M2の池上です。修士論文について、研究の途中経過を報告致します。
私は工場併用住宅がもつ、異種用途の混合が生み出す形態について関心を持ちました。決して相性の良くない工場と住宅の用途が一つの建築の中で実際にどのように構築されているのかを明らかにすることを研究テーマとしています。
■研究の背景
東京都大田区は現在でも数多くの町工場が存在する「中小零細企業の町」である。その中でも特徴的なのは職住一体化が成された工場併用住宅(図1)であり、この場所において数多く見ることができる建築用途である。工場併用住宅はその特殊性のため容易な住替えは難しく、上層の生活空間の拡充のために建物を増改築する工夫を見ることができる。それらは細かく見ていくと同じ用途構成でも様々な形態や配置の差を見て取ることができ、この場所特有の街並み形成に寄与していると思われる。
工場併用住宅ついて踏み込まれた研究はされていない他、立面的な分析に留まり立体的な観点による分析の例はない。本研究では工場併用住宅の空間構成を明らかにするとともに、共存する工場と生活空間の特徴を捉える分析を行う。
図1 工場併用住宅の例
■調査対象について
工場集積地として挙げられるのは大田区であるが、区内でも地域によって工場数には偏りがある。多くの場所で1970年代後半以降、工場は地価の安い地方へと移転し、跡地には住宅・学校・公園等が建設された。現在でも大森地区の南側や東に隣接する埋立地には工場が残っているが、その他の地域は住宅地と商業地が中心となっている。調査対象地はそのなかでも最も工場数が多く、工場併用住宅のケースも多く見ることのできる大森南地区2丁目における工場併用住宅を対象とする。現状の工場併用住宅の分布については、ゼンリン地図及びフィールドワークによる表札確認を行い把握する。対象物件である工場併用住宅の特定の方法は、工場銘板及び居住が確認できる表札の両方を現地にて目視で確認できる物件37件を対象とした。
図2 工場併用住宅の分布図
■形態の分析の進捗について
まず工場併用住宅における、要素を摘出し、表2にまとめた。工場と住宅の機能配置について、バルコニーの型式について、外部階段の型式について、屋根型式について、そして屋上利用等の要素を摘出し、現段階ではどのような要素を見ることができるかをまとめている。
表1:着眼する要素について
・機能配置
機能配置についてだが、これは積層型と並列型の2分類に大別できると考えている。今回調査する中で、工場併用住宅という範疇において、必ずしも建物が1つで完結しているとは限らないということがわかった。積層型は下層に工場、上層に住居部分というのが基本形である。一方並列型については、工場と住居部分の建物が並列しながらも、立体的に接続がされている例や、住居部分の奥にミニ工場団地のような工場群が配置されているものもあるなど、様々な機能配置の型式がみてとれた。積層型は31件、並列型は2件であった。
・バルコニーの型式
次にバルコニーの型式である。バルコニーを持つ工場併用住宅を大別すると、建物建築時に一体的に設計されたものと、あとから増築したことが伺える型式が見ることができた。増築型A,Bは共にバルコニーが後から設置されたような作りが見て取れた。これらは、バルコニー下部の構造材のパターンが2種類確認できたため、A,Bと2分類に分けている。また例外的ではあるが元々バルコニーが設置されているにもかかわらず、更に増築してバルコニーを増やした例もある。つまり、一体型と増築型のバルコニーが一つの建物の中で共存している例があった。なお中にはバルコニーの増築が表面だけではなく側面にまで広がりL字型に増築された例もある。増築型10件のうち4件についてはバルコニー屋根の増築も同時に行われていた。一体型が13件、増築型Aが8件、増築型Bが1件、複合型1件であった。
図5 バルコニー型式の分類図
・外部階段の型式
本研究における外部階段はすべての事例が上層部にある居住部分への動線として、外部階段が使用されている。外部階段の型式については大きく3つに分けることができる。1つ目は内包型と呼ぶ、建物が階段を包み込んでいる型式がある。階段部分は外部空間であり、玄関扉は2階にある。内部空間としないのは住居の玄関空間を下層部に置くスペースが少なかったことが原因であると考えられる。併設型は建物壁面に沿って上層の玄関口へと外部階段が伸びていく型式である。独立型は建築の前面に階段が配置されたり、前面よりも階段の一部がはみ出すようにして建物と独立して配置されている型である。独立型は個別に見ると階段の型式が直線とは限らず、折り返し階段など様々なものが見ることができた。外部階段を持つ13件中内包型が2件、併設型は3件、独立型は8件であった。
・屋根型式
屋根の型式は大きく5分類に分けることができる。陸屋根、切妻屋根、寄棟屋根、方形屋根といった代表的型式が大半を占める。その中では特に陸屋根が多く、屋上利用がなされているケースが多い。そしてこれらの型式に加えて特徴的な型式も見ることができた。道路面外壁は板状の構えを持ちながら、背後は切妻屋根が接続されている複合型である。この型式は表層自体の増築されたことを指し示す可能性があると考えている。陸屋根は15件、切妻屋根10件、寄棟屋根8件、複合型4件、方形屋根1件であった。敷地形状等の面からも方形屋根は少ない結果となった。
図7 屋根型式の分類図
■予想される結論と展望
工場併用住宅はその特性上容易な移転は難しく、増改築をしながら環境変化に対応している物件が数多くあった。また、それとは別に比較的新しい工場については複雑な形態が無いものもある。敷地形状が原因で増改築が難しそうな例も見られた。非常に多様な型式が混在しているが、その型式の組み合わさり方を分析していくと、数種類の一定の傾向にまとめることができるのではないかと考えている。
今後の課題として以下の項目が挙げられる
・個別の要素の分類を通して各物件の調査は進んだが、物件ごとに形態を比較し評価するためにはより一元化した類型化が必要である。
・現状は個別に工場併用住宅を分析しながら要素の摘出を行っているが、増改築の手法については土地の形状も大きく関係性を持つと考えられ、土地形状の情報を整理することにより新たな関係性を導くことができると考えている。