M2の柏木です、前期の研究報告を致します。
1-1.研究の背景
現代の都市空間は様々な用途施設・人種が集積しており、様々な活動が至る所で行われていて、特に東京のような高密な都市部においては都市を記述することは難しくなっている。
写真は発明から今日に至るまで数々の功績を残してきた。ヴァルター・ベンヤミンは写真の黎明期において、「複製技術時代」と呼び芸術分野に革命的な変化をもたらし、芸術作品の礼拝的価値から展示的価値への移行を指摘し「アウラ」という概念を用いて説明した。近年の写真の電子化およびインターネットの普及により、現在ではリアルタイムで世界中で撮影された写真が手元で見れるようになっている。現代においても写真評論家の飯沢耕太郎は「国民総写真家時代」と述べている。誰もがきれいな(アウラが捏造された)写真を手軽に撮れ、一瞬にして世界中へ発信できてしまう時代であり都市の表象が固定化されつつある時代である。
1-2.都市写真と表象文化
都市写真は19世紀にウジェーヌ・アジェがパリの写真を撮りはじめたことから生まれた。アジェは写真を過去の歴史を組み込んだ現代の都市の地理学的記述として用いた。パリの街を犯行現場のように切り取ったアジェの写真は多くの評価を受けシュールレアリスムのはしりとなった。その後、写真による都市表象はフォトモンタージュへと向けられる。フォトモンタージュはアヴァンギャルド達による活動であったが、シュールレアリスト達と対立をしていた。その後ナダールが気球にのって航空写真を撮り始め写真は都市までもを物質化した。
1-3.ベンヤミンと都市写真
ドイツの文学・哲学・社会科学者ヴァルター・ベンヤミンは、「写真小史」(久保哲司訳 ちくま学芸文庫)において、「_カメラに語りかける自然は、肉眼に語りかける自然とは当然異なる。異なるのはとりわけ次の点においてである。人間によって織りこまれた空間の代わりに、無意識が織りこまれた空間が立ち現れるのである。」と述べ、人間の日常の中で肉眼では見えなかったもの・意識の中にないものを視覚無意識と位置付けている。また、「複製技術の時代における芸術作品」(野村修訳 岩波文庫)で「_この二種類の無意識のあいだには、密接きわまる関連がある。なぜなら、カメラによって現実から奪い取られることが可能となる多様な視点の大部分は、知覚の<通常の>スペクトルの範囲外にあるものだからだ。」と述べ、写真は肉眼における知覚とは極めて異質な知覚の論理であるという考えから、写真と化学との親近性を述べている。ベンヤミンの「視覚的無意識」の概念に着目することで、写真のみを用いて都市を記述する手法が見えてくると考えられる。
1-4.研究の目的
以上の問題意識に基づき下記の2点を研究の目的とする。
①都市における裏側である「無意識」に着目することで現在の東京の都市像を破壊し、今まで見えてこなかった東京の表象を生み出す手法とその有用性を提示する。
②また、それをもとに東京の都市空間に共通項や秩序があるのかを明らかにすることを目的とする。
2-1.研究の位置付け
建物間の隙間に関しては、路地空間も含めると様々な視点から研究がなされており、たとえば隙間の機能や効果の実証的分析や、隣棟間の幅と属性に着目して隣棟間隙間率を算出しているもの、都市空間における建物間の隙間を幾何学的手法を提案しているものまで存在し、本研究では建物間の隙間に着目し写真のみで空間を記述することにより東京の都市空間を定性的に論ずるものと位置付ける。
3-1.研究の方法
従来東京というイメージがつくられている都市の中で意識されている物(建築物、構築物)を図として都市の中で目立たない部分、無意識とされている部分を地として考える。都市における図と地に着目し、従来のように図に焦点が当てられた写真ではなく地に焦点を当てた建築物や構築物に囲まれた隙間の写真を撮る。
撮った写真に焼き付けられた普段無意識として見逃している部分を分析し、使われ方や空間的な特性等を分析し、類型比較し、アーカイブ化していく。
3-2.研究の対象
東京都全域を対象とし、離散的に都市を歩きフィールドワークを行う。その際に見つけた建物間の隙間を全て撮影し、同時に地名も記述していく。
4.フィールドワーク
東京にある隙間を切り取り、使われ方や設え、様態に着目し、場所と共に考察していく。
5.予測される結論
東京の都市空間における建物間の隙間を離散的に記述し使われ方や様態に共通項や様態を分析、考察し類型化していくことで日常で意識しない東京という都市空間特有の振る舞いが見えてくるのではないか。
従来の馴染みのある東京の表象とは別の東京の表象が生まれるのではないか。
参考文献
1) ヴァルター・ベンヤミン 複製技術時代の芸術 晶文社
2) 多木浩二 ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読
3) 図説写真小史 ちくま学芸文庫
4) 前川修 痕跡の光学 ヴァルター・ベンヤミンの「視覚的無意識」について
5) 多木浩二 写真論集成 岩波書店
6) スーザン・ソンタグ 写真論 晶文社
7) ピエール・ブルデュー監修 写真論 その社会的効用
8) 貝島桃代・黒田潤三・塚本由晴 メイド・イン・トーキョー
9) 高梨豊 地名論 毎日コミュニケーションズ
以上です、都市論と写真論を参照しつつフィールドワークを続け、自分の研究をどこに位置づけるかを早く決めなくてはいけない状況です。
記述方法(撮影手法)も踏まえ、早急に研究の骨子を固めていきたいと考えています。