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建築と土木の融合 -神田川河口の船溜まりを対象とした船宿の保存と親水空間の提案-

修士2年の柳井です。2023年度の修士設計の内容を報告させて頂きます。

序章 研究の背景と目的
0-1 研究の背景
 我々日本人は,地震,津波,火災,噴火といった厳しい天災と常に向き合い,それを克服して生きてきた。災害を契機に,図1 のような住境の間近に大きい防潮堤があることや,図2 のような宅地造成のための擁壁がヒューマンスケールから乖離している実例が挙げられ,これらは,土地の場所性を無視した計画であり,人間の生活する環境を脅かす存在となっている。図1, 図2 より,建築と土木がトータルでデザインすることが欠落していると言える。つまり,建築と土木が分断しているのである。これらから建築と土木を融合することは必要だと考える。

図1 隣り合う住宅街と防潮堤 

                 

図2 宅地造成のための擁壁( 筆者撮影)

0-2 研究の目的
 以上の背景をもとに,研究の目的を以下2 つに定める。
(1) 建築と土木の結びつきを歴史的に概観し,建築と土木が分断していった背景の把握を行うこと,さらに,それらの分断を乗り越える試みの事例の分析を通じて「建築と土木の分断」の実体と具体的な項目に分けて整理を行い,それらの弊害や障害を明らかにすること。


(2) 今後建築と土木の分野的融合を実現する上での課題と方向性を神田川河口の船溜まりを対象として具体的な設計案として提示することを目的とする。

0-3 研究の位置付け
 阿部俊彦の建築物ムカエルについての研究1)2)3) は,建築と土木の連携のための体制づくりや,防潮堤と建築の融合したデザインを提示しており,参考に値する。また,上田多門,山﨑隆司らの「土木学会論説」4)5) では,建築と土木の現状の把握や建築と土木の融合の論の提示を行っているが,独自の融合の可能性の明示はされていない。平野雄一の研究6) では,土木構造物と建築物の一体的な整備の事例を土木構造物ごとに類型化,制度化の有無を明らかにし,一体的整備の変遷を明らかにしている。それに対して本論文は,計画段階においての土木エンジニアと建築家の思想的融合に焦点を当てて述べる。

0-4 「建築」と「土木」の定義
 「建築」,「土木」それぞれの単語には,多くの意味が存在する。その意味を総合的に纏め,要約を行った。以下の定義として定めることが妥当である。
 建築の定義は,「人間がその内部空間において活動するため,計画,設計,施工,さらに使用するに至るまでの行為によってつくられた構造物及び建築物」とする。土木の定義は,「土地や自然環境を活用し,人々の生活や社会のために橋, 道路, ダム, トンネルなどのインフラストラクチャーを設計, 建設, 維持管理する工学の分野」とする。

<研究編>

第1 章 建築と土木の分断
 はじめに,建築と土木の分断がいかにして発生したのか,歴史的経緯を確認する。また,法制度上,概念上, どのような分断があるのかを指摘し,次章以降の論点を明示する。
1) 職能的分断とは,建築的な専門知識,土木的な専門知識の素養の上に成り立っている職業を基にした仕事の分断のことである。建築と土木は分断がなかった時代が存在するが,ヨーロッパ技術導入時の明治初年に建築と土木の職能が分断していったことが背景にある。


2) 法制度的分断とは,建築に係わる法体系と土木に係わる法体系が縦割りになっていることである。日本の国土の土地利用には河川を例に出すと,河川は国や行政機関が所有で, 河川法のもと管理されている。一方, 道路や民有地は様々な所有形態で都市計画法や建築基準法が適用された土地となっている。河川区域と民地の所有の上での分断と, 法律での分断により, 建築と土木は分断している。


3) 概念的分断とは,建築と土木の思想の乖離である。土木の思想では,単機能主義と呼ばれる治水的な要請のみを考えることであるのに対し,建築の思想では,人間心理,技術,制度,経済,歴史などを含めた複雑な事情のもと出来上がる多機能主義に基づいている。

第2 章 建築と土木の分断を乗り越える試み
 第1 章で論じた,職能的分断,法制度的分断,概念的分断に対して,それらの分断を乗り越える試みが為されている。

2-1 職能的分断を乗り越える試み
1)「トコトコダンダン」,岩瀬諒子設計事務所( 図3)
 建築家である岩瀬諒子が土木の領域に参入し,高さ約3m の防潮堤に対してデザインを行った事例である。プラットフォーム形成支援事業により,様々な組織( 公共機関の各部門,地域住民,各種コンサルタント,NPO 法人等) が対等に交流し,高品質な公共空間が創出された。
2)「釜石市立唐丹小学校,釜石市立唐丹中学校,釜石市唐丹児童館」,乾久美子建築設計事務所
 乾久美子建築設計事務所が土木コンサルタントとJV を組み計画段階から建築設計と造成設計を頻繁に往来した事例である。土木で使われるコストのゆとりを認知したことから,子供が利用する施設に4m の擁壁を随所に入れ込んだ建築物となった。( 図4)

        図3 トコトコダンダン

図4 釜石釜石市立唐丹小学校,釜石市立唐丹中学校,釜石市唐丹児童館

2-2 法制度的分断を乗り越える試み
1)「かわてらす」,東京都建設局( 図5)
 防潮堤の上にテラスを設置する社会実験である。河川占用許可準則「都市及び地域の再生等のために利用するために利用する施設に係る占用の特例」により,河川管理者が区域を指定し,民間事業者は許可を受けて,「かわてらす」の設置と飲食店営業を行っている。
2)「新虎通り」,一般社団法人新虎通りエリアマネジメント
 道路法の特例を活用して,建築物を歩道上に設置した事例である。( 図6) 国家戦略特区( 国家戦略道路占用事業) として認知され,道路法の特例を適用することで,都市再生特別措置法に基づく特例道路占用区域内において,地元のエリアマネジメント団体である一般社団法人新虎通りエリアマネジメントが,道路法第32 条による占用許可を受けた。これより,「歩行者利便増進道路( 通称:ほこみち)」が,利便増進誘導区域として指定をされ,広告塔・看板等の設置,食事施設・購買施設の設置,各種イベントの開催を行うことが可能となった。
3)「八幡浜市立日土小学校」,八幡市役所土木課建設係,松村正恒
 建築家が河川法の壁を乗り越えた事例である。本来,河川の上部に建築を建てることは河川法に抵触する。この建築は,図7 のように河川の上部をテラスや階段がまたがるように設計が行われている。どのように河川法の壁を乗り越えたかは協議の結果,不明であった。ただ,川との親和性を手にし,子供たちや教師にとって,教室とは異なる意味を生む特別な居場所を創ったことは称賛に値する。

           図5 かわてらす                          

          図6 歩道上の建物

          

          図7 日土小学校

2-3 概念的分断を乗り越える試み
 概念的分断を乗り越える試みは,12 事例存在する。このうち代表的な4 事例について述べる。

1)「birdhouse」,宮本佳明建築設計事務所( 図8)
 擁壁に対しデザインを建築とともに行った事例である。この事例は,図9 の概念図に示すとおり,本来急斜面の敷地に建物を建てる場合,宅地造成のため量感のある擁壁を用いるが,なるべく建築と自然をソフトに馴染ませることを目的として建てられた建物である。また,図10 より赤い部分がインフラ( 基礎) 部分で,各断面図の赤い部分は多様に現れており,擁壁に対しデザインが行われていることが分かる。
2)「クローバーハウス」,宮本佳明建築設計事務所( 図11)
 土木空間を堀り,建築空間にした事例である。雛壇造成された宅造地盤面と既存石積み擁壁の掘削をし,その空いたスペースを住居空間とした事例である。
3)「SHIP」,宮本佳明建築設計事務所( 図12)
 建築が土木と一体化しているように見える事例である。この建築より宮本氏は,本来3 階建ての建築だが,擁壁と建築が一体化した4階建てのRC 打ち放しの建物のように見えたことから,「土建空間論」という論を提示し,船の喫水線を例に出し,喫水線の上下とインフィルとインフラの上下が重なったことより,土木と建築の線引きは自由に動かせると語った。
4)「熊野東防災センター」,大西麻貴+百田希/o+h( 図13)
 建築の領域内で本来土木が行う災害対策を行っている事例である。カーブを描く外壁によって,三谷川の氾濫時に水を受け流すことができる設計となっている。( 図14) よって, この建築は建築の領域だけで河川氾濫を受け流す土木の役割を持った建築であると言える。

           図8 birdhouse                          

     図9 土木のデザインを行った概念図

          図10 birdhouse の9 つの断面図                     

        図11 クローバーハウス

          図12 SHIP

         図13 熊野東防災センター                   

     図14 建築が土木の役割を持った概念図

2-4 小結
 以上,この章では計17 事例を提示し,17 事例の建築と土木の関係性を整理し,図15 に示した。建築領域と土木領域の分断を乗り越える試みは多様であったが,各分断ごとに整理することができた。

図15 建築領域と土木領域の分断を乗り越える試み

第3 章 研究編の総括
3-1 まとめ
 第1 章では,建築と土木の分断には職能的分断,法制度的分断,概念的分断という3 種類に整理でき,それぞれの分断が起こった背景や分断がもたらす障害等の問題点の整理を行った。第2 章では,建築と土木の分断を乗り越える試みを事例をもとに分析し,図にまとめることで現状の建築と土木の関係性を明らかにした。
3-2 設計編への展望と指針
 研究編での論考をもとに,設計編では敷地特有の職能的融合,法制度的融合,概念的融合を論じ,設計案を作成する。

<設計編>

第4 章 設計の方針
 論文編より,建築と土木の分断を職能的分断,法制度的分断,概念的分断の3 つに整理したことを踏まえて,具体的な敷地を定め,提案する。
4-1 職能的融合
1) 敷地における職能的分断 
 建築家は,内陸側の決められた街区に容積率いっぱいの建築を設計し,行政の土木技術者は,河川と道路の境界部分を設計し,現状建築家と土木技術者の協同は図られていない。
2) 職能的融合を目指すプロジェクトの体制( 図16)
 建築専門家の立場から職能的融合を試みる。そこで,土木コンサルタントとJV を組み以下の提案をする。
①予算の融合
 建築では予算が限られている。しかし土木では,建築の上限のように明確な上限がない。建築でも土木でもない建物を作る際,建築での予算と土木での予算を融合することでコスト問題を解決する。
②連携の円滑化
 神田川の河川管理者である東京都建設局は土地や河川構造物の所有権を有するが,水都東京再生事業は,東京都内でも土木だけでなく,魅力づくりを担う他部局などとの協同事業になるため部局横断的な繋がりが鍵となる。行政へのヒアリングの際にも河川部の指導調整課と河川部の計画課の方が参加してくれ,他部局との連携が見られた。ただ,河川部にも5 つの課が存在する。この5 つの課を取りまとめる役割として,水都再生事業部を置くことで連携の円滑化を可能とした。

図16 職能的融合を目指すプロジェクトの体制図

4-2 法制度的融合
1) 現状の敷地の法制度的分断
 河川部分は,河川法であり,道路や民有地部分は都市計画法や建築基準法という法体系により管轄されている。( 図17)

図17 法体系による分断

2) 特例占用と道路法の特例を活用
 河川部分では,「かわてらす」で行われている特例占用注1) を利用する。河川管理者にこの敷地を指定区域にしてもらう。道路部分では,「新虎通り」で行われた道路法の特例注2) を活用し,歩道上に建築を建てることができる体制にする。

4-3 概念的融合
1) 現状の敷地の状態
 行政のヒアリングから,この敷地の土木( 堤防) には篠原修が訴えていた単機能主義が当てはまる。行政は,河川は洪水を流すものという主張で,日常的に川に近づいてもらうということより,災害時の河川の氾濫を防ぐことに重きをおいた主張であった。
2) 自然主義という提案
 土木工学は,人間と自然のインターフェイスとして捉えられ,土木をデザインすることにより,人間は自然に近づくことができるのだ。

第5 章 対象敷地
5-1 敷地周辺の概要
 対象敷地は東京都台東区柳橋である。かつて柳橋は,旦那衆が若者衆を乗せ隅田川を行き交う涼み船や投網で取れた魚を天ぷらや刺身にして客に出す料亭街として水文化が形成していた。しかし,高度経済成長期の水質汚染と堤防の建設によって陸域と水域は分断され,水辺との関係は絶たれた。
5-2 船宿について
本敷地には,9 軒の船宿が存在する。建築は,本来河川の上部に建てることは不可能であるが,この船宿は既得権により河川上部に現存することが出来ている。また,奇妙なことに土木構造物である堤防の上に乗る形で船宿は構成されており,堤防という強い構造に木造という弱い構造が絡み合う構法である。( 図18) 詳細にみると,堤防の形に合わせた壁,堤防の上部にひっかける梁,場当たり的な筋交いが見られた。( 図19)

           図18 船宿断面図                          図19 船宿と堤防の関係

5-3 ハザードマップについて
 この近辺のハザードマップに東京都建設局による神田川流域浸水予想区域図や台東区による神田川水害ハザードマップ,中央区洪水ハザードマップ( 隅田川,神田川,日本橋版) の3 つが存在する。それら3 つには船宿の記載が存在せず,船宿の被害予想や浸水予想はなされていない状態である。
5-4 ヒアリング
 船宿の1 つである「小松屋」と東京都建設局にヒアリング調査を行った。
5-4-1 小松屋

 本敷地に存在する9 軒の船宿のうち小松屋は2 軒を占め,台東区側の堤防,中央区側の堤防の上にそれぞれ1 軒ずつ存在する。その
うちの台東区側の1 軒である小松屋( 図20) の4 代目である秋元氏にヒアリングを行い,以下の点が判明した。
・堤防に対する不満
 「表面がツルツルな堤防でなく,石垣にすれば水の流れも緩やかになるというメリットや,転落の際に掴まれるし登れるし,かにや魚が集まるし,ゴミも集まるがその場で自然に還る。」と語られ,コストだけでなく,自然との共存,安全面,景観の3 点の話から将来に渡って長く役に立つための堤防を望んでいた。
・曳家で移動した船宿
 曳家で台東区側の船宿を中央区側に移動させた背景がある。その後,台東区側の堤防を整備し,新しい船宿が建設された。
・水面使用料の支払い
 東京都に水面使用料を仮設桟橋として国の方から借りている。
・増築や補強( 図21)
 10 年に一度杭が腐るので真ん中の腐る部分を抜き新しい部材をはめ込み, 添木を行う。腐る部分は決まっていて,下に沈んでいる部分は腐らなく,上部の部分も腐らず,水面に当たる部分が腐る。
・災害時の船での避難
 屋形船連合会,釣り協議会があり,これらの組織は,行政との連携をはかり,緊急輸送の訓練を行っている。

                図20 小松屋模型写真( 筆者作成)                    図21 船宿の増築

5-4-2 東京都建設局
 敷地の堤防を管理している東京都建設局の河川部指導調整課,計画課にヒアリングを行い,以下の点が判明した。
・一貫した主張
 「河川は洪水を流すもの」という主張がヒアリングの際に何度も言われた。
・不透明なものの見逃し
 ハザードマップに船宿が記載されていない点については,「基本的に河川の占用許可を出すときには安全面が担保されている工作物に許可を与えていくわけで,許可工作物一般が危ないものという前提が間違っていて,基準類をクリアしているから河川区域内に占用許可工作物があるのであって,ハザードマップに載ってこない方が自然である。」という話や,船宿の増築については,「河川敷地占用許可準則に『占用の許可の期間が満了した後に継続して占用するための許可申請がなされた場合には,適正な河川管理を推進するため,この準則に定めるところにより改めて審査するものとする。』と記載されているので,基本的には減築は可能であるが,増築は難しい。また,許可内容に適合してないにしても関与してしまうと,変なトラブルとなってしまうから関与していないというのもある。」という話から,船宿の増築に関して行政が目をつぶる場面が見られた。

図22 配置図

第6 章 設計提案


6-1 設計
 以上3 つの設計指針と敷地調査から,船宿の保存,船の建築化と3 つのプログラムを提案する。船宿の保存は,堤防と船宿を融合し,災害時にも船宿が残る提案である。船の建築化は,河川に溜まっている船を日常的に利用可能なものとする提案である。3 つのプログラムうちの1 つ目( 敷地A) は,防災拠点となる消防署と図書館の2 つの用途を掛け合わせた施設,2 つ目( 敷地B) は,近郊の開智日本橋学園中学・高等学校の学生が利用することができる子ども図書館,3つ目( 敷地C) は3 つの船宿と連携をとる公民館である。
 親水空間を提案することと同時に,災害時に避難できる施設を双方提案することでこの地域の安全性と賑わいを生むことができる。
1) 船宿の保存
 船宿の保存は,船宿を新たにRC 造の床を補強することとし,船宿を支えている木杭やブレースが河川の氾濫時に流されても船宿が存続し続けることができる。また,各船宿の下の空間を有効活用するにあたり,多数の木材で出来ていて暗くなってしまっているこの空間を,人が入り込める空間とした。

               図23 木材の抜き取り                      図24 土木領域に入り込む人

2) 船の建築化
 都市の河川を占拠している船宿に対処するため, 船宿経由せず利用できる新しい船を設計。一般の人が河川に近づき, 賑やかで活気ある場所に変化をもたらす期待。

               図25 3 種類の船                        図26 土木領域に建築が入り込む

6-2 期待される効果
 本提案により,期待される効果は以下の4 つである。
1) 自然( 河川) への接近
 本敷地に存在する堤防は,人と自然( 河川) を分断している。その堤防を,敷地A では一部抜き取り,治水機能を損なわず自然( 河川)に人が入り込める親水空間を創出した。敷地B では,堤防を曲げて,堤防が建築領域に侵入し,建築空間は土木領域に飛び出す。よって,人が自然( 河川) に近づく,敷地C では,堤防を基礎とみなし建築空間が,土木領域に創出され,自然( 河川) を感じながら人間の行為・行動が生まれる。
2) 災害対策
 船の建築化の提案と堤防の一部撤去から,災害時に交通インフラとして利用される船に,容易にアクセスすることができるようになった。敷地A では,陸域,水域の両方において開かれた設計により,一般人が日常的に訪れ,この施設を地域の防災拠点として認知する。敷地B では防災倉庫を所有している日本橋消防団の存在が,可視化される。また,既存の建築に取り付いている屋外螺旋階段を通じて災害時屋上に避難できる。敷地C では,3 つの船宿と連動した建築物により災害時に4 つの船宿が所有する船での避難をスムーズに行うことができる。そして,3 つの敷地には災害時に船が回遊する新たな船着場が生まれた。
3) 船宿の保存
 船宿は,河川の近くに建っていることから劣化は早く,既得権として生き残っているため増築,改築が許されていないため船宿はいずれなくなってしまう恐れがある。また,氾濫時には船宿を支えている木杭が流されると,船宿は倒壊するに違いない。そこで今回の提案を行うことで,神田川が氾濫した際に船宿だけは生き残ることができる。船宿が生き残ることができれば,この地域に根付いていた水文化を再構築することができる。
4) 土木の威圧感の軽減
 本敷地に現存する堤防は,約3m の高さがあり,ヒューマンスケールと乖離している。その土木( 堤防) をヒューマンスケールに合わせた土木を設計した。治水機能を損なわず,人の動線とシンクロする土木によりこの地域は土木と親しい都市となった。


第7 章 設計提案
7-1 総括
 ①船宿の保存は,土木の領域に人が入れる空間を創出した。②船の建築化は,土木領域に建築の空間が入り込んだ。③敷地A,④敷地B では,土木領域に建築空間,建築領域に土木空間が入り込んだ。⑤敷地C では,建築と土木の境界を建築空間がまたがる設計となり,建築と土木の境界が揺らぐ提案をすることができた。

7-2 展望と課題
 今回利用した手法の堤防を一部抜き取ることは,経済的な合理性や市民との意見等の把握が不十分なため,少し非現実的な提案となってしまった。提案を超えて実務的に実現するレベルに到達できていない。
 本提案では河川が敷地の舞台であったが,土木と建築が分断している山,斜面地,島など多くの箇所が存在する。それぞれの敷地を舞台とした提案をすることを今後の課題とする。


結章 まとめ
8-1 総括
 研究編では,建築と土木の分断には職能的分断,法制度的分断,概念的分断の3 つに整理することにより,それぞれの分断による障害を明らかにできた。さらに,建築と土木の分断を乗り越える試みを事例をもとに分析し,図に纏めることができた。設計編では,3つの分断と敷地に関するヒアリングをもとに,敷地特有の職能的融合,法制度的融合,概念的融合を論じた。3つの融合と敷地の特徴を活かし総合的に判断し提案を行った。今回の提案のような建築と土木の両義的なデザインを考えることは,「建築と土木の分断」が数多く存在し,未だ増え続ける状況において,非常に価値のあることだ。
 本提案では,建築と土木の両義的な建築物を設計したことで,この地域の水文化を活性化させることができた点から,自然との距離がより近い新たな空間像や都市像を提案できた。建築と土木の融合により,地域の水文化を活性化し,自然との関係を強化した提案は,都市の未来に新たな視点を提供する。

参考文献
1) 阿部俊彦:「気仙沼内湾地区の『まち』と『海』の復興コミュニティ拠点」,日本建築学会建築雑誌,第1665 巻,p46-47,2014-12
2) 阿部俊彦,津久井誠人,長谷川浩己,角舘政英,村山寛:「14008 気仙沼内湾ウォーターフロント」,日本建築学会学術講演梗概集,第2020 巻,p16-17,2020-09
3) 阿部俊彦,津久井誠人,岡田昭人:「内湾ムカエル( 東北)」,日本建築学会建築雑誌. 作品選集,第1735 巻,p12-13,2020-03
4) 上田多門:「土木と建築との統合」,土木学会諭説2017.2 月版①
5) 山崎隆司:「土木・建築の境界領域の再考」,土木学会諭説2016.1 月版①
6) 平野雄一:「土木構造物と建築物の一体的整備の変遷と類型」,東京大学学術機関リポジトリ


注釈
注1) 特例占用とは,河川占用許可準則に記載されている「都市及び地域の再生等のために利用する施設に係わる特例」。
注2) 道路法の特例とは,都市再生特別措置法に基づく特例道路占用区域内において,地元のエリアマネジメント団体( 一般社団法人新虎通りエリアマネジメント) が,道路法第32 条による占用許可を受けた状態のこと。


図版出典
図1 夢道乗光:https://4travel.jp/travelogue/11652467
図3 新建築:新建築社,2017 年5 月号
図4 新建築:新建築社,2018 年3 月号
図5 東京都建設局:「かわてらすⓇの設置状況」,https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/kasenbu0134.html
図7「素描・松村正恒」,建築家会館,1992.10,p124
図8 KATSUHIRO MIYAMOTO&ASSOCIATES https://www.kmaa.jp/work/birdhouse/
図10,12 traverse: 「【インタビュー】建築家・宮本佳明」https://www.traverse-architecture.com/1-3
図11 KATSUHIRO MIYAMOTO&ASSOCIATES https://www.kmaa.jp/work/cloverhouse/
図13 新建築:新建築社,2021 年7 月号

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