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スイス・オーストリアにおける大規模木造建築の設計手法 –構造形式と外皮に着目して-

修士2年の早川です。修士研究の途中経過を報告致します。

1.研究の背景

1-1.中央ヨーロッパと大規模木造建築の発展

中央ヨーロッパに位置するドイツ、スイス、オーストリアは現代木造建築の先進国である。3国は豊富な森林資源を有しており、100年以上にわたり持続可能な森林管理を行ってきたという共通点がある。各国の森林率はドイツが31.7%、スイスが30.9%、オーストリアが46.7%である。3国は、世界中で森林が減少傾向にある中で森林面積が増加しており、こうした森林管理によって生み出される豊富な土壌を活かして、技術力の高い木造会社、職人が多く存在し活躍している。1990年代には、職人たちによってこの3カ国でほぼ同時期に、同時並行でCLTが開発された。CLTの開発と共に、木材との相性が良い省エネ環境技術が同時期に発展したことによりプレハブ技術が普及し、2000年代から現代にかけてはデジファブ技術、施工技術の向上に伴い、エンジニアリングデザインの幅が拡張した。また、この3国で木造建築に焦点を当てた建築コンペが開催されていることもあり、意匠性を重視した木造建築が多く存在する。そのため3国では、国や州による支援に加え、林業従事者、製材工、建築家、構造家、施工技士を始めとした建築に関わる業種の協業が大規模木造建築の発展を促進している。

1-2.スイス・オーストリアの木造建築に見られる先進的な技術

中でもスイス・オーストリアは、集成材とコンクリートを一体化した合成スラブの定着やCNCマシンの普及によって、8階建てのオフィスビルや3次曲面の木造建築の建設が可能となっている。さらに、スイス・オーストリアは国独自の省エネルギー基準(「ミネルギー・P」「クリマアクティブ基準」)を設けるなどの環境政策によって、建築には様々な環境的配慮、環境技術が散見される。また、スイス・オーストリアと日本には森林が多いといった共通点があり、CLTを始めとした大断面集成材を用いた建物の着工数が増加中である我が国において、スイス・オーストリアの大規模木造建築を調査することは、わが国の大規模木造建築の発展に大きく貢献する知見が得られることが期待できる。

1-3. 大規模木造建築の架構形式と外皮

近年、プレハブ技術やデジファブ技術の向上に伴って大規模木造建築の架構形式は多様化していることが予想される。また、木材は構造体だけでなく下地材、外装材といった外皮に使用することが可能であり、建築において木材の利用方法は様々である。また、内部と外部のインターフェースを担う外皮の設計には、断熱・気密性等の環境性能と周辺環境との調和等の意匠的な観点の両方の側面を持つ。

2..研究の目的

本研究の目的は以下の5点とする。

①架構形式と外皮に着目してスイス・オーストリアの大規模木造建築の構成を分析し、架構形式と外皮の関係性を明らかにする。

②HP、雑誌等に掲載されている施工写真、資料からプレハブ化や施工方法等の技術的な特徴を明らかにする。

③スイス・オーストリアの大規模木造建築の外皮に見られる環境的配慮、環境技術を明らかにする。

④スイス・オーストリアの大規模木造建築に関する法規、制度等を明らかにする。

⑤総合的に踏まえて今後の日本における大規模木造建築の在り方を考察する。

3.研究の対象及び方法

3-1.研究の方法

前述したように、ヨーロッパ中部に位置するドイツ、スイス、オーストリアは、大規模木造建築の先進国である。本研究室では、2019年にドイツ南部の調査を行っている。そこで2021年9月にスイスとオーストリアに赴き、大規模木造建築を対象に現地調査を行った。(図1)現地においては、実測調査をすることで図面等の不足情報を補うと同時に、実空間を自身の目で確認し体験することで、空間構成だけでなく、構造や構法、外観、素材の劣化具合等の分析を行った。また、スイス・オーストリアの大規模木造建築に関する書籍や論文、建築家のHP、施工写真等を参考文献とし分析を行う。

図1 現地調査を行った日程と地域

3-2.研究の対象

研究の対象は現地調査を行った26作品である(表1)。対象の選定は、1990 年代にCLTの構造体への使用が承認されたことを皮切りに大規模木造建築が発展したことから1990年以降に竣工した建築作品とする。また、架構形式が木造(混構造を含む)であり、建築基準法6条1項ニ号と三号に規定されている以下の条件いずれかに該当するものとする。

①建物の階数が3階以上のもの

②高さが13mを超えるもの

③軒高が9mを超えるもの

④延べ面積が500㎡を超えるもの

表1 現地調査リスト

番号現地調査建物名称設計者名所在地用途
F1スイス木材管理大学Marcel Meili,Markus Peter Architekten with Zeno VogelBiel,Switzerland専門学校
F2オベレワイド住宅団地Proplaning AG ArchitektenArlesheim,Switzerland集合住宅
F3ワイラーパークRolf MuhlethalerBerne,Switzerlandオフィス兼集合住宅
F4ゲバルト通りの集合住宅Halle 58 Architekten GmbHBerne,Switzerland集合住宅
F5バーデナーシュトラーセの住宅兼商業施設pool ArchitektenBadenerstrasse 376, 8004 Zürich, Switzerlandスーパーマーケット兼集合住宅
F6タメディア新本社Sigeru BanWerdstrasse 21, 8004 Zürich, Switzerlandオフィス
F7ウォルフラムプの住宅兼商業施設burkhalter sumi architektenWolframpl. 21, 8045 Zürich, Switzerland集合住宅
F8フライラガーの住宅団地Rolf MuhlethalerFreilagerstrasse 54, 8047 Zürich, Switzerland集合住宅
F9オメガ・スウォッチ社(スウィッチ本社ビル)Sigeru BanBiel,Switzerlandオフィス
F10オメガ・スウォッチ社(シテ・デゥ・タン)Sigeru BanBiel,Switzerland複合施設(博物館、ホール)
F11オメガ・スウォッチ社(オメガファクトリー)Sigeru BanBiel,Switzerland時計工場、時計倉庫、オフィス
F12メッツラーホルツKG – 保管倉庫Hermann KaufmannWilbinger 661 · 6870 Bezau,Austria倉庫
F13オルツブントの集合住宅Hermann KaufmannHamerlingstraße 12,Dornbirn, Austria集合住宅
F14メッツラーホルツKG – フライングルーフHermann KaufmannWilbinger 661 · 6871 Bezau,Austria倉庫
F15アルマインテイルヴェッグの住宅団地Hermann Kaufmann,Grafisweg 21, 6713 Ludesch, Austria集合住宅
F16ヴェルダーハウスBA1Hermann KaufmannWilbinger 661 · 6872 Bezau,Austriaショップ、オフィス、倉庫
F17ヴァイラーのサターリュティHermann KaufmannWalgaustraße 7, 6845 Weiler, Austriaスーパーマーケット
F18ディートリッヒの中学高等学校Dietrich/ Untertrifaller Architekten ZT GmbHTreietstraße 17b, 6833 Klaus,Austria学校
F19ローアバッハのサターリュティHermann KaufmannRohrbach 22, 6850 Dornbirn, Austriaスーパーマーケット
F20リューデッシュコミュニティセンターHermann KaufmannLudesch,Vorarlberg,Austriaコミュニティセンター
F21SOHMホルツバウオフィスの拡張Hermann KaufmannAlberschawende,Vorarlberg,Austria倉庫兼オフィス
F22ライファイゼン銀行新本社Hermann Kaufmannegg,Austriaオフィス
F23ヴェルダーハウス BA 2Hermann KaufmannWilbinger 661 · 6873 Bezau,Austria倉庫
F24ウンターフェルト通りの住宅団地Hermann KaufmannLudesch, Austria集合住宅
F25ライフサイクルタワーワン(LCT-One)Hermann KaufmannFärbergasse 17b, 6850 Dornbirn, Austriaオフィス
F26ヴェルクラウム・ブレゲンツァーヴァルトAtelier Peter Zumthor und Partner, HaldensteinHof 800, 6866 Andelsbuch, Austria美術館

4.建物の構成-構造形式と外皮

ここでは現地調査を行った大規模木造建築の構成を架構形式と外皮(CWまたは下地、外装材)に着目し、スイス・オーストリアの大規模木造建築に見られる建物の構成を分析し、スイス・オーストリアに見られる大規模木造建築の特徴を明らかにする。

4-1.構造形式

構造形式は研究対象26事例中、柱梁構造が14事例、壁式構造が10事例、外郭構造が1事例、不明が1事例であった。(図2)また、純木造が17事例、混構造が8事例であることから、純木造のものが多く存在する。

図2 構造形式

柱梁構造は、純木造が6事例(A、B、C)、混構造(D、E、F、G)が8事例であり以下のように分類することができる。(図3)

図3 柱梁構造の分類

壁式構造は合成スラブを用いたFを除いたすべてにおいて純木造であり、垂直部材が集成材か枠組みか、水平部材が集成材か箱桁かに分けて以下のように分類することができる。(図4)

図4 壁式構造の分類

4-2.外皮

4-2-1.外皮の分類

外皮は大きくCWと下地+外装材に分けることができる。以下のようにさらに分類することができる。(図5)

図5 外皮の分類

4-2-2.外皮に見られる環境技術

①複層(2重、3重)ガラスの設置(図6)

本研究の対象26事例のうち20事例に複層ガラスが設置されていることから、スイス・オーストリアでは、複層ガラスが一般的に普及している。窓ガラスを複層にすることで、透明性を保ちながら断熱性、遮音性を高めている。ガラス面の熱貫流率(Ug値)は、数値が低いほど優れた断熱性を持つことを示しており、スイス・オーストリアの2重ガラスのUg値は1.4W/㎡K、3重ガラスのUg値は0.6〜0.76W/㎡Kであった。また、サッシやブラインドと合わせた熱貫流率を示すUw値は、0.91〜1.4W/㎡Kであった。

図6 3層ガラス(筆者自身で撮影)

②木製サッシ

研究対象26事例中9事例に木製サッシ(F2)が見られた。スイス・オーストリアは木製サッシ、アルミクラウドサッシの採用が主流であるドイツと隣接していることからも、木製サッシが積極的に採用されている。形状や材質によって異なるが、一般的にアルミニウムの熱伝導率が約226~237W/mkであるのに対して、木材の熱伝導率は約0.09~0.18W/mkであることから、木材の方が断熱性能が高い。さらに、断熱性能が高いことから結露せず、断熱性能の高いガラスと併用することで湿気によるカビの発生を抑えることも可能である。

日本国内においては、未だアルミサッシが主流であるが需要が減少傾向にあり(2021年次:161,000t、2022年:154,000t)、環境に配慮した木製サッシの需要が高まっている事が予想される。しかし、木製サッシの製造拠点の少なさ、材料費の高さ等の理由から木製サッシの販売価格は高く、メンテンナンス性に欠けることからも、普及率は未だ低い。

図7 木製サッシを用いた事例(筆者自身で撮影)

③外付けブラインド

室内からブラインドの角度や高さを調整できるものがほとんどであるが、大規模な建物になると、すべてを人の手で管理することが困難であり手間であるため、F3、F25においては自動調節機能が備わっている。F3においては、熱伝導レールを使用しており、太陽光が当たると自動的に日射量を感知し、自動的にブラインドを調整するシステムを採用している。また、F25においてはSMIと呼ばれる駆動装置を備え付けた外付けブラインドとローラーシャッターが備わっており、ローラーシャッターは開口部を強い雨風から守る役割を担っている。
スイス・オーストリアの平野部では夏の気温が30℃以上になることもあり、冷房のない建物も存在するため、日射遮蔽と夜間冷却が重要である。そのため、内付けブラインドに比べ日射取得の小さい外付けブランドが普及していると考えられる。外付けブランドは、雨風にさらされることから内付けブラインドに比べ、劣化しやすく、汚れが目立つためメンテンナンスに手間がかかるとの理由から日本においてはあまり普及しておらず、内付けブラインドが主流である。

ブラインドの素材にはグレーや白を基調とした膜でできた材が一番多くみられたが、横型ブラインドのスラッドにおいては木製のもの(F4)も散見された。F20にみられた布材はSoltis92-2046というポリエステル製で太陽の熱を97%を遮断する性能をもつ。(図8)

図8 特徴的な外付けブラインド(筆者自身で撮影)

④断熱材

スイス・オーストリアでは、アルプス地方を中心に羊やヤギの放牧が盛んに行われていることもあり、断熱材に羊毛を用いる事が多い。羊毛の融点は、1000℃と高いことから綿やポリエステルのような可燃性の繊維に比べ耐燃性があり、熱伝導率が0.05W/mkと低いことから断熱材としての利用に適している(F20)。さらに、天然素材であるため木造建築に利用した際には、共に燃やすことが可能であるため分別の必要性がなく解体が容易である。また、本来下地には断熱材と共に防湿シートが必要であるが、防露シートで巻かれた羊毛断熱材(F7)は、防湿シートを設置しなくて済むため、施工手順が減り、工期の短縮化に繋がる。

図9 天然素材、羊毛を用いた断熱材(筆者自身で撮影)

5.スイス・オーストリアの特徴(日本との比較)

5-1.防火性能

5-1-1.オフィスビル(高層の柱梁構造)

LCTOneは、最高高さ27m、8階建ての柱梁構造のオフィスビルである。LCTOneの防火基準は主にOBIガイドライン2.3『高さ22mを超える建物』に従って計画されている。避難ルートの確保として、耐荷重構造物および補強構造物、安全階段および安全階段の踊り場、安全階段の壁は、90分耐火で A2(非可燃性の建材で、直接的な炎にさらされても燃えず、火災の拡散に寄与しないもの)に準拠するものと規定されている。避難階段であるコアは火災安全性を確保するためRC造で計画されている。水平部材においては、コンクリートと木材による複合スラブが用いられている。この手法を用いることにより、床の剛性を高めると同時に、コンクリートの耐火性能により90分耐火基準を満たし火災安全性を確保させている。この手法を用いることにより、天井に木材の面を露出させる表現が可能となる。重力荷重を担う垂直部材は、建物の外側に約3メートル間隔で配置された集成材の柱が担っている。この柱は防火のため構造上の要件よりも大きな寸法、約230mm×470mm角の材で設計されている(図11)。そのため、柱には厚み約38mmの木材が追加され、火災時には炭化層を形成することで60分耐火基準を実現している。(図10)

参考文献 avo 89 LifeCycle Tower.indd (v-a-i.at)

図10 60分耐火基準を満たした集成材の柱(現地にて実測)

日本の事例として取り上げる『Port Plus』は、最高高さ44m、11階建ての木造建築である。日本の建築基準法では、防火地域内で100m²以上の建物を建てる場合などに耐火性能が必要とされ、5~14階建ての建物を建てる場合は2時間耐火構造とする必要があることから、都市部で中大規模木造建築を建設するためには、耐火被覆を行なう必要となる。そこで『Port Plus』ではオメガウッドと呼ばれる柱と梁が用いられている(図11)。表面はスギ羽目板を使用しており、厚さ21mmの石膏ボードを三枚張りした燃え止まり層と燃えしろ設計により、1階は3時間、2〜7階は2時間、8階~11階は1時間の耐火認定を取得している。工場でプレハブ化したオメガウッドを使用することのできない部分は、現場で石膏ボードを三枚張ること、石膏筒を用いることで耐火性能を確保している。

参考文献 shinkenchiku.online

図11 オメガウッド (obayashi.co.jpから引用)

日本において耐火認定を取得した材を用いる、RCコアを用いるといった点はスイス、オーストリアと共通しているが、耐火基準が大きく異なりスイス、オーストリアに見られるような純木造の柱と梁でオフィスビルを設計する事は現状不可能である。日本では、耐火基準に適応するため、柱と梁には石膏ボードを張るといった処置を施すことによって高層の木造建築を実現することが可能ではあるが、施工手順と材料が増え、建築費が増加するといった問題が発生してしまうのが日本の現状である。さらに、純木造の柱であれば解体時に廃棄またはリサイクルを行うことが容易であるが、石膏ボードで被覆された木材はリサイクルすることが困難であると同時に、廃棄する際の解体費用がかさむといった問題がある。

5-2.加工技術

オメガスウォッチ本社においては、スイスを拠点とするBlumerLehmann社によって施工が行われ、X軸、Y軸、Z軸に加えてヘッドが回転する5軸のCNC加工機によって曲線をを用いた加工を行うことが可能である(図12)。BlumerLehmann社が取り扱っているCNC加工機は主にSPM2、Hundegger K3、Weinmann WMS、TW-Mill 2015の4種類である。SPM2は、壁や床に使われる様々な集成材だけでなく、石膏ボード等の面材を切断する機械である。加工可能な面材は厚さ5mm〜120mm、最小寸法600mm×600mm、最大寸法2800mm×8000mmである。Hundegger K3は切断、穴あけ、フライス加工、プレーナー加工などを行う機械で、複雑な接合部や曲線を用いた柱や梁の製造が可能である。あらゆる種類の木製部材に対応しており、加工可能な材の最小寸法は20mm×50mm、最大寸法は300mm×1300mmである。Weinmann WMSは釘打ち、穴あけ加工、フライス加を行う機械で、箱桁や枠組み壁を形成することが可能である。加工可能な材の寸法は厚さ500mm、3800mm×12000mmである。TW-Mill 2015は5軸の加工と組立が可能であり、3台の加工機と8台の台車を備えている。最大寸法で厚さ5500mm、27000mm×1350mmの材を加工することが可能である。(図13)すべての機械に共通して、必要に応じてマニュアル組立テーブルが備え付けられ、組立を行うことが可能である。

参考文献 blumer-lehmann.com

図12 CNC加工機を用いて加工した柱と梁(筆者自身で撮影)

図13 TW-Mill 2015(blumer-lehmann.comから引用)

6.予想される結論

架構形式においては、壁式構造と柱梁構造が主流であるという点は日本と共通であるが、外装材においては木材を用いた事例が多くみられ、木材の風化を楽しむといったスイス・オーストリアならではの価値観が背景にあると考えられる。

日本は大規模な木材を加工するCNCマシンが普及していないこと、生産拠点が少ないこと、木造に特化した専門のエンジニアがいないことが大きな課題である。パラメトリック3Dプランニングに関しては、日本では存在しない領域のエンジニアであり、日本で実現させるには木造に特化した専門家を輩出させる教育体制の整備等の人材育成が必要であると考えられる。

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