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天井デザインからみた美術館の空間形成の変容に関する研究 –日本国内にある戦後に建設された美術館を対象として–

修士2年の田中です。修士研究の途中経過を報告致します。

1.研究の背景

戦後の日本において、1951年の神奈川県立近代美術館(設計:坂倉準三)が初めての公立美術館として開館したのを皮切りに、今日まで多くの公立・私立美術館が全国各地に建設されてきた。

磯崎新が「造物主義論」の中でも述べているように、美術館建築は年代によって大きな枠組みとしての潮流があり、彰国社が刊行している雑誌「ディテール」でも美術館建築の年代での流れが語られ、WEBサイトの「10+1」や「美術手帖」では磯崎氏の提唱を引用しつつ、今後の美術館がどうなっていくのかを主題とした記事が掲載されている。

この美術館の潮流を語る際に、建築のどこか一つの構成要素に着目してまとめているのではなく、「美術館」を総合的に捉えて各年代の流れを提唱している

さて、建築物を構成する要素の一つに天井が挙げられる。また、床や壁といった一室空間をつくる要素の中で、とりわけ天井はその空間の機能を含んでいることが多い。例えば住宅では照明や防災装置、オフィスや公共施設など規模の大きい施設では空調設備も天井に設置されている。以上のことから、天井は我々人間が今日生活していく上で重要な建築要素であることは明らかである。しかし、これまで建築を語る際のメディアとして採用されてきたのは専ら平面を中心とした図面であり、天井に重点を置きそれぞれの建築を説明してきたことは少ない。

美術館建築は他のビルディングタイプとは異なり、オフィスのように設備機能を空間に効率良く配置すれば良い、というものではなく、作品と関連した照明配置やその空間の雰囲気を壊さないように置かれた空調設備、天井まで一体の作品空間として考えられた仕上げなど、天井の意匠や機能が展示室全体に大きく影響を与える建築物であり、設計者も天井をより意識しながら設計している。

図1 神奈川県立近代美術館(設計:坂倉準三)

2.研究の目的

本研究における目的は以下の3つとする

1.戦後美術館における天井パラダイムの記述 

2.天井からみた美術館の歴史の再解釈の試み

3.今後、美術館天井に求められるデザインの考察

3.研究の位置づけ

美術館空間に関する研究として小池らによる研究で展示空間の面積の割合の変化や内藤らによる研究でトップライトに着目した研究や、特定の建築家や美術館についての研究は見られる

しかし、美術館の天井部に着目して述べた既往研究は少なく、実際の展示空間が天井部のデザインとどう関連し、また、設備機能がどのようなデザインのものや配置がされているかを天井に焦点を置き、記述している研究はなく、美術館全体を横断的に記述した研究も見られない

各年代の美術館の天井に着目し、それぞれで天井に要請された諸要素、逆に解放された機能を抽出し天井のパラダイムをまとめることが、ひいては美術館のパラダイムを再解釈することが可能になると考える。

4.研究の方法

1.新建築やディテール、作品集などを用いて図面や内観写真の収集・分析

2.補填する必要がある事例については該当美術館へのフィールドワークを行う、また全天球カメラで天井を撮影し図面化

3.1と2によって得られた情報をビジュアル化し(図面やダイアグラム)類型化する

図2 ディテール(発行元:彰国社)

5.分析

現在、天井を中心とした年表図の作成を進めている。また、その記述方法についても適している形式を模索中。以下の3つはこれまでに作成したものである。

図3 天井年表図
図4 天井年表図ver.2
図5 天井年表図ver.3

これまでに作成したものは即物的な括りと思想での括りが混在していたため、今後は、まず彰国社発行のディテールを元にして即物的に年表をまとめつつ、背後に潜んでいる思想の分析も進めていく

6.予想される結論

1.美術館を「天井」から読み解くことで、新たな美術館史の視座の獲得・提示 

2.「天井」に着目し美術館史を整理することは、美術館の主題を明確に捉えることが可能である、ということの提示

3.今後の美術館の主題とそれに伴う天井デザインや空間形成の明示 

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