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現代建築における被覆 / 表層の研究

修士2年の寺島です。修士研究の途中経過を報告いたします。

1 . 研究の背景

【ゼンパーによる被覆論とその後の動向】
 ゴットフリート・ゼムパー(1803-1879)は19世紀に象徴的意味を帯びた装飾形態を集めた表面(すなわち被覆)での形態言語の発生・伝播・統合を扱う被覆論を構築・展開した。19世紀末から20世紀への転換期にはオットー・ヴァーグナーとアドルフ・ロースが全く異なる手法を採用しながら、ともにゼムパーの被覆論を実践に移し、近代建築の新様式を創生する。20世紀初頭にはインターナショナル・スタイルという新様式が展開され、ヴォリュームのサーフェス全体を、連続する一つの面に仕上げ、様式を現象させるために素材をどう扱うべきかが議論された。そして20世紀から21世紀へ、建築の被覆は多様で豊かに展開されている。今日、現代建築の被覆/表層は建築の本体から自立し、意味を表層する独自の表現媒体として要求され、それに伴い建築家の職能も変容・分断している。現代建築の被覆/表層は今後どのような動きを見せていくのだろうか。

2 . 研究の位置付け

【川向正人による論述展開】
 川向正人は著書「近現代建築史論(2019)」で、建築は20世紀から21世紀へ、ヴォリュームの建築から被覆の建築へと変化したと看破し、その転換のルーツが19世紀ドイツの建築家 ゴットフリート・ゼムパーにあることを突き止めた。しかし現代建築がいかに被覆/表層的であるかの論述は非常に少ない。また、著書「境界線上の現代建築」において、境界線(空間境界)としての被覆/サーフェスが現代建築にとっていかに本質的で重要であるかを多くの事例を挙げて論じている。しかし、ここでは建築の被覆/表層そのものというより、身体、建築、そして世界(環境)のインタラクションとその領域に焦点が当てられている。
 本研究は、ゼムパーの「被覆論」から150年、特に1960年代後半以降(検討中)の現代建築の被覆/表層に見られる関心やその過程をたどり、これまでの動向を独自の視座から整理し、その重要性と今後の展開を予想するものである。

3 . 研究の目的

① 1960年代後半以降を起点(検討中)として今日に至るまでの現代建築の被覆/表層の軌跡をたどりどのように変化してきたかを明らかにする。

②「スキン+ボーンズ」「透明性から映像性」「脱構築」「身体の延⻑」「境界と都市」など、現代建築の被覆/表 層に見られる関心やその動向をたどることで見えてきた、これらの視座をもって現代建築の被覆/表層について叙述 できるか否かを検討する。

③ 現代建築の実践において、いかに建築の被覆/表層が多様に(単なる表層ではない)展開され、本質的で重要であ るかを論じる。そして今後の動向を予想する。

4 . 研究の対象・方法・課題


【起点としての1960年代後半】
 1960年代後半はメタボリズムにはじまり、東京オリンピック(1964)と大阪万 博(1970)との間で、戦後復興を終えた日本が世界の先進国に仲間入りしようと離陸した時代であり、楽観的な開発思考が表面化する時代であった。世界史的も五月革命(1968)など近代からの転換点となる異議申し立ての年として記憶され、建築においても同様であった。丹下健三が建築から都市へ、あるいは都市計画に向かう60年代の方向転換を象徴するかのように「東京計画1960」(1961)を構想し発表するのもこの頃である。一般にモダンからポストモダンへの転換期として理解され、モダニズムが終焉した1960年代後半を、現代という時代の起点に位置づけられるのではないか。

→課題:歴史研究ではなく、あくまでも意匠研究として進めたい。対象とする年代の範囲をより現在に近いものとし今後の研究の方針を定め、進めていく必要がある。

【 スキン+ボーンズ 】 伊東豊雄、⻘木淳、隈研吾...
例えば、旧電通本社ビル(1967)は、21世紀に現れる構造と表層の一体化の潮流の先駆けのようである。一方で、表層のないボーンの建築とも言うべきか。今日、表層が構造に還元されしたり、あるいは構造が表層に還元されたりと、究極のスキン建築・究極のボーン建築の登場により、スキンとボーンの関係が著しく揺らいでいる。また、このような建築の被覆/表層の潮流は、【外皮と素材】の関係にも影響している。

【 透明性から映像性 】 ジャン・ヌーヴェル、⻘木淳、SANAA... 
建築の被覆/表層におけるリテラルな透明性の追求は、近代建築を特徴づける一つの要素である。今日においても、特に日本を代表する建築家たちは、ガラス(同様に近代を特徴づける建材である鉄やコンクリート)を使い続けている。しかし、コンピュータや新しい思想をデザインに導入することで、まだモダニズムが十分に展開しきれていなかった別の可能性を発掘しており、多様な透明性の追求へと発展している。

【 脱構築 】 フランク・ゲーリー、ザハ・ハディッド、ダニエル・リベスキンド...
アイコニックな被覆/表層をもつ建築を対象に分析を行う。また、同時代に脱構築という概念が著しく展開された衣服にも焦点をあて論を展開していく。ex.コム・デ・ギャルソンの脱構築 、三宅一生の構造的スキン...
建築あるいはファッションを解体し、美の規範を崩したこと。穴を開けたり、切り裂くこと。非対称であること。未完成のように見えること。素材の使い方をひねっていること。機能や身体に従わないデザインであること。このようなあり方は、それまでの建築の被覆/表層とは大きく逸脱している。

【 身体の延⻑ 】 伊東豊雄、安藤忠雄、コープ・ヒンメルブラウ ...
モダニズム(近代主義的建築)からの脱却、都市と建築のインターフェイスとしての表層から、建築の表層を捉えなおす内省的思考のあらわれ、建築と身体をつなぐコンセプトの出現。身体の延長として建築の被覆/表層をとらえる建築家の言説をもとに、いかに実践されているかをみていく。
また、建築と衣服の双方を横断する言説の整理や被覆/表層における機械のような装置と身体の融合などにも焦点をあてる。

【 境界と都市 】
現代建築の関心が身体(内)に広がりつつ、再び都市(外)への広がりに向かう。身体・建築・都市、三者のインタラクション(相互依存、相互作用、相互浸透)の現れとしての被覆/表層の状況を浮き彫りにする。

4 . 研究の仮説

① 近代建築が引いた「内」と「外」を不自然にも截然と分ける閉鎖的な境界線は、二元論から一元論への転換にとどまらず、あらゆる次元で融解し、展開されている。

②現代建築の関心は、「内(身体)」と「外(環境)」の相互作用・相互浸透を捉えて建築化することであり、これはゼンパー以降の被覆論において特筆すべきことである。

③ 近代主義の建築の被覆/表層はあまりにも抽象的で分かりにくく、 親しみにくかった。一方、現代建築における被覆/表層は、ポストモダニズムによる歴史的な建築言語の再利用でもヴァナキュラーな建築言語への回帰でもなく、全く別のかたちで建築に分かりやすさと親しみやすさ、さらには楽しさを取り戻すことをねらっている。

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