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「強化段ボールを用いたパビリオンの設計・開発に関する研究

学部4年の早川です。2021年度春学期に取り組んだ研究内容について掲載させていただきます。

1.序論

1-1.研究の背景

現在私たちが手にする電化製品、食料品、飲料、青果物、日用品、事務用品、衣料品など日常生活で必要な商品のほとんどは段ボールに包装されている。梱包材として段ボールが用いられるのは、軽量であり商品を迅速かつ安価に輸送・保管できるからだ。中でも強化段ボールは、一般的な段ボールでは運ぶことのできないピアノ、複合機といった重量物を梱包できる材として物流会社によって研究・開発が進められている。また、強化段ボールと似た材料として紙管があげられる。自然災害の多い日本において被災地では坂茂氏が設計した「避難所用・紙の間仕切りシステム(PPS)」が主に用いられているが、強化段ボールを用いることで避難所の照明を防ぐ形態を設計することが可能だと考えられる。さらに強化段ボールは紙から作られているため環境的負荷の少ない材としてリサイクルが積極的に行われおり、低コスト、軽量で加工、施工のしやすさから被災地用のシェルターのみならず様々な用途への利用が可能だと考えられる。

1-2.研究の目的と位置づけ

強化段ボールが家具、自転車、看板、文化祭の展示、配管、建築現場の仮設材に用いられた例は存在する。そのため、強化段ボールを建築の構造体に用いた事例は過去になく、建築の構造体に用いることは実験的であり、新規性を見出す可能性が秘められている。そこで本研究では、強化段ボールの低コスト、軽量で加工、施工のしやすい面材であるという性質を活かして様々な用途に転用可能な変形するパビリオンを設計する。

1-3.研究の方法

①強化段ボールの物性を理解するため、インターネットを用いて実験データ、建築への転用事例を収集する。

②①をもとに強化段ボールの長所を活かして設計を行う。

1-4.研究の対象 強化段ボールを用いて梱包・物流を行っている王子インターパック(株)ご協力のもと、王子インターパック(株)が製造開発した強化段ボール「HiPLE-ACE🄬(ハイプルエース)」を研究の対象とする。

2.調査

2-1.強化段ボールの歴史

強化段ボールはアメリカで1940年代にトリプルウォール(AAA段ボール)が開発されたことで誕生した。一般的な段ボール箱は沢山の製品を製造し、輸出入を行うアメリカにおいて、輸送コスト削減のために製造された。トリプルウォールが誕生したことにより従来木箱で運搬していた重い製品でも段ボールでの出荷が可能となった。日本では1960年頃から強化段ボールが取り扱われるようになり、新しい組み立て方式や美粧箱とともに普及していきました。現在では技術の進歩とともに箱としてだけではなく、生活の一部として強化段ボールならではの強度を活かした様々な製品が開発されるようになっている。

2-2.段ボール、強化段ボールのリサイクルについて

段ボールの回収率は2004年の時点ですでに84%と高いレベルに達しており、2018年時点では96.1%とほとんどの段ボールがリサイクルされている。そして段ボールはリサイクル機構のもとでリサイクルされており、使い終わった段ボールのほとんどが段ボール原紙の主原料として使用され、再び段ボールに生まれ変わる。

3.段ボールと強化段ボール「ハイプルエース」について

3-1.段ボールの形状

段ボールは表ライナ、裏ライナによって中芯を挟む三層構造であり、まとめてフルートと呼ぶ。表ライナ、裏ライナ、中芯はすべて古紙でできている。また、一般的な段ボールは厚さ5㎜のAフルート(A段)、3㎜のBフルート(B段)、A段とB段と接着して8㎜にしたABフルート/Wフルート(AB段)である。

図3-1-1 段ボールの形状(hipl.co.jp

3-2.強化段ボール「ハイプルエース」の形状

強化段ボールは一般的にA段を二層にして接着した厚さ10㎜のAAフルート、三層にして接着した厚さ15㎜のAAAフルートがある。ハイプルエースは最外層に質の高い耐水ライナを使用しており、耐圧強度、衝撃強度を向上している。かつ、強化段ボールはコンテナ内での結露に対応するため、耐水のりを使用している。そのため、気温40℃湿度90%の環境化でも強度劣化しにくい性能がある。

図3-2-1 強化段ボールの形状(hipl.co.jp

図3-2-2 強化段ボールの形状2(hipl.co.jp

3-3. 強化段ボール「ハイプルエース」の強度

強化段ボールの強度データとして王子インターパック(株)が研究実験を行ったNOMOGRAPH(ノモグラフ)と呼ばれる表がある。表3-3-1はハイプルエースを段ボール箱の状態にして天地圧縮を行ったNOMOGRAPHで、P:箱周辺長(㎜)、H:箱高さの数値を示しており、図の赤色点線のようにPとHを線でつなぐとS:天地圧縮強さの数値が分かる表になっている。

表3-3-1  NOMOGRAPH(ノモグラフ)(hipl.co.jp

3-4.強化段ボール「ハイプルエース」の種類

強化段ボールの中には冷蔵冷凍食品・降雨時に使用されるUSPC HiPLE Boxがあり、対候性能に特化した強化段ボールも存在する。図3-4-1のように中芯に耐水の加工を施すことで従来の段ボールよりも耐水性を向上させている。また、表面のライナ部分に耐水性を向上させる溶剤を塗布することで、木箱+発泡スチロールと同等の強度&耐久性を実現している。

図3-4-1  USPC HiPLE Boxの耐水加工(hipl.co.jp

4.提案

4-1.趣旨

強化段ボールはありとあらゆる場所に物資を運搬するために作られたため、低コスト、軽量で加工、施工のしやすい性質を持っている。そこでありとあらゆる場所に簡単に運搬できるという点を考慮して用途や機能はあえて設定せず、作り手自らが作りたい場所で自由に造形できるパズルのようなパビリオンを設計する。作り手は作りたい場所に梱包された強化段ボールを用いて施工を行う。そこで今回はケーススタディとして一つパビリオンを設計する。

4-2.形態

段ボール箱は基本的に物資を梱包することを考慮して設計されているため無機質な茶色い箱の形である。そのイメージを壊すために箱の解体を表現した形態を構築する。また、運搬で用いる強化段ボールの箱を分解しパビリオンの一部とすることで箱の解体を表現する。

4-3.設計条件

強化段ボールはサンプルカッターで切断することでき、CADで書いた線を思い通りに切り出せる。サンプルカッターのサイズの都合上、切り出す際の最大寸法が2100㎜×2460㎜であるため、2100㎜×2460㎜の面材から無駄なく切り出すことを設計条件とする。

4-4.材の切り出し

設計したい寸法の都合上、2100㎜×2460㎜の面材三枚から切り出すことにした。材の形は、①一辺の長さが450㎜の二等辺三角形に接合部の凸凹がついた形のものと②一辺の長さが638㎜の正三角形の二つである。また、サンプルカッターの刃の厚み1㎜を考慮して切り出し図面を作成した。

図4-4-1 切り出し図面図

図4-4-2 材の寸法

4-5.強化段ボールの箱と梱包

強化段ボールの箱の構築方法は、まず蓋となる部分を除いた14か所の接合部を蝶番で固定する(図4-5-1)。その後材を入れて蓋を閉じ、6か所の接合部にひもを通して結び固定する。(図4-5-2)

梱包は段ボールの箱にパビリオンを構成する材をすべて梱包して運搬する。その際にまず、蝶番を用いた接合部(図4-5-3)で強化段ボールの箱を構築し切り出した部材を梱包する。次に蝶番でできた接合部から雨水が侵入することを防ぐために強化段ボールの箱を普通の段ボールの箱に入れる。入れ子にすることで普通の段ボール箱では運搬できないサイズの材が梱包でき、パビリオンに一部となる強化段ボールの箱を汚さずに運搬することが可能となる。

図4-5-1図4-5-2図4-5-3

図4-5-4 箱の梱包方法

4-6.接合部のモックアップ検討

強化段ボールは面材であるため摩擦力活かして接合することが合理的である。そこで木材でよくみる組み継ぎを参考に接合を行った(図4-6-1)。組み継ぎの接合部は面に対して垂直に力を入れれば人間の手で簡単に外せるため構造体として成立しないことが分かった。次に、バラカラー蝶番シルバー(51㎜)、ステンレス小ねじ(3×20㎜)をそれぞれホームセンターで購入し、蝶番をボルト締めする接合を行った(図4-6-2)。

蝶番を用いた接合は三点ピン接合となり成立し、接合部に隙間がうまれることが分かった。次に組み継ぎと蝶番を組み合わせた接合を行った。(図4-6-3)組み継ぎと蝶番を掛け合わせた接合は蝶番でボルト締めした接合(図4-6-2)より強固な接合部となった。

今回の設計では構造的に成立した蝶番でボルト締めした接合(図4-6-2)と組み継ぎと蝶番を組み合わせた接合(図4-6-3)を用いる。

図4-6-1 組み継ぎ     図4-6-2 蝶番でボルト締めした接合  図4-6-3 組み継ぎと蝶番を組み合わせた接合

4-7.平面図

図4-7-2 平面図(高さ705㎜で切断)           図4-7-3 平面図(高さ1170㎜で切断)  

4-8.断面図

図4-8-2 B断面図

4-9.パース

図4-9-1 外観パース

図4-9-2 内観パース1

4-10.基本データ

敷地屋内ならどこでも可能
強化段ボール板の数70枚
蝶番の個数200個
ネジの本数800本
ボルトの個数800個

4-11.その他の形態1

今回設計で切り出した材を全て用いて異なる形態を設計した。階段の下にいるような内部では床座でくつろぎ、外部では段差に腰掛けることのできる形態である。内部にいる人は強化段ボールの構造体によって外部で腰掛ける人と視線が合うことなく居座る。ただ、パースのように実際に腰掛けることが可能かどうかは実験してみないと分からない。

図4-11-1

図4-11-2

4-12.その他の形態2

4-11と同様に今回設計で切り出した材を全て用いて異なる形態を設計した。四方をできるだけ壁にすることで外部から見ると閉鎖的なパビリオンにみえるが、天井を低く抑え、天井に3つの穴が開けること内部空間は開放的な空間とした。材の量が一定であるため、高さを低くすることで延床面積が広がり、人一人が寝転がれる空間となっている。長手方向2340㎜×短手方向1875㎜×高さ945㎜の空間である。

図4-12-1

図4-12-2

5.結論

5-1.総括

強化段ボールで設計できる空間は合板と大差ないが、運搬性能、施工性能は合板よりも優れている。そのため、パビリオン、仮設住宅、避難所、テントといった小規模、短期間の建造物に適している。また、接合部に関しては合板と同様、金具を用いるか摩擦力を活かした接合が最適である。今回の設計では蝶番が200個必要であるため、施工には時間がかかってしまうが構造体としては頑丈なものとなった。しかし金物の重さを考慮していないため、構造体として成立するかどうか確かめるために全体のモックアップを制作し、検討する必要がある。そして、接合部のモックアップ検討をしたことで、木材は継ぎ手を用いて接合したあと人力で簡単には外すことができないが、強化段ボールは継ぎ手を用いて接合した後でも人力で着け外しが可能だということが分かり、その点が合板との大きな違いだというが分かった。

5-2展望

 今回はあらゆる用途に対応するため可変可能な形態としたが、強化段ボールはデジファブを用いて切り出されるため、今回設計した三角の材に丸い穴を開けることや人の手では簡単に施工できないアールの加工が可能であり、バイオミミクリーや有機的なデザインを設計することができるのではないか。また、金物を利用せずに接合部を設計した場合には施工時間の短縮、そのままリサイクルゴミとして廃棄できるため、PPSとは異なる避難所用仮設住居を設計し実用化への可能性があると考えられる。また、将来的に情報技術が発達した際には、自然災害が起きた地域の避難所にドローンを用いて運搬できる可能性があると考える。

参考文献

 asahi-siko.com

zendanren.or.jp

shimz.co.jp

rengo.co.jp

haikan-chiebukuro.com

dumboo.com

researchuseonly.com

hipl.co.jp

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