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ドイツ南部における大規模木造建築の設計手法

修士2年の小峰です。夏に行ったドイツでの現地調査を中心に、研究の経過をご報告したいと思います。

序章 研究概要
1.1. 研究の背景
1.1.1. 著しくヨーロッパに劣る日本の環境技術
近年では、世界的に地球環境と人間社会との共生の在り方が問い直されているが、日本は環境先進国から大きく遅れをとっている。一方でヨーロッパ諸国は素早い対応を見せており、特にドイツでは高い住民意識を背景に先進的な環境政策を推進し、環境保全を主眼に置いた町づくりに取り組んできた。ドイツで用いられているパッシブハウス基準によって求められる断熱性能は、日本の省エネ法による基準値の3倍近くにも及び、ドイツの現代建築を調査することは、日本の環境建築の発展に大きく貢献する知見が得られると期待できる。
1.1.2. 大規模木造建築の需要の増加
嘗ての天然木から作られる資材は、材料として不均一であり、強度や耐火性に欠けるとされてきたが、近年では技術の進歩により規制も緩和され、大規模木造建築の可能性は広がりつつある。木材の積極的な利用は地球環境保全の観点からも注目を浴びており、大規模木造建築の需要は今後更に増加していくと考えられる。
ヨーロッパで主流な木質パネルを用いたプレハブ工法は、非常に短い工期で、熟練した技術者でなくとも施工が可能であり、近年日本の木造建築が抱える職人不足の問題に対しても解決の糸口が見出せるのではないだろうか。特にドイツでは、現在建設されている新築建築の20%程度が木造によるもので、大規模な木造建築にも手を広げ始めている。今後、大規模木造建築の発展が見込まれる日本において、ドイツの大規模木造建築の設計手法は必ず参考にすべき事例である。

1.2. 研究の目的
①ドイツと日本の大規模木造建築に関する制度、法規の違いを明らかにする。
②デザイン的な観点と技術的な観点の双方から対象事例について分析し、ドイツの木造建築において特に環境技術を中心とした設計手法の特徴を明らかにする。
③今後の日本における大規模木造建築の在り方を考察する。

1.3.研究の調査対象と方法
1.3.1. 調査対象
1980年代(環境政策の制定)以降に建てられたドイツ南部における大規模木造建築の中で、図面や写真などの資料が入手できるものを対象とする。全15の事例であるが、ここでは代表的な事例を例に示す。また、全15の事例は、全て現地での実地調査を行なった。

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1.3.2.調査方法
①ドイツの大規模木造建築に関する文献調査、図面分析などにより設計手法を把握する。
②その上で、2019年8月にドイツ南部(図2)を中心とした実地調査を行い、更に分析を深める。

第2章 対象敷地及び対象建築の概要
2.1. ドイツ南部
本研究の対象敷地であるドイツ南部は、CLTを始めとする集成材の活用及び大規模木造建築の建設を先進的に行ってきたオーストリアやスイスと隣接しており、大規模木造建築の発展に最適な地域であると判断した。
気温の変動は–4〜24度程度と、高緯度にしては比較的過ごしやすい気候であると言える。
2.2. ドイツにおける木造建築の特徴
本研究で対象としているドイツの大規模木造建築について、現段階までの文献調査及び事例分析から得た特徴を以下に示す。
2.2.1. 施工
ドイツの木造建築では、主に壁式構造と柱梁構造の二種類が見られる。壁体は工場で事前に製造するプレハブ構法によるものが主流であり、設備の配管や開口、断熱材まで、全て完備された状態で出荷される。そのため、部品の運送手段に応じて、ユニットやモジュールが決定される場合も見受けられた。また壁式構造の場合には、現場での工期が大幅に短縮され、数日間の作業で完成した事例も多く、近隣住民への負担や天候による影響が低い。
2.2.2. 防火・耐火
ドイツでの木材による外装材の使用は一般的に3階までであるが、スラブレベル毎に壁体及び木質のファサードを金属製の帯で分断する手法(図3)によって、木製外装材を全面に施すことを実現している。また壁体のパネル自体の気密性を高め、壁体内部を真空に保つことも重要であるとされている。
計画上の工夫には、階段や通路などの避難経路のみをRC造で建設する手法と、階段やドア(開口)等を他の構造種別の場合に比べて過剰に設置する手法が散見された。
2.2.3. 環境性能
壁体を工場で製造する際に、断熱材やトリプルガラス等を内包・設置して熱損失を抑える工夫がなされている。またプレハブ工法により壁体そのものの機密性が上がることで、より高い断熱性能が得られると考えられる。また日本でも浸透しつつあるが、外付けブラインド、屋上及び壁面の緑化、ダブルスキンといった典型的なパッシブ的手法も当然多く見られた。
ドイツのパッシブハウス基準は有名な環境性能基準であるが、近年ではプラスエネルギーハウスのように、電気を使わない工夫に加え、消費する電気を自ら作り出すことにも取り組んでいる。太陽光パネルやヒートポンプ等、グリーンエネルギーの活用がドイツでは積極的であり、それらの活用を前提とした意匠設計がなされている。
2.2.4.  意匠性
外装材に木製ファサードを用いることが多いが、その際に繊維と目地を垂直方向に貼ることで、雨をより効率よく流し、乾きやすくする工夫も散見された。更に木材は傷や汚れを目立たせないため、堅牢性・持続性が高く、また輸送による影響も受けにくいとの記述も見られた。また、ドイツの人々は経年変化を楽しむ性質があり、木製ファサードには塗装を施しているが、変色等の変化も前提として木材を使用している。

第3章 実地調査を踏まえた事例分析
実地調査により内壁や外壁、天井の仕上げ材や、開口部のサッシ等、ディテールの観察ができた。次項の表2にまとめたように、天井は無垢材で仕上げ、内壁には石膏ボードを貼る場合が多く見られた。またサッシには木製のものや、木とアルミの複合サッシが一般的に用いられ、ほとんどはダブルガラス若しくはトリプルガラスがはめられていた。
以下にS、代表的な事例を挙げながら、具体的な調査・分析結果を示す。

3.1. KAMPA K8(1)

KAMPA

Florian Naglerによる設計で、木造住宅の製造会社であるKAMPAのオフィス兼住宅展示場として建てられた。柱梁構造で、建物内部では構造体である木の部材が表出している。外壁に突出した構造部分は、2センチ厚の木製の材で覆われていた。壁・天井・屋根全てにBSP材と呼ばれる集成材が用いられており、これらの要素は調査の限り、石膏ボードなどで被覆されていた。耐火性能を保つため、階段はコンクリートで建設され、階段室の壁面には石膏ボードによる被覆が施されている。また外装は木の仕上げとなっており、フロアレベル毎に金属製の帯が挟まれていた。環境性能としては、パッシブハウス基準を満たしている。

3.2. H8(4)

2

SCHANKULA Architektenによる設計で、オフィスと集合住宅として利用される、8階建ての木造建築である。製材を並べてパネル化したプレハブの壁による壁式構造で、壁には石膏ボードによる被覆を施し、コア部分はコンクリート造を用いることで耐火性能を保っている。また上記のK8同様、フロアレベル毎に金属製の帯が挟まれており、全面に木製外装材が施されている。床材にはCLTが採用され、天井部分では露出している。コア部分と木造部分は、それぞれ3週間と非常に短い工期で建設された。

3.3. Schmuttertal-Gymnasium(5)

1

Hermann KaufmannとFlorian Naglerの設計による学校施設であり、プラスエネルギー建築のモデルとして世界各地から注目を浴びている。天井には木とコンクリートの複合材が用いられ、木による仕上げとなっている。壁には木を中心としたプレハブのパネルが用いられ、構造を担っている。一階部分の内壁には石膏ボードが貼られているが、教室部分の内壁は木の仕上げとなっており、外壁には木製の外装材が施されている。学校施設のため防火・耐火性能の基準は厳しいが、過剰に開口を開けることで避難経路を確保し、屋根の開口からは煙を逃がすなどの工夫がなされている。屋上にはソーラーパネルの設置と緑化、開口部には日射の変化に合わせて自動調整される外付けブラインドが設置されるなど、環境的技術も多く見られた。

3.4. Parkplatzüberbauung am Dantebad(12)

4

Florian Naglerの設計による集合住宅である。壁はBSP材を用いたプレハブ工法で作られており、工場内で窓から外装材まで全て完備される。内壁は遮音性を高めるために石膏ボードを二層重ね、外壁は木製の外装材で覆われている。また天井はBSP材があらわしとなっている。耐火性能は、玄関側の通路をプレキャストコンクリートで構成することにより保持しており、ここでも前述のK8、H8と同様に、フロアレベル毎の金属製の帯を挟むことで全面に木製外装材を施すことを可能にしている。またバスルームもプレハブであるため、木造部分の施工は8週間と短い期間で完了した。

結章 予想される結論
ドイツの大規模木造建築においても、日本と同様に防火・耐火に関する制約が計画に大きな影響を与えている。また木材は軽量なため、耐風力などに関する工夫もいくつか記述されている。それらの理由から純粋な木造建築はほぼ存在しておらず、木造建築にもコンクリートや鉄骨等の異なる素材を柔軟な姿勢で適材適所に用いている。
今後は木製外装材に取り付けられた金属の帯状の部材や、天井の木仕上げ、コンクリート造のコア部分と木造部分の取り合い等、木造建築特有の部材や法規制、設計手法に着目すると同時に、環境技術に関する特徴も注目したい。

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