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スイスの現代建築におけるエコロジーと表層に関する研究

修士二年の菊池です。前期までの修士論文の成果を報告します。

 

1.序論
1-1 研究の背景と目的
近年、世界的に地球環境と人間社会との共生の在り方が問い直されるようになった。特に環境保全において建築の果たすべき役割は大きく、建築物における環境付加価値の向上や、省エネルギー、長寿命などのサステイナブルな取り組みが注目されており、各国、或いは各地域ごとにおける固有の風土の特性を活かし、適応していくような環境形成の在り方が求められている。
スイスは、ヨーロッパの中においても環境先進国として注目を集めている国である。国土の大半がジュラ山脈とアルプス山脈に抱かれ、フランス、ドイツ、イタリア、オーストリアに接しており、この地勢上の特質によって、特色のある風土の中において、人種的多様性を持った固有の文化圏をそれぞれ育んできた。
本研究では、スイスの現代建築を研究対象とし、固有の環境条件と文化の中におけるスイスの建築との関連性を探り、その特性を明らかにすることを目的とする。特に建築と外部環境のインターフェイスとなる表層に着目し、環境形成としての視点からスイスの建築デザインの手法を明らかにするものとする。

1-2 対象事例と研究方法
本研究では、スイス国内における現代建築物を対象として、「DETAIL JAPAN」「a+u」スイス国内雑誌「werk,Bauen+Whonen」を中心に事例収集を行う。断面詳細図を中心とした図面から断面構成を抽出したもの、或いは写真から分析を行うものとする。

2.スイスにおける特徴
2-1 風土的特徴
スイスの総面積は41,285k㎡であり、丘陵や山脈、川や湖に恵まれたスイスは南北220km、東西348kmという狭い面積において特色豊かな景観を形成しており、国土の30%が丘陵地帯であり、残りの70%がジュラ山脈とアルプス山脈に属している。ヨーロッパの中心部に位置し、北からの寒帯性気候、南から地中海性気候、西から大西洋の海洋性気候、東から大陸性気候の影響を受けている。
加えて、平原地帯から山岳地帯における大きな標高差によって複雑で多様な気候が生み出されている。アルプス山脈を境に北部と南部の気候が明確に分かれていることが主な特徴である。
ケッペン気候区分においては、ドイツ、フランス方面への西岸海洋性気候、アルプス山脈に沿ったツンドラ気候、ティチーノ地域を中心に広がる冷帯湿潤気候(亜寒帯湿潤気候)の3つの気候に大別される。

2-2 文化的特徴
スイスは西はフランス、北はドイツ、東はオーストリア、南はイタリアの国々が隣国である。
またスイスには、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語といった4つの公用語があり、言語圏によって4つの地域に大別することが出来る。(図1)国語の統一よりも独自の文化を重要視するそれぞれの言語地域は、特色のある文化圏を形成している。
スイス国民は、出身コミューン(地方自治体)の住民権、州の州民権、連邦の国民権の三重の籍を持っており、上記の項目と合わせて、スイスにおける強い地域文化的な傾向を示していると言える。

3. スイスのエネルギー政策・建築基準
3-1 国のエネルギー政策
スイスは1990年における国民投票による「州と国は十分かつ幅広く安定して経済的で環境に優しいエネルギー供給および節約型の合理的なエネルギー消費のための活動をする責任を負う」という憲法改正を皮切りに、1991年に省エネルギーと再生可能エネルギーを促進するため10年間の行動計画「エネルギー2000」を立ち上げた。続いて2001年に「エネルギー・シュバイツ」によって2010年までに90年比でCO2-10%の義務付けと、熱分野について-15%を目標とした後続プログラムを導入した。

3-2 スイスの省エネルギー建築基準
1998年に導入された省エネルギー基準「ミネルギー」は、熱エネルギー消費量が法規仕様比で-50%の建物を認定するもので、国や州はこの基準を推進している。さらに、2003年に次世代基準として「ミネルギーP」というドイツの「パッシブハウス基準」に相当する基準を導入した。
この諸制度により、快適な温熱環境、ランニングコストの軽減、低炭素社会に適応した資産価値の高い建築物の実現に貢献している。

3-3 スイスにおける省エネルギー建築の熱源・設備
スイスでは、再生可能エネルギー熱源として、木質バイオマス、空気や地中、地下水の熱などをヒートポンプを用いて利用した環境熱、太陽熱によるエネルギー活用が一般的に用いられている。

4. 事例の分析
4-1 分析方法
「意匠的側面」と「技術的側面」のふたつの視点に着目し、対象事例の分析を行っていくものとする。
「意匠的側面」は、周辺環境との関係性や、デザインの文化的・社会的意味などに着目した視点とし、「技術的側面」に関しては、室内環境の制御や、機能・構法といった項目に着目をした視点とする。これらの項目と表層部との対応を考察していくものとする。

4-2 設計意図の分析
分析対象として取り上げた事例が参考文献に掲載された際の文章において、表層の設計意図が読み取れる箇所を抽出する。また、建築写真・平面図・立面図・配置図等と照らし合わせ、設計意図の主題を明らかにしていく。

例1:チューリッヒの高級住宅/agpsアーキテクチャー
三層の可変性のあるファサードにより、隣接する公園の眺望を確保でき、自由度を持ちながら気候に対応している。スチール製のカーテンが太陽光にきらめく。

agps_image_02_l (1)

 

例2:ヨナケンプラーテンのハウスブロック/ロースアーキテクツ
表層部分の込み入った内部の構造をシンプルな膜状の断熱処理されたルーバーで隠している。地熱利用の埋設管によって外気を事前に温めることによって、高い断熱性能を確保している。またヒートポンプシステムによるパッケージ型の熱交換ユニットを個別に持っており、この設備によって暖房・換気・温水を供給し、設備利用を最小限に抑えている。

apartment blocks in jona-kempraten

 

 

例3:ヒュールの家/パトリック・ガルトマン
山の斜面に立つこの家は、景観を意識した開口をとっている。特殊な断熱コンクリートとカラマツ材等、限られた素材と仕上げで作られている。単層のスキンのため工期短縮と共にコストの節約をしている。

シュールの家

4-3 断面構成の分類
対象事例の表層における断面構成をレイヤーとして捉える。レイヤー0を内外の境界面とし、外側の部位、内側の部位を規定する。表層における断面構成を類型化の上、分類していく。

4-4 断面構成と設計意図との対応
建築の設計意図と断面構成の部位との関係性について考察を行う。

類型

5. 総括・展望
スイスの現代建築は、固有の環境条件と文化に密接に結びついており、そのデザインの手法が断面構成に着目した分析の結果より明らかとなる。また、地域ごとのスイスの建築的特徴の相互関係が明らかとなる。スイスの建築は多様な自然環境に対応しながら、景観との調和のとれたデザインを実現している。

 

 

 

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