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ショッピングモールにおける形態の変遷に関する研究-1950年から2018年までの世界各地のショッピングモールを対象として-

修士2年の日野原です。研究の途中経過を投稿いたします。

序章 研究概要
0.1 研究の背景
近年、ショッピングモールは衰退していると言われることが多いが、アジアや中東、ヨーロッパなどでは発展し続けている。アメリカ合衆国で発祥したショッピングモールと現在のショッピングモールを比較すると、ショッピングモールは多様な「形態・装飾・用途」に発展している。また、レム・コールハースらは、建築空間としてショッピングモールに焦点を当て、ショッピングモールの発展プロセスに関する研究を行っている。レム・コールハースはショッピングモールを均一な空間であると言い、ジャンクスペースの一例であると言う。しかし、現在のショッピングモールは複雑で多様な空間が広がる。内部と外部と切り離されたテーマパークのような空間が広がる点やモール空間は迷路のような空間が広がる点を挙げる。一方、ショッピングモールは建築空間の研究対象として扱われることは少なく、1つのビルディングタイプとしての形態の変遷が曖昧である。遺伝情報や遺伝現象に着目したものはなく、形態の変遷を遺伝学レベルで記述したものもない。
そのため本研究では、ショッピングモールにおける形態の変遷を遺伝情報や遺伝現象に着目することで、ショッピングモールにおける形態の変遷を遺伝学レベルで記述し、社会学と形態学の観点から統括して考察することで、ショッピングモールの発展と衰退の要因を明らかにできるのではないだろうか。
0.2 研究の目的
a)ショッピングモールにおける形態の変遷を明らかにする。遺伝情報や遺伝現象に着目することで、ショッピングモールにおける形態の変遷を遺伝学レベルで記述する。
b)ショッピングモールにおける形態変化の要因を明らかにする。社会学と形態学の観点から統括して考察することで、発展と衰退の要因を明らかにする。
0.3 研究の位置付け
ショッピングモールの社会学における文献は多く、 発祥と発展の系譜が社会学の観点から分析されている。斉藤らは、世界各地のショッピングモールの発祥と発展を社会学的に分析している。若林らは、日本のショッピングモールの発展と社会情勢を比較考察おり、一部建築図面による簡易的な分析が行われている。
また、ショッピングモールの形態学における文献もいくつか存在し、モール空間に着目した分析が行われている。Maitlandは、モールの形態に焦点を当てた研究を行っている。モールはノードとルートで構成されており、与えられた状況に応じてさまざまな組み合わせでモールが形成される。また、モールスペースはランダムで絵のような中世の都市に類似していると指摘する。Baekは、既往研究で1950年代にエンクローズドモールが出現し、1970年代にオープンモールが出現した後に、エンクローズドモールとオープンモールを組み合わせたモールが出現するようになったという。そのため、Baekは新しいタイプのエンクローズドモールとオープンモールを組み合わせたモールの発展とその発展の理由に関する研究を行っている。Baekは、都市中心部と郊外のショッピングモールを比較し、位置に関する研究を行っている。また、ショッピングモールとローマのフォーラムにおける変容の流れや原因を分析し、変容のプロセスに関する研究を行っている。Koolhaasは、モールの基本タイプをダンベルタイプとクラスタータイプに分類し、2つの基本タイプを統合して 新しいボディを作成するプロセスとして、発展プロセスに関する研究を行っている。しかし、ショッピングモールを2つの基本タイプとして分析が始められているため、ショッピングモールの発祥が曖昧になり、遺伝情報が受け継がれ方が明確に分析されてない。また、形態の類型を明確に記述していない。さらに、ショッピングモールにおける形態変化の要因を、社会学と統括して考察されたものもない。そのため本研究では、ショッピングモールにおける形態の変遷を遺伝子レベルで記述し、社会学と形態学の観点から統括して考察する。

第1章 定義と手法
1.1 定義
1.1.1 ショッピングセンターの定義
ICSC(インターナショナルカウンシルオブショッピングセンター)が定めるショッピングセンターの定義3)は次の通りである。1つの企業が保有していること、比較購買ができること、比較購買できる店舗が多く1ヵ所に集まっていること、十分な駐車場があること、新しい社会をつくりつつあることである。
1.1.2 ショッピングモールの定義
ショッピングモールの定義が明確に記載されている文献はない。しかし、ショッピングセンターの中で特にモールの形態を持つものがショッピングモールと呼ばれることが多い。
1.1.3 研究対象
本研究ではショッピングセンターの条件を満たし、モールの形態を持つものをショッピングモールと呼ぶこととする。研究の対象は、発祥(1950年)から現在(2018年)までの世界各地のショッピングモールとする。
1.2 手法
1.2.1 遺伝学の概要
遺伝とは、生物の形質が親から子や孫に伝わることを意味する。形質を伝える際に必要とされる遺伝情報(遺伝子)は、次のような構成である。遺伝情報(遺伝子)はDNAに書き込まれており、DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質に絡みつく形で染色体の中に存在する。例えばヒトは、23本の染色体で1セットのゲノムが構成されている。
遺伝現象については、メンデルの法則で系統立てて説明されている。メンデルの法則とは、メンデルが発見した遺伝の規則性であり、3つの法則からなる。1つ目の分離の法則とは、「配偶子を作る際には親の遺伝子が分離して配偶子へ分配される」ことである。2つ目の優性の法則とは、「異なる遺伝子が核の中にあるとき、その表現型つまり体の性質として出てくるのは、一方の遺伝子の情報しか、体には出てこない」ことである。3つ目の独立の法則とは、「2つの遺伝子が別々の染色体にある」ことである。
また突然変異とは、内的要因や外的要因によって遺伝情報に変化が生じることである。「DNA上にたくわえられた遺伝情報は、世代を経ても安定に子孫に受け継がれて行くものである。しかし、地球上に生息するすべての生物は、太陽からの紫外線や生物を取り巻く自然環境、または人間が作り出した数多くの有害物質、放射線などにさらされている。このような外的要因の他にも、生物細胞自体の分裂、増殖、DNA複製の際の誤りが長い年月には少なからず起る可能性が考えられる。」
1.2.2 研究方法
本研究では前述した遺伝学の仕組みを利用して、ショッピングモールの変遷の分析を行う。ショッピングモールの変遷の分析を行うにあたって、遺伝学における遺伝情報(遺伝子)の分析は、ショッピングモールの形態の類型化を行うことで明らかにする。遺伝子を類型として、染色体をモールや装飾、用途として、ゲノムをショッピングモールの形態として分析を進めていく。また、遺伝学における遺伝現象の分析は、ショッピングモールの形態の系譜化を行うことで明らかにする。
さらに、社会学と形態学の観点から統括して考察することで、ショッピングモールにおける形態変化の要因を明らかにする。

第2章 ショッピングモールの再考
2.1 ショッピングに対する意識の変化
内閣府政府広報室による国民生活に関する世論調査では、心の豊かさと物の豊かさに対する結果が次のように報告されている。下の図からは、物の豊かさを重視する人が減少し、心の豊かさを重視する人が増加していることがわかる。さらには国土交通省による自動車輸送統計調査では2000年以前に自動車が普及したこと、総務省による通信利用動向調査では2000年以降にインターネットが普及したことがわかる。この自動車の普及とインターネットの普及が、ショッピングに対する意識の変化に大きく影響を与えたと考えられる。
2.2 ショッピングモールの形態とトレンドの関係
ショッピングモールの形態の変遷は、自動車の普及やインターネットの普及が大きく影響している。ショッピングモールの形態の系譜と比較すると、自動車の普及が進んだ2000年以前は物の豊かさを重要視していたため、購買を目的とした形態になっている。しかし、インターネットの普及が進んだ2000年以降は心の豊かさを重要視しているため、経験や体験を目的とした形態となっている。

結章 結論
3.1 予想される結論
a)ショッピングモールの形態は、類型化することや系譜化することができる。遺伝情報や遺伝現象に着目することで、ショッピングモールにおける形態の変遷を遺伝学レベルで記述することができる。
b)ショッピングモールにおける形態の変遷は、各時代のトレンドが表れている。表された系譜からショッピングに対する意識の変化が、形態変化に大きな影響を与えている。
3.2 今後の課題
今後は具体的な事例を形態・装飾・用途に分けて、分析を行っていく。

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