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近現代における建築と衣服の変遷から見るパビリオン建築

B4寺島です。2019年度春学期に取り組んだ研究内容について発表させていただきます。

近現代における建築と衣服の変遷から見るパビリオン建築

序章 研究概要

0-1研究の背景

建築と衣服は、古くから、人間の身体を守るシェルターとしての本質を共有し、建築とは“固定されたシェルター”、衣服とは“移動するシェルター”という視点を持つことができる。また、両者は社会的・個人的あるいは文化的なアイデンティティの表出としての役割を担ってきた。両者は時代と共にイデオロギーや技術革新によりボーダーレスな概念をまといながら、結果として様式的に創作動機を共にしつつ、新しい形態や質感をもった作品を生み出し進化させてきた。特にコンピュータをはじめとする様々な技術の革新が、建築や衣服の自由な造形を可能とし、それぞれの表面と構造の関係に変化をもたらしている。

近年、都市から都市へと巡回する移動式パビリオン建築が話題となるが、それらは多様な発想や素材による皮膜的な表面や軽量化された構造により、“移動するシェルター”となることを可能にし、これまでの建築の概念を大きく変容させている存在であることがわかる。パビリオン建築がもたらすその空間は、身体を社会へとつなぐ文化的なインターフェイスとして機能し、都市と対話し、呼吸し、新しい価値をもたらしているのではないだろうか。

0-2研究の目的

・建築と衣服の系譜とパビリオン建築の歴史を明らかにする。

・現在の建築・都市を衣服や身体という視点から見る。

・衣服と建築の中間的な存在として展開されるパビリオン建築の考察を行い、その実態と可能性を明らかにする。

0-3研究の位置付け

2007年に国立新美術館で行われた展覧会「スキン+ボーンズ」展では、建築と衣服が、時代に流布する美的傾向、イデオロギーや倫理的基礎、技術革新など双方に同一の影響を与え、結果として様式および構造上の特質を共有し、創作動機を共にしてきたことが明らかになっている。本研究はそのような系譜をもとに、衣服と建築の中間的な存在として展開され、一時的に建てられるパビリオン建築の価値や実態を考察するものである。

第1章 近代建築における建築空間とその捉え方

1-1建築と衣服の近似性と系譜

衣服を建築のメタファーとする発想は、古代ローマ時代のウィトルウィウスに始まり、ゴットフリート・ゼンパー、アドルフ・ロース、マーク・ウィグリーなど現在に至るまで数多くあることがわかる。また、建築と衣服は機能面においてスケールが大きく異なるが、歴史をたどると、造形性という点において、両者が密接に関係していることが見えてくる。造形性にはその時代の社会的、経済的、政治的な影響が映し出されることがわかる。

1-2パビリオン建築の歴史

パビリオン建築は、目的に対する自由な表現、組立て、解体、移動、転用、再生といったことが要求される。そのため時代の技術を駆使した表情と、情報量に裏打ちされた豊かさが人々を惹きつけ、建築・都市空間自体をも惹きつけてきた。

1-3近現代におけるパビリオン建築の捉え方

パビリオン建築は、強いメッセージ性を持ち、人々の記憶に残るような空間体験をもたらしてきた。次に続く2章から4章では、建築と衣服の近似性と変遷をたどることで見えてきた、双方に共通する「脱構築」「スキンとボーン」「身体化と空間化」をテーマにし、パビリオン建築の分析を行う。

第2章 脱構築

2-1「脱構築主義の建築」展(1988)

脱構築によってもたらされた建築におけるパラダイムシフトは、様々なアプローチ、美学、イデオロギーの介入をそこに許容しつつ、いまだかつてない多義性を建築にもたらした。

2-2 衣服における脱構築

衣服における脱構築への執着は建築ほど理論的影響を受けたものではないが、コンセプチュアルで、服を転用、分解して再構築するような新たな衣服を生み出すきっかけとなった。

2-3脱構築主義的パビリオン建築

脱構築主義の建築は明らかに逸脱した形態をもっているが、それらは建築を解体したのではなく、構造を捉え直し、置き換え、新たな視点を私たちに与えていることがわかる。そのような視点を持ったパビリオン建築に焦点を当て、分析する。

第3章 スキンとボーン

3-1 揺らぐ表層と構造の輪郭

これまで建築において構造と表層が区別されてきた(スキン+ボーン)が、移動式のパビリオン建築や伊東豊雄設計の「TOD’S表参道」のように構造と表層の一体化(スキン=ボーン)が見られるようになった。現在、スキンとボーン(構造と表層)両者の輪郭は揺らいでいるのではないかと考える。

3-2「スキン+ボーンズ」展

2004年に「変容」というテーマで行われたヴェネツィア建築ビエンナーレの主な展示は、建築物の構造骨組「ボーンズ」を覆う外側の連続的なサーフェスと定義できる建築物の「スキン」の性質を探るものであった。「スキン+ボーンズ」展では、こうしたスキンに対する思考をさらに複雑化させ、革新性をもたらしたことにおいて注目に値される建築が取り上げられていた。

3-3表層と構造の関係から見るパビリオン建築

ファッションデザイナーの川久保玲は、衣服は「スキン」が素材で、「ボーン」がコンセプト・テーマだという。パビリオン建築は建築物そのものがメッセージ性をもつものとして構想されているものが多く、同じような見方ができるのではないかと考える。ここでは表層と構造の関係に新たな視点をもたらしていると考えられるパビリオン建築の分析を行う。

第4章 空間化と身体化

4-1伊東豊雄の建築作品

伊東豊雄設計の「東京遊牧少女の包(1984)」では、人々が進展する社会と融合しながら新たな空間を次々と生みだしていく様子が表現されている。空間がまるで衣服のように身体の延長で自由な形態をとり、そしてその空間が都市へと拡張していくことがわかる。

4-2身体感覚と空間

近代が引いた「内」と「外」を不自然にもはっきりと分ける閉鎖的な境界線は、都市間から身体間に至るあらゆる次元で融解しはじめている。現在、外から対象に向かうのではなく、内から対象をとらえていくような理性や意識のあり方が求められるようになっている。様々な感覚的体験を重ねることで、身体を通して場所・空間の本質を把握し、また新たな場所・空間を創出することが一層求めれているように思う。

4-3空間化・身体化の視点から見たパビリオン建築

身体・空間・都市に拡張・還元されるような体験やそのような視点を私たちに与えてくれるパビリオン建築を対象に分析を行う。

結章 総括・展望

5-1パビリオン建築と都市との関係性

建築と衣服の重要な共通点として、両者は私たちがパブリックな場所にいるために不可欠な道具であり、衣服も建築も私たち人間を被覆するとともに、都市空間に介入するための文化的手段であることが見えてくる。また両者は、見て、触れて、包み込まれるという直接的な経験の場であり、人はそこで視覚的・触覚的な喜びを感じる。本来、そうした直接的な経験とそれに伴う感覚や感情をもたらす場として建築がある。そして建築は度々、一つ一つの形態に対して関心が持たれることがあるが、今後はパビリオン建築がそうであるように、建築とそれらを取りまく環境・都市・社会との関係、それらを体験する人々の身体感覚に関心が向かっていかなければならない。

5-2総括

・パビリオン建築は文化や時代の象徴といった面で、どのように人間がものの性質や場所性を理解しているのかを知る上でユニークな事例であるとわかる。

・パビリオン建築は内と外を一体的につなぎ、独特な形態が空間の内外を切断ではなく接続して、建築自体のみならず周辺環境をも生き生きとしたものに変えているように思う。

・パビリオン建築は建築は身体を内包し、身体と社会をつなぐという視点から、建築と衣服の中間的な立場で展開され、共有されていると考える。

・パビリオン建築は建築や都市環境が垣間見せる文化の表情を様々に表現しているが、その背後には時代や場所、目的により多様に解釈された建築や都市環境の空間の情緒が活力としてあることがわかる。

5-3展望

多くの建築が情報化された都市に溶け込み形態を喪失している一方で、パビリオン建築は、その空間がもたらす価値を多様化していると考える。また、パビリオン建築がもたらすその空間は、身体を社会へとつなぐ文化的なインターフェイスとして機能し、都市との対話し、呼吸することで新しい価値をもたらしていると考えられる。さらに近年、空間を場所の固有性へと還元することが建築の課題となっているが、パビリオン建築のように建築自体があらゆるところへ移動し、そのメッセージ性によりそこに集う人々へ新たな身体的感覚をもたらし、新たな概念として還元されるような建築のあり方に可能性があるように思う。

 

参考文献:「ウィトルウィウス建築書」ウィトルウィウス /「装飾と罪悪」アドルフ・ロース  /「我々は人間なのか?」ビアトリス・コロミーナ / マーク・ウィグリー/「カタチの歴史」今井和也 /「スキン+ボーンズ 1980年代以降の建築とファッション」国立新美術館 /「10+1」No.32-35連載 成実弘至/「近現代建築史論」「境界線上の現代建築」川向正人/「動く家:ポータブルビルディングの歴史」ロバート・クロネンバーグ/「仮設建築のデザイン」朝倉則幸/「伊東豊雄 自然の力」Jessie Turnbull/「white walls, designer dresses」マーク・ウィグリー

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