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異化作用に用いた内外の接続手法の研究ー現代住宅作品を対象としてー

1.序論

1-1 研究の背景
建築における一般的な「異化作用」として、ビルバオ・グッゲンハイム美術館やポンピドゥーセンターなどがよく例にあげられる。これらの例は、都市の風景を変えてしまうようなインパクトのある建築物を設置することによって、都市にシンボル性が生まれ、その都市や建築物への訪問者数に大きな影響を与えた。つまり、都市(周辺環境)へのイメージに対して異化された建築物(図.A)による都市スケールでの異化作用である。一方で、現代建築物を見ていくともう少し小さなスケールでの「異化作用」がみられる。例えば、建築家の増田信吾と大坪克亘が設計した「始めの屋根」では、庇の配置計画やスケールなどにおいて一般的な庇とは異なる操作を行うことによって内外の接続を図り、その住宅対しての新たな認識を与えている。つまり、建築物の空間・部位へのイメージに対して異化された部位(床壁等)(図.B)による建築スケールでの異化作用であると考えられる。このような事例が、現代住宅作品に顕著に見られる。

1-2 研究の目的
1)異化作用を実現するにあたって設計段階で建築部位に様々な物理的な操作がなされている。どのような操作によって、どのような異化作用(非日常的な空間体験)を生み出しているのか、本研究を通して現代的な手法の一部を明らかにする。2)建築スケールでの異化作用は現代住宅作品に顕著にみられ、建築部位を異化させることによって住宅の内外の関係に新しい捉え方を生み出している。異化作用による新たな内外の接続手法も明らかにする。

1-3 研究の対象と方法
住宅特集に掲載されている住宅作品の中から、建築部位に対して異化を行っている事例を選定する。選定した事例を対象に、本研究では、建築スケールでの異化作用において、建築部位に対して為された「物的操作による異化」からの観点と、「異化による作用(効果)」からの観点の2方向から各作品を分析する。

2.異化作用について

2-1 異化とは
一般的に使われる「異化」とは「慣れ親しんだ日常的なものを非日常的なものとして経験させる表現手法」のことであり、主に芸術作品において使われる手法である。建築においても同様に、都市や建築物に対する日常的なイメーの中に、ある奇異の操作によって非日常的なイメージや体験を与える手法のことをいう。このような「異化」によって様々な「作用(効果)」が期待される。

2-2 物的操作の定義
異化によって様々な作用を実現するあたって、設計段階で為された様々な物理的な操作のことを「物的操作(=異化)」と呼ぶこととする。本研究では、建築スケールでの異化作用において、建築部位に対して為された「物的操作による異化)」からの視点と、「異化による作用(効果)」からの2つの視点から各作品を分析する。

2-3 建築部位の定義
柱:直立して上の荷重を支える材。
屋根:雨露などを防ぐために建物の最上部に設けた覆い。
庇:日や雨を防ぐために建物から外側に差し出た小屋根。
窓:採光または通風の目的で、壁または屋根にあけた開口部。
階段:段になった昇降用の通路。
壁:建物の四方の囲い、または室と室の隔て。
バルコニー:室外へ張り出して作った、屋根のない手すり付きの台。
ベンチ:横長の椅子。数人が同時に座れる椅子。
梁:上部の荷重を支えるため、または柱を支えるために柱上に架す
る水平材。

3.物的操作による『異化』

3-1 物的操作の対象となる建築部位
選出した9つの現代住宅作品を対象とする。各作品は異化作用を実現するにあたって、それぞれ異なる建築部位に対して物的操作を行っていることがわかった。各作品の物的操作の対象となる建築各部位を表にまとめる。

3-2 配置の操作

異化作用を目的とした物的操作の一つとして「配置」の操作がみら
れる対象作品を分析した。これらの結果から、配置の操作には、内
外を横断的に配置するタイプ(左)と、内外の境界に配置するタイ
プ(右)の2種類が見られた。内外の接続の観点からみると、両者
とも、内外の両方の領域に接続して配置されているため、建築部位
が内外接続の媒体としての役割を担っていることが考えられる。

3-3 素材の操作

異化作用を目的とした物的操作の一つとして「素材」の操作がみら
れる対象作品を分析した。これらの結果から、素材の操作には、周
辺または別部位と素材を統一しているタイプ(左)と、その素材が
持つ特質を利用しているタイプ(右)が見られた。内外の接続の観
点からみると、両者とも、建築部位の素材の操作によって物理的で
はなく知覚に作用させることで内外の繋がりや外部への積極性を人
に感じさせていると考えられる。

3-4 数量の操作

異化作用を目的とした物的操作の一つとして「数量」の操作がみら
れる対象作品を分析した。これらの結果から、数量の操作には、建
築部位のスケールを肥大化させているタイプ(左)と、建築部位の
数を増大させているタイプ(右)が見られた。内外の接続の観点か
らみると、両者とも、通常の建築部位と比べて面積や密度を大きく
することで、建築部位の持つ形態的特徴を最大限に活かして内外や
街との繋がりを強めていると考えられる。

3-5 形態の操作

異化作用を目的とした物的操作の一つとして「形態」の操作がみら
れる対象作品を分析した。これらの結果から、形態の操作には、他
部位の形態を模倣して形態を変化させているタイプ(左)と、コン
テクストに呼応して形態を変化させているタイプ(右)が見られた。
内外の接続の観点からみると、両者とも、建築部位の形態を操作す
ることによって部位自体や内外の関係に対する印象など、知覚に作
用させることで内外の捉え方を変えていると考えられる。

4 異化による『作用(効果)』

4-1 各作品の物的操作まとめ
第2章において、物的操作による『異化』の手法を、配置・素材・数量・形態の物的操作ごとに分析した。その結果、配置の操作には内外の横断と内外の境界、素材の操作には素材の統一と素材の特質、数量の操作にはスケールの肥大と数の増大、形態の操作には形態の模倣と形態の呼応の操作、の物的操作がみられることがわかった。これらの物的操作を作品ごと(建築部位ごと)にまとめると下記の表のようになる。

4-2 各作品の異化作用
1)「蒲郡の住宅」【屋根】
横断的配置とスケールの肥大の物的操作が見られ、この異化作用において、屋根は「道路側からの視線をコントロールする覆い」と「住宅と街との繋がりを生む内外の媒体」という新たな意味を持つ。
2)「階段の家」【階段】
横断的配置とスケールの肥大の物的操作が見られ、この異化作用において、階段は「家族同士を緩やかに繋ぐ媒体」と「住宅と街を緩やかに繋ぐ内外の媒体」という新たな意味を持つ。
3)「谷中の公園のとなり」【ベンチ】
横断的配置と素材の連続の物的操作が見られ、この異化作用において、ベンチは「住宅と街との相互干渉を生む媒体」と「外部から玄関内部を一体的に繋げる内外の媒体」という新たな意味を持つ。
4)「桃山ハウス」【柱】
横断的配置と素材の連続の物的操作が見られ、この異化作用において、柱は「住宅と街との調和を生む内外の媒体」としての新たな意味を持つ。
5)「daita2019」【線材(柱梁等)】
横断的配置と数の増大の物的操作が見られ、この異化作用において、線材(柱梁等)は「生活しながら家を作る補助部材」と「住宅と庭を一体的に繋げる内外の媒体」として新たな意味を持つ。
6)「PeacoQ」【壁】
横断的配置と形態の呼応の物的操作が見られ、横断的配置と形態の呼応の物的操作が見られ、この異化作用において、壁は「内から外へ広がりを持たせる内外の媒体」としての新たな意味を持つ。
7)「始めの屋根」【庇】
境界的配置とスケールの肥大の物的操作が見られ、この異化作用において、庇は「人と場を適度に繋ぐ媒体」と「生活が敷地全体に広がる内外の媒体」としての新たな意味を持つ。
8)「躯体の窓」【窓】
境界的配置と素材の特質の物的操作が見られ、この異化作用において、窓は「太陽光を内外に分散させる反射材」と「住宅と庭の関係を自由にする内外の媒体」としての新たな意味を持つ。
9)「庭先のランドマーク」【バルコニー】
境界的配置と素材の特質と形態の模倣の物的操作が見られ、この異化作用において、バルコニーは「積極的な内外の繋がりを生む内外の媒体」としての新たな意味を持つ。

  1. 総括
    今回対象とした現代住宅作品において、異化作用をもたらす物的操作を分析すると、配置の操作には内外の横断と内外の境界、素材の操作には素材の統一と素材の特質、数量の操作にはスケールの肥大と数の増大、形態の操作には形態の模倣と形態の呼応の操作、の物的操作がみられることがわかった。これらの物的操作によって、建築部位に対して異化作用が生じ、各建築部位が本来の意味に加えて、内外の接続や人の新たな空間体験、周辺環境への応答などを生み出すものとして新たな意味を持つことがわかった。

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