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熱可塑性を持つ素材の分析と建築への採用可能性

学部4年の鶴田です。春学期の小論文の成果について報告します。

  はじめに
0-1. 研究の背景
 現代ではSNSやVR等のデジタル技術の発展により擬似的な空間体験が可能になっている。また建築は基本的に強固で動かないものと考えられていることから、建物の形態が変化することの可能性を模索しながら、実空間で人が過ごすことの意味を再度考える必要があるように思う。

0-2. 研究の目的
 人が建築の形に影響を与えるとどうなるのかという疑問から物質が変形する性質の中でも、熱によって物質が柔らかくなり冷えると固まる熱可塑性に着目する。人の体温による変形によって触った形跡が形として残ることや、気温といった外部環境によって素材の形状に変化が出ることがどのような可能性を持っているのかを考察する。

0-3. 研究の位置付け
 先行事例として建築の一部または全体が動く可動機構や、柔らかい素材を使った建築事例を参照する。

    図1. 可搬式建築          図2. 可動間仕切り         図3. 可動式屋根     
 これらの可変機構は人や建物からの要求に対して応答するために、機械的あるいは人為的に動く機構であるとまとめることができる。

      図4. 修士設計「雲」               図5. Weaving Carbon Fiber Pavilion

 このように柔らかい素材を用いた事例は、建てた後は変化がほとんどないものや、竣工後も自然環境によってのみ変化が起こる、視覚的な効果に着眼した事例がほとんどであった。
 以上の先行事例と本研究の相違点は熱可塑性による形態の変形という点にある。熱可塑性によって人が触れた形に形態が保たれるので、触る人の意図や行為が建築の形態に影響を与え、人と建築形態の相互関係がつくられることになることに新規性があると考える。

0-4. 研究の方法
 熱によって柔らかくなり温度が低くなると固まる熱可塑性を持った素材を選定し、力学的特性、変化の挙動をまとめた上でその応用例を示し熱可塑性の可能性を探求する。

  感温性フィラメント

2-1. 基本的性質
 ユニチカが3Dプリンターで造形後に低温域(45℃以上)で温めるだけで自由な形状へ変形できるフィラメントを開発した。

2-2. 実験
 感温性フィラメントの可能性を考えるために、どのような熱の与え方で変形が起こるのか、復元性はあるのかを確かめる実験を行った。また部材を繋ぐ接合部として応用することを考え、接合を想定する部材・強度の観点から接合部の形状をスタディした。

             表2. 感温性フィラメント 実験のまとめ

 実験内容結果
変形1mm、2mmの接合部を試作し、ドライヤー・外の日射熱(気温31℃)で温めて変形を試みる。1mm→両方の熱で変形可能2mm→ドライヤーのみ変形可能
復元性造形物を熱して変形後、再びドライヤーで熱する。変形した形が3Dプリント後の形に戻った。

                    図7. 接合部の形態スタディ

2-3. 提案趣旨
廃材を集めたり、その場にある棒状のものを拾い、熱で接合部を変形させ部材の形状に合わせながらジョイントしていく接合部を設計する。棒状の部材を接合していくだけでなく、手すりや樹木にも接合することで街に寄生するようにオブジェクトが建つ。

2-4. 形態
接合部は棒状の部材に対して径の大きさ・微妙な形状を変形できるような構造とする。中央のスリットが空いた部分が熱によって形状が変化することで色んな太さの部材を、色んな角度で接合することを可能し、端のリング状の部分が部材を固定するのに関与する。

2-5. 計画概要
躯体は接合部に多くの荷重を負担させない構造とし圧縮力のみ働くアーチ構造を想定する。アーチを同じ方向に並べてアーケード空間にしたり、アーチを回転させてドーム空間にしたり、アーチに布を被せて間仕切りにしたりアーチを基本として様々な形をつくる。

        図11. 外観パース

2-6. 感温性フィラメントの可能性
制作した接合部があればどのような場所にも比較的容易に空間をつくることができ、通路や空き地などが居場所化する。また棒状であればどんな部材でも接合できるため、身の回りにあるモノを自分で見つけてそれを生かそうという創造的な発想が生まれる。

  3. HUMOFIT

3-1. 基本的性質と実用例
三井化学は人の体温や熱で柔らかくなり変形するプラスチックシートを開発した。基本的な性質として熱可塑性つまり、人の形やモノの形が一定時間残る性質、温度が高くなるほど柔らかくなる温度依存性を持つ。

3-2. 実験

      表3. HUMOFIT 実験のまとめ

 実験内容結果
力学的性質シートを伸ばす、押す、寄りかかることでどのような変形となるか分析する。伸ばすと約2.2倍で、指で真ん中を押すと破れた。
復元性屋内(24℃)、ベランダ(31℃、直射日光なし、やや風あり)、芝生(31℃、直射日光、風あり)において座った後、どのくらいの時間で元の形状に戻るかを計測する。屋内:45分ベランダ:4分芝生:2分
環境的変化光、水、熱に対する反応を実験する。人工照明、自然光を柔らかく透過する。撥水性がある。おもりを乗せた状態で直射熱にさらされると変形量が増える。

3-3. 提案趣旨
HUMOFITの気温によって素材の変形度合いが変わる性質と、気温が低いと変形した形状が保たれる性質を利用する。昼は気温が高くシートの変形量が大きく、夜は気温が下がり変形量が少なくなり形状も記憶されるため昼と夜で内部空間に変化が生まれる。

3-4. 形態
人がシートに座ったり触れてシートが引っ張られたり、中央のおもりによって仕切りが上がり下がりをする。気温によってその変形の度合いや元に戻るまでの時間が変わり、仕切りや外皮など空間の性格が変わる。

3-5. モックアップ制作
3-4で示した基本単位のモックアップを制作する。木材(2×4、2×6、2×8材)、接合金具を用いて躯体を制作し、その上からHumofitで覆って完成させる。

3-6. 計画概要
・敷地:建物と建物の間の小さな空き地

・用途:地域性を表す旅行者のためのお土産屋、休憩所

・構造:木造(躯体)、HUMOFIT(外壁膜部分)

3-4の基本単位を3つ組み合わせて休憩所を設計する。昼は3つの仕切りが下がり中央の仕切りは上がっているので通路として機能し、夜は中央の仕切りが下がり3つの簡易的な宿泊部屋になる。

3-7. Humofitの可能性
最初は特徴のない空間でも、人が触れたり自然環境の変化によって空間に特徴が生まれ、使い方がどんどん更新されていく。また境界面が可変することによって内部空間に特徴が出るだけでなく、外部との関係も変わり影響を与える。

  4. 結論

4-1. 総括
熱可塑性を持った素材の特性を生かした応用例を模索した。感温性フィラメントは熱を加えた時の変形により、オブジェクトをつくりながら自分が考えている形態に合わせていくことを可能にするだろう。

またhumofitは座ったり物を置いたりという人の行為や、気温の変化という自然環境などその場所の状態によって形態に変化が出て、その場所に馴染んだ地域性を持った建築の形態をつくることにつながる。

4-2. 展望
今回の研究で対象にした素材のように、人が触れることで素材が変形することにより人と建築の部位が相互作用の関係を持った時、まちに暮らす人が建築の形態を通してまちの環境に作用することができると考える。また熱可塑性など素材に形状記憶性があればその作用が他の訪れた人にも影響を与え活動の連関を生む。この性質を生かせるような建築を他の素材も用いながら考えていく。

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