M2 黒坂貴大です。
修士研究が完了しましたので、投稿させていただきます。
背景と目的
現在、地球温暖化等の環境問題、また世界規模の経済的問題などの背景により、サステナブルやローコストといった観点から建築のコンバージョンやリノベーションが日本国内でも重要視されている。
日本には、戦後の近代化を支えた産業遺産が数多く残されており、その中には工場や倉庫といった歴史的価値のある建築物があり、地元保存会が中心となって保存活動を行っている。保存会の働きにより建築物を残すことはできているが、有効利用は出来ていないというのが現状である。また、この地域は産業化時代に工場と共に成長し、活発であったが工場の衰退と共に衰退していった歴史があり、再活性化させる必要性もある。
以上の背景から、コンバージョンすることにより衰退した地域の再活性化を図り、地元保存会の方との意見交換によるリアルな意見を取り入れた設計をし、保存会や所有企業へ提案することを本研究の目的とし、実際に保存会を中心に保存活動が行われている「新町紡績所」をケーススタディとして計画を行っていく。この成果により今後の保存改修活動の礎になることを目指した。
新町紡績所の保存・改修に関する問題点として、
1)紡績の操業停止と共に地域が衰退していったこと。
2)所有企業と保存会の保存に関する意識の違いにより保存活動がスムーズに行われていないこと。
3)保存会に建築の専門家がいないため改修における具体的な空間のイメージが出来ていないこと。
といったことが挙げられる。この問題点をふまえ、
1)保存会との意見交換を通して、地域を再活性化させるプログラムを提案すること。
2)所有企業と保存会の双方の意見を聞き入れつつ、利害関係や対立点を調停し両者に受け入れられる計画を立案すること。
3)建築の専門家として保存活動に介入し、具体的な空間を提案すること。
を目的として計画を行っていった。
以下、設計提案プレゼンボードになります。
結論
本研究の結論・成果は以下の3点である。
1)地域再活性化のためのプログラムとして、歴史・観光・地域交流という3つを内包する施設を提案できた。これにより、歴史・観光を媒体とし、地域交流が盛んになり、地域の再活性化につながると思われる。
2)所有企業と保存会の双方の意見を取り入れて、売却案・プログラム・改修方針を決めていくことができた。
3)資料や関係者からのヒアリングをもとに、増改築の歴史を具体的に5つの期に分けることができた。この増築の歴史に重点を置き「上書きの設計」という手法により、改修の設計を行い空間イメージを提案することができた。
本計画では、増築の歴史を詳さに観察し、時間の積層を丁寧に扱うことで、「上書きの設計」という手法に至った。今後の展望としては、保存に重点を置いたり、構造に着目したりすることでまた違った改修方法が見えてくるのではないだろうか。この計画で終わりにするのではなく、本計画を礎として、より多くの人に「新町紡績所」に興味を持ってもらい、価値を知ってもらうことで、この計画が現実のものとなることが望まれる。
最後に
この論文を完成するにあたって、ご指導いただいた大河内先生、中間発表にて好評いただいた吉原先生、大村さん、小川さん、誠にありがとうございます。
お手伝いをしてくれた後輩の皆も本当にありがとう。
また、研究にご協力して下さった新町商工会の國定様、「よみがえれ新町紡績所の会」の皆様、「クラシエフーズ」の皆様、ご協力ありがとうございました。
そして、6年間支え続けてくれた両親に深く感謝したいと思います。
2012年2月27日
黒坂 貴大