスケールに収束していく「機能」の2面性がみてとれる。使用する素材を淘汰し洗練していく中で、工業化による生活感の消失に対するミースの葛藤が自然物には表れているのではないだろうか。

 

 

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