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GIS を用いた秋葉原地域におけるテナントの立地特性と変容に関する研究

序章 研究の背景と目的

0-1. 研究の目的と背景

都市の様相は建物の規模や密度といった物理的要素や都市計画等の法的な要因が重なって決まるが、その中でもテナントの業種やその構成等のソフトの面による影響も無視できない。近年の秋葉原は、日本の文化として定着しつつあるアニメやゲームの街として世界的に見てもとても興味深い街である。戦後、電気興業専門学校(現東京電機大学)に近いことから、ラジオの部品を扱う露天商が集まり、電気機器の街として知られていた。しかし日本の流通業の進展の中で、家電量販店でチェーン展開する店舗が1980 ~ 90 年代にかけて急増した。しかし、郊外に安く土地を購入し、大型の店舗を構え始めると、秋葉原まで足を運ぶ人が減少し出した。この電化製品販売の不振に取って代わるようにパソコン関連の機器や部品の売り上げが伸び始め、1994 年の秋葉原電気街の売り上げが家電関係を上回りパソコン街へと変容していく。もともとPC 関連の部品を買い求める人たちは、同時にアニメや漫画、テレビゲームの愛好家でもあり、これと同時期にアニメやゲームマニア対象のソフトウェアを扱う店舗が増え始めた。そして1997 年以降に急速に発展していったオタク産業や再開発により、さらに大きく様相が変化し始めた。

本研究では秋葉原地域に展開する店舗やテナントの実態を調査し、寿命や発生と消滅の頻度を定量化することでその実態を解明する。さらに秋葉原地域におけるテナント・店舗配置の立体的な立地特性を解明し、理論化すると共に秋葉原の特殊性を解析することで、都市を構成している要素がどのような変化をしながら都市の様相や変容に関与しているのかを明らかにすることを目指す。

 

1. 研究の方法

1 −1 調査概要

1-1-1 調査対象

調査対象は秋葉原の一般的な認識である「昭和通り、昌平橋通り、神田川、蔵前橋通り」に囲まれた、南北700 m、東西600 mの区域を範囲とする。

1-1-2 研究方法

秋葉原の歴史的変遷については資料や文献を利用する。テナントについては現地でフィールドワークを行い、テナント情報を目視で確認する。過去のテナントに関するデータ(2009 年以前のもの) はゼンリン発行の住宅地図の巻末に記載されている別記を参照する。その後データをエクセルでまとめ、地理情報システム(GeographicInformation System、以下GIS)等で解析を行う。

1-1-3 調査方法

現地にてフィールドワークを行い、テナント情報を目視にて確認する。調査項目は、1) 建物・テナント名称、2)階数、3) 用途(業種)である。

 

 

1-2 用語の定義

1-2-1 オタク系テナント

アニメ・ゲーム・アイドル・コスプレ・メイド等、あるいはそれらに類する業態をもつテナントを指す。

 

1-2-2 テナント数

「テナント」という言葉を使う際は、階を区別して数えることはないが、本研究では複数階にまたいでテナントが展開している場合、その階数分だけテナントが存在しているとみなす。例として、ある建物の1階から4階までを同じテナントが借りている場合、テナント数は4となる。同系列の店舗が分散して立地している場合も同様である。

1-2-3 床面積

共用部の床面積および斜線制限等による面積減少は考慮しない。また複数のテナントが入居する場合、そのテナント数で床面積を等分割する。

 

2. 秋葉原のテナントの立地特性

2-1. 一般テナントの立地分析

2-1-1. 平面的な立地分析

2012 年度の調査では5841 テナントが存在し、また秋葉原全体の床面積は1,302,624.04 ㎡であった。駅周辺、中央通り沿い、中央通り西側の、いわゆる秋葉原電気街と呼ばれる地域にテナントが密集しており、線路沿いにはフットプリントの大きなオフィスビルやタワー型マンションがひしめき合っている。また、北側の街区には戸建て住宅が残されている。駅周辺の再開発エリアでは、大きなフロアがあり、単一の業種で構成されてしまっているため、秋葉原特有の雑多な雰囲気はない。また、中央通りから西側のエリアには、「メディア」や「家電量販」、「電子機器」が、駅周辺には「食品」や「飲食」が多く分布している。中層階になると、「事務所」が均一に分布している。さらに、低層階では見られなかった「風俗」が昭和通り沿いに分布している。「趣味」や「娯楽」も中央通り沿いを中心に分布している。10 階以上になると、半分以上を「事務所」が占めているが、同時に「空室」が多く分布している。

 

 

2-1-2. 立体的な立地特性

対象地域は都市計画上、「商業地域」に指定されており、雑居ビルが多い。オフィスや商業店舗が数多く存在し、床面積の大部分を占めている。商業的ポテンシャルが高い、低層部に商業や飲食店が多く分布している。注目したいのは低層階でもオフィスが存在していることである。これは運搬業などにとって秋葉原は東京駅などに隣接しており、飲食店や電子機器の配達には都合がよかったのであろう。また秋葉原に事務所を構えることでIT 産業に強いというイメージを抱かせるためにも多くオフィスがあるのではないか。マルチメディアは階層に関係なく平均的に分布している。これは場所さえあればどこでも店を展開し、インターネットなどに精通している人をターゲットにしているために広告となる商品が表に出ていなくても人が来るということからこのように分布しているのではないか。また、各階層に対し、「メディア」と「事務所」と「空室」がほぼ均等に分布している。「電子機器」は低層部のみ分布している。これは商品がそのまま看板の役割を果たしているためであり、階が上がるにつれて立地が不利になるからであると考えられる。これと対照的に「スタジオ・ホール」は中層階に多く分布している。これは箱のような空間が必要であるのと共に、自分しか知らないといったオタクの独占欲を満たすためにこのような分布になっているのだと考えられる。

 

 

2-1. オタク系テナントの立地分析

2-2-1. オタク系テナントの業種別解析

2012 年度の調査ではオタク系テナントは531 テナントであった。これは秋葉原の全テナントの約10%に相当する。また秋葉原全体の床面積の内、オタク系テナントの総床面積は65,968 ㎡であり、これは秋葉原の総床面積の約5%を占める。このようにわずか5%のものが都市の特色として、色濃く現れてくるのは興味深い。都市の中で、大きく面積を占めるものが特色として現れるのに対し、秋葉原ではその逆のことが起きている。 オタク系テナントの1 テナントあたりの平均床面積と非オタク系のそれを比較すると2倍以上の差が見られた。これはオタク系テナントの方が小さな資本で秋葉原にテナントを展開していることが分かる。同時にその小さな資本でも、都市や地域に多大な影響を与えているということも分かる。

 

 

2-2-2. オタク系テナントの立地

全体的に線路の西側に集中して分布している。中央通りと昌平橋通りの間に並行してある道路に多く分布している。これは、車の交通量が少なく、人目に付きにくい場所である。比較的賃料の安い場所で実験的に店舗を出店するといったことが考えられる。また、階層別に見ると、1 階から6 階にかけて集中して分布しており、3 階が一番床面積が大きい。

 

 

 

3. 秋葉原の新陳代謝

3-1. テナントの発生と消滅

3-1-1. テナントの交替量の分析

4 年間で変化した床面積は257,086 ㎡で秋葉原全体の総面積の約20%にあたる。4 年間で交替が起きたテナントは1571 テナントである。これは4 年間で約27%ものテナントが交替したことになる。

2009年から2012年までの各年のテナントの発生と消滅を見る。2010年から2011年にかけてテナントの発生が消滅を上回っているが、それ以外では消滅の方が上回っている。前年度のテナントからどのくらいの比率で変化したのかを見る。各年のテナントの交替比率を見ると、毎年総テナントの約10%に変化が生じていることが分かる。面積比を見ると、2012年は5.53%で、テナント比はほぼ変化がないため、床面積の小さなテナントに多く交替が起きたのだと分かる。このようにテナントが毎年少しづつ変化を起こしながら都市が変容している。だからこそ、家電の街からパソコンの街に、そしてオタクの街へと移行できたのではないだろうか。

 

 

3-1-2 交替の発生場所の分析

再開発エリアではオフィスからオフィスへの交替が頻繁に起こっている。これは建築タイプがオフィスであると、大スパンの無柱空間が必要とされるためであり、他の業種はこのような空間でなくとも存在できるからであると考えられる。電気街エリアでは小さなテナントの交替が目につく。これは床面積が少ないために新規事業の開拓やその撤退が容易なためこのような状況が見られるのだと考えられる。また同業種のテナントでも新たな顧客を獲得するためにあえて店を一時的に閉店させ、内装を新たにキャンペーンを行っているテナントも見受けられた。このような状況は秋葉原だけではなく他の地域でも見られるが、秋葉原では同業種テナントが数多く存在するため、生存競争が激しく行われていると考えられる。1990 年代後半に起きた家電量販店の地方移転にも街として衰退することがなく、新たなサービスや事業を模索したことで今までに見たことがなかった街へと変貌していき、世界的にまで文化を発信する国際都市「アキハバラ」へと成長することができたのではないだろうか。

 

 

3-2. オタク系テナントの寿命

3-2-1 オタク系テナントの交替数と平均寿命

オタク系テナントと秋葉原全体のテナントの床面積の変を見ると、オタク系テナントが全体の床面積が減少しているのにもかかわらず、オタク系テナントが増加しているのが分かる。これは秋葉原が近年オタクの街として推移しているのが如実に現れている。非オタク系テナントがオタク系テナントに移行していることは明らかである。また、オタク系テナントと非オタク系テナントの変化率の比較 を見ると、オタク系テナントの方が高い数値である。これはオタク系テナントの寿命が非オタク系テナントよりも短いことが明らかになった。

 

 

3-2-2 オタク系テナントの交替場所の立地

オタク系テナントの立体交替分布図を見ると、中央通り沿いの上層階に多い。これは、大通りに面しているため広告が容易であり、上層階は低層階に出店するよりも賃料が安く済むために交替が多く発生しているのだと考えられる。駅周辺では再開発が行われたため、再開発で建てられた建物の中に展開するオタク系テナントは面積が大きい。交替が発生したオタク系テナントの多くは面積が小さく、また小さな幅員の道路に面していることも分かる。

 

4. 総括

秋葉原では業種毎にそれぞれ特色を持った立地がなされている。特に「メディア」や「電子機器」は低層部に、「スタジオ・ホール」は中層階に展開している。再開発エリアでは、幅員の大きな道路に面しているために一般人に向けたテナントが分布しているが、幅員の小さな道路に面しているテナントはオタクやマニアックな人を対象としたニッチな商品を扱うテナントが分布している。オタク系テナントは賃料の安いと思われる幅員の小さな道路に面しているか、駅から離れた建物の上層階に多く立地している。またオタク系テナント数は秋葉原の全テナントの10%を、床面積では5%を占める。しかし、この小さな要因が都市の特色として確立している。これは、再開発による大きな開発ではなく、小さなテナントが時間をかけて変化してきた結果だといえる。秋葉原では4 年間で約30%の床面積が変化を起こした。テナントの寿命は長くなく、日々生存競争が行われている。これは、テナントがライバルでありながら、互いに補完関係にあり、都市としてひとつの特色が表れてくるのではないだろうか。さらにオタク系テナントは非オタク系テナントよりも寿命が短い。

以上のことを踏まえて、秋葉原とは

 

 

1)秋葉原は四年間で約30%のテナントが変化する都市である。

 

2)中央通りから西側のエリアに「メディア」、「電子機器」、「オタク系テナント」が集中しており、秋葉原の特色を生み出している。

 

3)オタク系テナントは間接的にアクセスの良い、地下1 階、2 階から4 階に多く分布している。

 

4)テナントの交替は2 階から8 階にかけて多く起こる。

 

5)秋葉原では「もの」を媒体として扱う業種が減少し、「サービス」を提供する業種が増加傾向にある。

 

6)オタク系テナントの変化率は26.17%で4 年以内に何らかの変化を起こす。

 

7)オタク系テナントは「事務所」から発生しやすく、。一度オタク系テナントに変化したら一般テナントに変化するまで時間がかかる。

 

8))再開発エリアでは建物タイプが大スパンのオフィスであるため、交替するテナントは同業種の可能性が高い。

このような結果は秋葉原が変化を許容しながら独自の文化を築き上げている証拠となるのではないだろうか。今後オタク文化が下火になっていくことがあったとしても新たな特色が徐々に都市に出現してくるであろう。秋葉原は世界に類を見ることのない変化と多様性を保持している都市だといえる。

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