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シークエンスにおける遷移点の研究 ‐美術館建築をケーススタディとして‐

[研究編]

0.序

0-1背景・目的

映画や音楽が場面の移り変わりを連続させることで体験者に意識の変化を与えるように、建築においても空間の抑揚によって起こる場面転換を連続的に体験することによって、その建築の中に引き込まれていくことに魅力的を感じた。空間体験をする中で、その建築に引き込み、現実の世界に引き戻すまでの体験はどのような仕組みによってつくられているのだろうか。

空間体験は、感覚的で抽象的な要素によって成り立っているため、建築作品について明確な評価や比較がされることはなかった。また、建築設計において空間構成をとらえ設計することは容易ではあるが、空間内を移動することによる体験は想像力を必要とし、見過ごされやすい。こうした空間体験の設計は設計者個人の経験や勘に依存する部分が大きく、設計の過程で効果の確認が困難である。従って、空間体験の設計方法をある程度理論化し、誰もが利用できる知見として整備することは重要である。本研究では建築空間体験の抑揚における場面転換のメカニズムを明らかにすることで、設計に使える知見としてまとめるものである。そこで本研究では、空間体験の場面転換を「遷移点」と定義し、研究・分析を行っていく。ここで用いた遷移とは「うつりかわり」のことであり、自然科学の分野では、「何らかの対象が、ある状態から別の状態へ飛び移ること。」を、指す言葉である。研究は、①遷移点を生み出す要素の種類②遷移点の発生リズム③遷移点前後の容積の変化の大きさ3つの視点から分析を行う。この分析から得られた知見をもとに、ケーススタディとして美術館の設計を行うことで、研究の有用性について検討を行う。

0-2対象建築

連続的に異なる空間を体験できる美術館を対象とする。

 

2.遷移点の抽出

まず事例の図面から動線の抽出を行い、そこに遷移点を生み出す要素をプロットする。

2-1動線の抽出

条件にそって平面図ら動線を設定する。

 

2-2遷移点を生み出す要素の抽出

音楽が様々な音によって1つの曲を構成するように、空間体験も多くの要素によって構成されていることがわかった。全事例の遷移点のうち、一番多くみられた要素は異なる空間を繋ぐときに設けられる壁であった。この壁は、視線の抜けを制限することで体験者の意識に大きな変化を与えることができる。また、開口は、空間を外部と関係を設けることで休符のような大きな状態変化をつくりだすことができる。

 

:遷移点の要素とリズムの関係

 

事例から空間体験のスコアを作成し、そこから要素の配列、リズムの観点から分析を行う。

3-3まとめ

分析図から各建築の遷移点を生み出す要素を空間体験のスコア上にプロットした。この要素の発生の仕方は、キース・へリング美術館のように少ない要素で明確に空間体験をつくりあげてあるものもあれば、地中美術館のように多くの要素を使って構成してあるものもあった。また、録ミュージアムは少ない要素の種類で全体を構成していた。要素をみるだけでも曲の音の順番が違えば違う曲になる様に、建築ごとに様々な特色がみられた。また、同じ要素を用いても、配置を入れ替えるだけでも全く違う空間体験を奏でることとなる。

遷移点の発生リズムは、音楽が音のテンポによって様々な曲調を構成するように、体験の調子をコントロールすることができる。出現の間隔を狭めることで、スピード感をもたらしたり、逆に広げることでゆっくりと流れる場面を演出することができる。

:遷移点間の容積変化の分析

遷移点の各要素によって変化する容積を調べることで遷移点の大きさを調べる。

4-1まとめ

容積の変化は、音楽が音の強弱によってアクセントをつけるように空間の容積の強弱によってアクセントをつけることができる。容積が大きく変化する場所では空間は一気に場面が転換し、逆に小さな変化の場所ではおとなしい場面の切り替わりを演出することができる。

:研究編のまとめ

5-1要素・リズム・容積

研究からリズムと容積の変化には特徴が観ることが出来た。そこで設計変では研究で明らかになった特徴から設計を行う。

 [設計編]

6:設計提案

6-1リズムパーターンの生成

まず、遷移点の発生リズムの周期を100mで構成し、以下のルールを適応することでリズムのパターンを生成した。

6-2全体のリズム構成

ここでは都市体験から建築空間体験に徐々に切り替わる様に300m地点で一番の大きな盛り上がる部分がくるようにリズムの配置を選択した。

6-3容積の変化の配置

研究より得られた知見を用いて、遷移点ごとの容積の変化する大きさを設定する。

6-4遷移点を生み出す要素の配置

徐々に大きな変化をつける様に要素の配置を行った。

6-5設計提案

作成し空間体験のスコアから建築を生成する。

同じスコアを用いて複数の建築を設計した。同じ楽譜であっても演奏の仕方によって奏でる音楽が変わってくるように、空間体験もスコアが同じでも少しずつ違った空間体験を奏でる。

7:結論と展望

7-1総括

まず、空間体験のスコアを開発した事が成果としてあげられる。空間を連続的に記述し、可視化することによって、空間体験という知覚できない情報を共通認識することが可能となった。また、遷移点という観点から空間体験を探っていった結果、リズムと容積の変化にはある程度の共通項がみることができ、ことから各建築の空間体験のキャラクターは、用いる要素の違いによって特徴づけられていると言えるのではないだろうか。また、リズムや容積の変化を数値化し、スコア化することによって、空間体験の側面から建築を生成する手法を編み出した。そのことによって、形のための形ではなく、建築の持つ本質的な価値である空間体験から建築の形を生み出すことが可能になった。しかし、実際の空間体験には数値では計り知れない価値があり、この手法はあくまでも設計の足がかりとし、設計まで落とし込む場合はデザインやディテールを含めて検討する必要がある。

7-2展望

本研究では、美術館をケーススタディをとして扱ったが、空間体験はどんなに小さいスケールの建築にも存在するものであり様々な用途や規模で展開していくことが可能である。

また、実際の建築空間にはテクスチャや光の入り方、スロープの角度、壁の傾きなど細かい変化によって多様な空間体験がつくられている。そういった細部を観ていくことによってより身体的な感覚に落とし込んだ展開が期待できる。

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