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現代建築作品の模型の変遷と建築思想-模型の物理的構成と表現意図に着目して-

M2の柚木宏斗です。2023年度の修士論文の内容を報告させていただきます。

序章 はじめに
0-1 研究の背景

 建築模型は,建築設計のスタディ段階からプレゼンテーションまで幅広く製作されており,その目的や意義は多様化し絶えず変化している。設計者は,実際の作品を発表するだけでなく模型を製作することで自身の設計意図や理念を発信しており,模型は設計者にとって重要な表現媒体である。一方で,これまで模型は設計者の意図や空間構成を3次元で伝える唯一の手段であったが,近年のVR技術の発展のように建築業界では様々な3Dの表現技術が確立されている。こうした背景から一部の大学では設計教育における模型不要論が挙がったとも言われている。また2016年に建築倉庫ミュージアムが誕生したように,模型は単なる使い捨ての媒体ではなく,作品とは独立したメディアとして保存の価値を持ち始めている。このように技術や時代が大きく変化している現在において,模型の意義を見直す必要があるのではないだろうか。
0-2 研究の目的
 以上の背景を踏まえ,本研究では「模型は設計者の意図が反映されているが,表現の多様化は設計者の意図だけでなく各時代の建築思想や時代背景とも関係がある」という仮説を立て,
①模型の「物理的構成」の整理を通じて顕著な形式を抽出すること。
②模型の意図・目的の読み取りを通じて,模型の「製作目的」・「表現意図」を整理すること。
③顕著に見られる模型の「物理的構成」と「目的・意図」の組み合わせを導き出し,それらの1975年以降の変遷を示すこと。
④③の結果に各時代の主たる建築思想の変遷を照合することで,模型と建築思想との関係を考察すること。最終的にこれからの模型の意義について論じる。
以上4点を明らかにすることを目的に研究を行う。
0-3 研究の位置づけ
 模型に関する既往研究には,大森らの模型の表現構成に関する研究1)や奥山らの模型写真の構図に関する研究2)がある。これらの研究では,模型の表現構成や写真の構図に関しては明らかにされているが,模型の変遷や建築思想との関係を明らかにしたものや,模型と表現意図の関係性や模型の意義について述べている論文は少ない。本研究では,これら既往研究の知見を踏まえつつ,模型に焦点を当てて分析することで背景にある模型の存在意義,建築思想との関係を問い直すことを目指す。
0-4 研究の対象
 本研究では,模型を用いたスタディやプレゼンテーションが一般化した1975年以降を分析の対象とする。模型のサンプリングについては,日本の現代建築作品を数多く掲載し,建築思潮や建築デザインの新しい動向を発信し続けている雑誌『新建築』3)の,1975年1月から2023年9月までに掲載された作品のうち,模型写真が掲載されている417作品,464点の模型を対象とする。
0-5 研究の方法,論文の構成
 はじめに,収集した模型写真をもとにデータシートを作成して分析を行う。その際に,本研究では「模型」とは,「物理的な構成」と,ある「目的」や「表現意図」を統合した上に成立する表現媒体であると定義する。これを踏まえて,さらに図1に示すように第2章で述べる模型の「物理的構成」,第3章で述べる模型の「目的・意図」の2つのカテゴリーに分けてそれぞれ分析を進める。

図1 分析の構成

第1章 模型の基礎的知識の整理
1-1 建築模型史

 建築家の今村創平4)や藤村泉5)によると建築模型の起源は5世紀の家形の素焼き埴輪まで遡る。しかしこれは象徴として製作されたものであり,現在の模型の原型は飛鳥・奈良時代の「様」または「雛形」と呼ばれるものである。
 その後時代は進み,西洋建築が輸入された明治期では,模型の在り様も大きく変化する。これまで軸組で構成されることが多かった建築が面材で構成されるようになり,面材を用いた抽象的な模型が増えた。これにより模型は飛鳥・奈良時代における施工時の検討などの目的から建築の縮小版としての役割を担うようになる。その目的は現在も変わりないが,1950~60年代では建築家が自身の都市構想を模型で表現することが増えた。これにより,模型は新たに建築家の構想の表現媒体としての意義が重視されるようになる。
 次の変化は1970年代である。この時代からはスチレンボードなど多くの模型材料が採用され,様々な表現が可能になったことで,模型は個人の作家性を表現する媒体としての側面を持ち始めた。
 さらに2010年以降も大きな変化が見られる。SANAAなどがスタディ模型を展示することで設計プロセスをオープンにしたことからわかるように,模型の新たな意義が現れ始めている。また,2019年から始まったコロナ禍によるオンライン化への移行や3Dプリンターの普及などにより,現在は建築模型の変革期を迎えている。
2-1 模型材料史
 歴史を遡ると,模型材料は粘土,木質系材料,石膏,発泡スチロール系材料,金属系材料,樹脂系材料が用いられてきた。(図2)中でも最も古い材料は粘土である。粘土を用いた模型では,村野藤吾のそれが有名であるが,現在でも一部の建築家が好んで用いるほど歴史がある模型材料である。
 その後,500年頃からは木材が用いられるようになる。前述した雛形には木材が採用されており,古代から近世にかけては木材での製作が主流であった。
 西洋建築が輸入された明治期になると,模型材料も木質系材料に代わり,石膏が採用されるようになった。
 また,1930年代には,航空機の模型に使われるようになったことをきっかけに設計事務所を中心にバルサ材の採用が流行し,1940~50年代には主要な模型材料であった。
 その後,1970年代になると現在の一般的な材料の多くが登場した。発砲スチロールを板状に加工する技術が確立されると,安価なことと加工のしやすさからバルサ材に代わり,スチレンボードはすぐに主要な材料として広まっていった。同時にアクリルや金属系材料などと併用することにより多様な模型表現がされるようになる。
 また近年では,新たな模型材料として3Dプリンターのフィラメントや樹脂が注目されており,これまで人の手で製作されてきた時代から機械を用いて製作される時代へと変化しつつある。

図2 模型材料の登場年代と代表的な作品

1-3 模型に関する言説
 これまで建築家は模型に関して多くの論考を残しており,模型の意義について述べている論考として野間6)や松井7)のものがある。
 野間は模型の意義として,「初期イメージを保ちながらスケールの序列を見極める重要なツールであり,模型を設計プロセスの中心に据えることは建築表現を豊かにすることである」6)と述べている。
 松井は模型の意義として,「模型単体ではなく,模型を含めたアクターネットワーク空間の広がりである」7)と述べている。

第2章 模型の物理的構成
 ここでは,模型の「製作範囲」として,模型の土台部分と,設計した本体の建物部(以下本体)の製作範囲に着目して分析を行った。
2-1-1 模型の製作範囲
 土台の製作範囲では,以下の2つに大別できる。
1)「A:本体のみ」:建物本体と土台のみの模型で,169事例ある。
2)「B:本体+周辺」:建物本体に加え,敷地あるいはその周辺を含めて製作する模型で,291事例ある。
2-1-2 本体の製作範囲
 本体の製作範囲では,本体をどの範囲まで製作しているかに着目して分析した。その結果として,以下の4つに大別できる。
1)「1:外観のみ」:本体の外装部に窓や扉のような開口部などの部位を製作したもの,またはそれらの部位を製作せずに本体の大まかな形態のみを製作している模型のことを指す。これは242事例ある。
2)「2:外観+内観」:本体の外装部に窓や扉など建築的な部位を製作しているだけでなく内部空間まで製作している模型のことを指す。これは108事例ある。
3)「3:部分」:模型において,本体のある部分のみを製作している模型を指す。1/1スケールで接合部などを製作する模型や,躯体部分のみを製作する模型がこれに含まれ,48事例ある。
4)「4:断面」:本体を垂直方向や水平方向の断面で切断した模型,または屋根や壁などを取り外し可能,またはそれらを省略する模型のことを指す。これは62事例ある。
 これまで述べた,土台と本体の製作範囲より,図4に示す8つが主な「模型の製作範囲」であると言えよう。(図3)

図3 模型の製作範囲

2-2 模型の構成要素
2-2-1 材料

 材料に関しては,本体にどの材料を採用しているかに着目し,スチレンボード,木質系材料,金属系材料,プラスチック系材料,スタイロフォーム,石膏,粘土などが用いられていた。中でもスチレンボードが最も多く,289事例で採用されている。
2-2-2 添景
 添景には「人」,「家具」,「樹木」,「乗り物」の4つがある。それらは表現内容により以下の2つに分けることができる。(図4)
1)「活動」を表現する添景:「人」と「家具」の添景。
2)「環境」を表現する添景:「樹木」と「乗り物」の添景。
 各添景はそれぞれさらにタイプ分けすることができ,添景の有無やタイプは,時代によって主流が変わるだけでなく,建築家の作家性とも関係があり,建築家の個性が強く表われていると言えよう。
2-2-3 周辺部
 敷地の周辺部(模型が敷地内のみを製作している場合は本体の周辺部)に関しては,「街区・道路」,「建物」,「自然物」の3つの要素で製作されていることがわかった。
 これらの要素を用いて,製作される周辺部では製作する範囲により以下の2つに大別できる。(図5)
1)「近傍製作」:前述した要素を用いて,建物の敷地内,または敷地の近傍を製作しているものを指す。これは153事例ある。これは,前述した要素のうち,「街区・道路のみ」のように,1つの要素のみを用いて周辺部を製作しているものが多い。
2)「広域製作」:前述した要素を用いて,敷地の近傍だけでなく,広域の周辺部を製作しているものを指す。これは114事例ある。

図4 添景について
図5 周辺部について



2-3模型の基本形式
 これまで述べた模型の「製作範囲」と「構成要素」の組み合わせを分析し,顕著な模型の形式(以下基本形式)を抽出する。組み合わせは98通りあり,模型の形式は実に多様である。(図6)一方で、8つの形式では、該当事例数が12以上あり、顕著に製作されていることがわかる。(表1,図7の①~⑧)以上の結果より、8つの形式を基本形式と定義し,図8に示す。
また、例として以下に3つ示す。「③:本体部分(木)」型:これは,「製作範囲」が,(A-3:本体のみ-部分)である。「構成要素」は,木質系材料を採用し,添景を配置しない模型の形式であり,20事例ある。「⑥:広域外観-環境」型:これは,「製作範囲」が,(B-1:本体+周辺-外観のみ)である。「構成要素」は,スチレンボードを採用し,「環境」を表現する添景を配置し,周辺部を「広域製作」している模型の形式である。これは38事例あり,最も該当事例数が多い。「⑧:近傍内外-活動・環境」型:これは,「製作範囲」が,(B-2:本体+周辺-外観+内観)である。「構成要素」は,スチレンボードを採用し,「活動」,「環境」を表現する添景を配置し,周辺部を「近傍製作」している模型の形式である。これは20事例ある。

図6 「製作範囲」と「構成要素」の組み合わせと該当事例数




図7 模型の基本形式

第3章 模型の目的・意図
 ここでは,模型写真の読み取りと解説文の精読から,模型の製作目的と設計者が模型を通して伝える意味内容(以下表現意図)に着目して分析を行う。
3-1 模型の製作目的
 模型の製作目的は設計段階と関係があり,設計の過程でスタディを目的として製作する模型(以下スタディ模型)と設計の過程あるいは終了後にプレゼンテーションを目的として製作する模型(以下プレゼン模型)の2つに分けられる。スタディ模型においては検討内容によって「形態の検討」,「配置の検討」,「内部の検討」,「構造の検討」,「解析」の5つに分けられる。またプレゼン模型は全ての模型がプレゼンテーションを目的に製作されている。
3-2 プレゼンテーション模型の表現意図
 ここではプレゼン模型に着目し,設計者が模型を通じて伝達しようとする表現意図の整理を行った。その結果,図9に示すように「外観・空間構成」,「生活・活動」,「外部空間」,「コンセプト・構造」の大きく4つが存在することがわかった。
1)「外観・空間構成」:本体の形態や空間構成,ファサードのデザイン,素材についての表現を意図したもの。本体を詳細に作り込んだ模型が多い。
2)「生活・活動」:建物内での生活や活動についての表現を意図したもの。内装まで詳細に作り込んだ模型や人や家具の添景を配置した模型が多い。
3)「外部空間」:周辺環境や配置の他に,外構についての表現を意図したもの。敷地周辺を丁寧に作り込んだ模型が多い。
4)「構造・コンセプト」:建物全体のコンセプトや構造についての表現を意図したもの。コンセプト模型や構造模型が多い。

図8 プレゼンテーション模型の表現意図

第4章 模型の変遷と建築思想,社会背景との関係
4-1 「物理的構成」と「目的・意図」の関係

 ここでは,2章で述べた模型の「基本形式」と3章で述べた模型の「製作目的」・「表現意図」の3つの関係の分析を通じて,顕著な模型のタイプの抽出を行った。分析の結果,組み合わせの該当事例数が6つ以上の顕著なタイプが9つあることがわかった。抽出したタイプの名称を示す。(図9)また,具体的な分析例として以下に2つ示す。
 【M-5:内部空間模型】は「④:本体断面-活動」型の形式で,「内部空間」と「アクティビティ」を表現するプレゼン模型である。代表的なものに,「ぐんま国際アカデミー」(C+A)がある。(図10)【M-7:周辺環境模型】は「⑥:広域外観-環境」型の形式で,「形態」,「外観」,「周辺とのスケール感」,「周辺環境」を表現するプレゼン模型である。代表的なものに,「同潤会青山アパート建て替え計画」(安藤忠雄建築研究所ほか)がある。(図11)

図9 模型のタイプと代表的な模型
図10 ぐんま国際アカデミー
図11 同潤会青山ビル建て替え計画


4-2 模型の時代ごとの傾向
 前節で分類した9つのタイプを時系列に並べ,その変遷を見る。その結果,傾向として5つの時代に分けることができた。(図12)
1)本体や敷地内の表現(~1980年頃)
 この時代は,【M-6:本体+外構模型】が多く製作されていることがわかる。このタイプは,本体だけでなく,周辺まで製作しているが,表現意図との関係を踏まえると,本体と外構を表現する模型であることがわかる。これより,この時代は都市など,敷地外の周辺環境に対してはあまり意識的ではなく,模型において,本体や敷地内の表現が重視された時代である。
2)模型の減少(1980年頃~1986年頃)
 この時代は本体や敷地内の表現に傾注していた1)の時代と比べ,【M-2:外観模型】が増加していることがわかる。しかし,この変化は微少な変化であり,明確な模型の傾向を読み解くに至らなかった。また,この時代はサンプル数が他の時代と比べると特に少ないことがわかる。これらを踏まえて,この時代は模型の減少の時代と推測できる。
3)テーマの拡散(1986年頃~2000年頃)
 この時代は模型の種類と表現が一気に多様化した時代である。2)の時代から継続して見られた模型に加え,【M-4:構造模型】のように構造を表現する模型が見られる。また1990年頃からは【M-5:内部空間模型】など,「活動」を表現する添景が配置された模型が多く作られた。このように,本体や外部空間だけでなく,アクティビティを表現する模型などが共存しており,模型の種類,表現意図ともにテーマが拡散した時代である。
4)新たな模型の模索(2000年頃~2007年頃)
 この時代では事例数は多いが,特筆すべき模型のタイプは見当たらず,前の時代まで多数見られた支配的なタイプが減少していることがわかる。これらを踏まえると,新たなテーマを模索している時代であったと言えよう。
5)表現意図の明瞭化(2007年頃~現在)
 この時代は事例数こそ減少傾向にあるが,特定の特徴的な模型が多く見られる。2005年頃から現われた,【M-1:形態スタディ模型】のようにスタディプロセスを開示するような模型や構造躯体を表現する【M-4:構造模型】など,特定の目的の模型が掲載されたり,表現意図が明確な模型が増加する傾向があり,模型の表現意図が明瞭化した時代である。

図12 模型の変遷と時代ごとの傾向,サンプル数の推移

4-3 模型の変遷と建築思想,社会背景との関係
 次に,4-2で明らかにした,模型の変遷と建築思想,社会背景との関係について考察する。(図12)
 考察の結果として,「思想の反映」,「模型の先行」,「社会背景の反映」の3点に整理して以下に論じる。
1)思想の反映:分析の結果,模型に対する建築思想の反映が見られることがわかる。1980年代から流行したポストモダンの形態や装飾への意識が模型に影響を与え,【M-2:外観模型】が見られるようになり,それ以前の本体や敷地内の表現の時代から転換している。同様に,2000年の「せんだいメディアテーク」(伊東豊雄)に代表される構造表現やエンジニアリングへの関心が模型に反映され,【M-4:構造模型】が復活したと考えられ,建築思想と模型の変遷の深い関連を読み取れる。
2)模型の先行:思想が模型に反映するだけでなく,模型が思想より先行する関係も見られる。2000年に小嶋一浩が「アクティビティと空間」8)を説いたが,1990年頃から【M-5:内部空間模型】などが増えており,模型で「アクティビティ」を表現する潮流がわかる。
 これより,模型は建築思想から影響を受けてのみ変化するだけでなく,象徴的な模型が後の建築思想や模型のタイプに表われる現象も読み取れる。
3)社会背景の反映:社会背景は時代ごとの模型の傾向に影響を与えていると考えられる。1986~1991年のバブル期における多様な建築表現は模型のテーマの拡散をもたらした。
 また,大きく影響を与えたのは,3DソフトやCGの一般化である。これにより,模型の利用が衰退し,新たな模型の意義を模索する時代へと移行した。このように社会背景は模型の変遷に大きな影響を与えていることがわかる。
 また,模型の変遷の分析において,模型の系統も見られる。【M-2:外観模型】の系統として,【M-3:アクティビティ模型】があると考えられる。これは1990年代からアクティビティなどを表現する傾向が見え,それにより模型の形式が変化し【M-3:アクティビティ模型】になったと推測できる。また,【M-5:内部空間模型】では,これまで本体と同調の「人」の添景を配置することが多かったが, 「ぐんま国際アカデミー」(C+A)などで色つきの「人」の添景が配置されたことをきっかけに同様の添景を配置する模型が見られるようになり,添景が変化したことによる模型の系統と言えよう。
これらの関係を図示すると図13のようになり,模型は設計者個人の自由な表現媒体に留まらず,時代や思想から影響を受けながら変化していることがわかった。

図13 模型の変遷と建築思想、社会的背景との関係

4-4 模型の意義の考察
 これまで述べたことを踏まえ,模型の意義を考察する。かつて模型は3次元で表現できる唯一の媒体であったことから,複数の設計意図を並列に表現することがその意義であった。しかし2000年頃からCGなどの表現技術が確立したことで,その意義は取って代わられたと言えよう。その後,模型の意義を模索する中で,近年では,【M-1:形態スタディ模型】や【M-4:構造模型】が多く見られる。これらは,単一の表現意図や目的を強調して表現する模型であると捉えられる。これを踏まえて,複数の意図を並列に表現できるCGなどに対して,単一な意図を強調して伝えることが現在の模型の意義であると考察する。

結章 結論と展望
 本研究では模型と建築思想との関係を明らかにするため,模型の「物理的構成」と「目的・意図」という視点から分析を行った。模型の「物理的構成」では,多様な模型の形式から顕著な形式が8つあることを明らかにした。また,「目的・意図」の整理を行い,それぞれ大きく分けて,「製作目的」として2つ,「表現意図」として4つあることを明らかにした。模型の変遷と建築思想や社会背景との関係では,模型の傾向として,5つの時代に分けることができた。また,模型の変遷と建築思想,社会背景との間に3つの関係があることがわかった。これより,模型は建築家の作家性に委ねられる自由な表現媒体であるだけでなく,時代や思想から影響を受けて変化するものであることを明らかにできたことが本研究の成果である。
 また,本研究の課題として,時代ごとのサンプル数にばらつきがあり,特に1980年頃~1986年頃に関しては,サンプル数の少なさから,明確な模型の傾向を明らかにするに至らなかった。本研究は『新建築』に掲載のある模型を対象にしたことため,その他のメディアに掲載されている模型の分析や実際に設計者にヒアリング調査を行うことで,さらに記述できる可能性がある。

【参考文献】
1)大森真樹ほか:建築作品の外観模型にみる構成表現,日本建築学会大会学術講演梗概集,2013
2)奥山信一ほか:現代建築作品の模型写真における空間表現,日本建築学会大会学術講演梗概集,2016
3)新建築:新建築社,1975年1月~2023年9月
4)今村創平:建築模型小史,JA no,91 2013 p.24-27
5)藤村泉:建築模型の歴史, 文化財, no. 226, 1982, p.12–19
6)野間健作:ヴィジュアルプレゼンテーション 模型の意義,建築雑誌1317,1991-1
7)松井健太:設計教育と模型,建築雑誌1764,2022-10
8)五十嵐太郎,菊池尊也:現代建築宣言文集,彰国社,2022

【図版出展】
図10 新建築:新建築社,2004年10月号 p,126-127
図11 新建築:新建築社,2012年12月号 p,192

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